2023年、出演作の公開が相次ぎ多くの人を魅了した女優・安藤サクラ。ドラマ「ブラッシュアップライフ」で演じたのは、過去の記憶をもったまま人生を何度もやり直す主人公。おかしみと切実さを同時に伝える安藤の芝居が、一見“ありえない”設定のドラマを、日常の尊さを伝える作品へと押し上げた。続く是枝裕和監督の映画『怪物』では、『万引き家族』に続いてカンヌ国際映画祭に出品。国際的な女優としての存在感をさらに高めた。そして映画『BAD LANDS バッド・ランズ』では、原田眞人監督のもとでエネルギッシュなクライム1サスペンスに挑んだ。作品ごとに異なる顔を見せ、感性を刺激する作品を生み出した安藤。快進撃を続ける彼女はいま、なにを想うのか。
Pen最新号は『クリエイター・アワード2023』。私たちの心をゆさぶる作品を生み出した彼らが、いま考えていること、見ている景色とは? 第一線で活躍する彼らの素顔と背景に迫りながら、輝き続けるクリエイションに敬意を表し、たたえたい。
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撮影現場でのセッションが、想像を超えるものを生み出す
話題作への出演が相次いだ2023年、ドラマ「ブラッシュアップライフ」との出合いは視聴者のみならず、安藤サクラにとっても幸福なものになったようだ。放送中はドラマだからこそのライブ感を味わう日々だったという。
「映画は撮影から公開まで時間が経っているので、その間に自分も変わっていたりするのですが、撮っている間に放送されてすぐに反応が返ってくるという体験はすごく面白かったです。観てくださっている方たちもみんな仲間だ、みたいな気持ちになるのもまた楽しくて。『いま、人生何周目ですか?』って声をかけてくださる方もいたんですよ(笑)。気心の知れた人たちが増えたような気がして、起き抜けの素のままで気負わずに出かけていました」
連続ドラマの撮影は時間に追われざるを得ないが、夫である俳優・柄本佑のサポートによって、現場に集中することができた。
「夫が撮影中に子育てに徹してくれて、娘との生活のすべてを担ってくれたんです。いま、東京からちょっと離れて暮らしているから成立したことかなとも思うのですが、ふたりが日々幸せそうに過ごしている写真が送られてくると、私も本当に幸せな気持ちになりました。この経験は私たちにとって大きなことだったし、家族の在り方も変わったような気がします。実は夫が以前このドラマのチームと仕事をしていて、『やってほしいから、俺が休むよ』と言ってくれたんですね。『BAD LANDS バッド・ランズ』のお話をいただいた時も、この作品には出てほしいということで、撮影が終わった時にも『出てくれてありがとう』って感じでいてくれたことが、すごくうれしかったです」
母親としての“正解”がわからず、戸惑った経験もある。落ち込んでしまった自分を救ってくれたのは、映画の現場だった。
「公園でも私がいちばん泥だらけになって全力で遊んでいたのですが、周りを見たらそんなママはいなくて。自分を封印して、とにかく家をきれいにして、幼稚園のお弁当をちゃんとつくって……。という毎日を送っていたら病んだようになってしまったんです。どうしたらいいんだろうと思っていたのですが、久しぶりの作品でスイッチが入ったら、一気に元気になったことがあって。そうか、自分にとって現場で過ごす時間がものすごく大事で必要なんだということに改めて気づきました」
『怪物』では『万引き家族』に続いて、是枝裕和監督とタッグを組んだ。しかし作品へのアプローチはまるで異なっていたと語る。
「『万引き家族』の時は監督が私たちの在り方に合わせて脚本を変化させて、テイクを重ねるという毎日でした。そういう撮り方だったからか、作品についての会話はほとんどしなかったんです。でも『怪物』は坂元裕二さんの脚本に対してどう向き合うのかを、ともに探っていく必要がありました。監督とは二度目だからこそ、コミュニケーションを重ねることができたと思います」
どんな作品や役柄でも「自分の頭だけで考えることは全然面白くないと思っている」のだという。
「撮影現場でいろいろな人の考えを教えていただいてセッションした方が、きっとみんなが想像もできなかったような大きなものができあがると思っています。もちろん自分ができる準備はしていきますが、それはどんなボールが飛んできても対応できるようになるための体幹トレーニングみたいなものかな、って。監督からのご指導や用意していただいた衣装、その日の天気や温度、撮影中に吹いた風。私自身は、そのすべてが合わさったものに乗っかっているだけだというふうに思っています」
来年は今年よりも仕事をスローダウンする予定だというが、新たなことに挑戦したいと考えている。
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トライアンドエラーを繰り返しながら広がる、人間としての可能性
「具体的な進化のために積極的にやってみたいことのひとつが、運動です。40歳手前になったいま、身体的な能力と知識のバランスがいちばんいい状態にあると感じているので、成長が早い気がするんです。身体能力は高いのに運動神経はよくないから、『ヘイ、パス!』と言われてすぐにキャッチできる、みたいなことに憧れはあります(笑)。でも私は四角いプールよりも海の方がずっと泳げるし、グラウンドで何かするのは苦手でも木登りだったらできるタイプ。生きていくうえで自分で制限することがたくさんあるのはもったいないことだと考えているので、本気で運動してみたら3mくらいはジャンプできるようになるんじゃないかなと、ワクワクしています」
たとえば『BAD LANDS バッド・ランズ』における鴨居を使った動きにも、心と身体を存分に、自由自在に使う彼女の独自性が見てとれる。これからチャレンジしたいという身体の感覚をより研ぎ澄ませていくための実験のような過程は、表現にも大きな影響を与えるのではないだろうか。
「きっとそうだと思います。生きているうちにこの身体を使ってできることは何かを試して、トライアンドエラーを繰り返しながら、人間としての可能性をもっと広げていきたい。それは科学であり、人間学でもあり、哲学でもあるかもしれないですよね。女優としても自分の肉体を生かしながら、変化していくことを恐れずに。まだ出合ったことのない表現をしてみたいですね」
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