世界初のフルEV機関車が登場…ポップなデザインに家庭1.6年分を蓄電、そして充電は不要!?

  • 文:青葉やまと

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オーストラリアの鉄鉱石採掘最大手であるロイ・ヒル社が、100%バッテリー駆動の大型貨物用機関車を発表した。米ペンシルベニア州で行われた10月31日の記念式典で、実際の機関車が披露されている。今後半年以上のテストを経てオーストラリアへ輸送され、鉱山での稼働を開始する予定だ。

FLXdrive機関車と呼ばれるこの車両は、鉱山鉄道の武骨なイメージをは無縁の、ピンクとホワイトのポップな意匠が目を惹く。だが、その中には最新の技術が詰まっている。米鉄道専門誌のレールファン&レールロードによると、本線で稼働する大型機関車としては、世界初の100%EV仕様となる。

さらには、ブレーキで発電する回生ブレーキを搭載。鉱山という特性上、計画通りに進めば、外部からの電力を使って充電をする必要はないのだという。

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一般家庭1年分以上を蓄電

ロイ・ヒルが米鉄道技術会社のウェブテックと共同開発したFLXdriveは、72個のリチウムイオン・モジュラーバッテリーパックを搭載。総エネルギー容量は7MWh(メガワット時)を誇る。一般家庭の年間消費電力が4260kWhであることから、充電された電力だけで1件の家庭を1.6年間まかなえる計算だ。

北米の鉄道専門誌であるトレインズによると、FLXdriveが搭載するバッテリーセルは、合計3万6000個以上に上る。これまでにも2.4MWhのFLXdrive試作機が存在したが、今回の7MWhの蓄電容量は、その約3倍に相当する。

ちなみに試作機は2021年、カリフォルニアのBNSF鉄道にて、1万3000マイル(約2万1000km)を故障なしで走破していた。札幌・鹿児島間の約8.8倍に相当する長距離だ。

最高気温50℃の過酷な環境

ウェブテックによるとFLXdriveは、最先端のエネルギー管理ソフトウェアを搭載し、列車全体の電力の配分を管理する。

気温が50.5℃に達することもある豪ピルバラにおいて、バッテリー駆動機関車の導入は一大チャレンジとなる。過酷な暑さに耐えられるよう、FLXdriveは液体冷却を用いた独自のバッテリー熱管理システムを備える。

ウェブテックのラファエル・サンタナ社長兼CEOは記念式典で、「FLXdrive機関車は、低排出からゼロ排出へという鉄道業界の未来に向けた、重要なステップを象徴しています」と意義を語った。

なお、同社は乳がんの研究と患者支援に取り組んでいる。鮮やかなピンク色には、乳がんへの意識向上のメッセージが込められているのだという。

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回生ブレーキだけでフル充電

ロイ・ヒル社の親会社にあたるハンコック探鉱グループ・オペレーションズのゲルハルト・ヴェルツマンCEOは、「FLXdrive機関車は、ピルバラだけでなく、鉱業業界としても初めてのものです」と新たな取り組みであることを強調。とくに、起伏の激しい鉱山ルートにおいて、搭載される回生ブレーキが有益になると説明している。

「回生ブレーキを使用することで、214マイル(約345km)ある鉱山から港湾施設までの下り坂でバッテリーを充電し、蓄えたエネルギーを使って鉱山に戻ることができ、そしてこのサイクルを繰り返します。これによりエネルギー効率が向上するだけでなく、運行コストの削減も可能になるのです」

トレインズ誌によると、鉱山への上りは積み荷が空の状態で運行し、一方で下りは3万3000トンの鉱石を積載する。ロイ・ヒル社の予測では、積載重量を生かして下り道で回生ブレーキによる発電を行い、100%までのフル充電を済ませることができるという。

FLXdriveは今後6〜8カ月間をかけ、米ペンシルベニア州のエリーで広範囲にわたるテストを受ける。その後、オーストラリアに輸送され、ロイ・ヒル鉄道での運転を開始する予定だ。

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