「ニューホライズン 歴史から未来へ」展――地方都市の表情を引き出す、驚きに満ちたアートの地平

  • 文:住吉智恵(アートプロデューサー)

Share:

 

1_レフィーク.jpg
レフィーク・アナドール『Living Paintings Immersive Editions: Artificial Realities: Winds of LA / Pacific Ocean / California Landscapes.』 photo: Joshua White Courtesy Jeffrey Deitch, New York and Los Angeles.

群馬県前橋市の商業施設を改修して2013年にオープンした美術館、アーツ前橋。開館10周年を記念して開催される本展は、特別館長に就任した元・森美術館館長の南條史生がディレクションを担い、街全体を巻き込んだ大規模な企画展となった。

メイン会場のアーツ前橋では、6つの展示空間をゆったり使い、18組のアーティストの作品を展示。なかでもデータと機械知能を用いた美学の先駆者として世界的な注目を集めるトルコ出身のレフィーク・アナドールによる没入型インスタレーションには、AIの創造的可能性を再考させられるはずだ。また、イエメン出身のザドック・ベン=デイヴィッドは、精巧な植物のミニチュアとスケールの大きな空間構成による詩的な作品にあっと驚かされた経験がある。本展ではまったく異なるアプローチの作品を発表しているので期待してほしい。

ここでは日本のアートシーンに近年現れたペインターたちにも注目する。五木田智央、松山智一、山口歴といった、NYおよび東京で注目を浴びる作家をはじめ、川内理香子、横山奈美、岡田菜美による、自身の身体感覚に応答する鮮烈なペインティングは、時代の閉塞感をやわらかく押し広げるような瑞々しい絵画体験をもたらすだろう。

近年、アーツ前橋の周辺では白井屋ホテル、まえばしガレリアほか、新進建築家が手がけた良質なアートに触れられる施設のオープンが続く。本展では蜷川実花やWOWらがこれらの建築空間の魅力を引き出す展示も。

さらに劇作家・演出家の藤田貴大、パフォーマンスアーティストの村田峰紀など、前橋ゆかりの作家たちが繰り広げるサイトスペシフィックな作品は、均質化の進む地方都市に潜む思いがけない表情を引っ張り出してくれるかもしれない。

『ニューホライズン 歴史から未来へ』

開催期間:~2024/2/12
会場:アーツ前橋、白井屋ホテル、まえばしガレリア、HOWZE ビル、スズラン前橋店ほか
TEL:027-230-1144(New Horizon展実行委員会事務局)
開館時間:10時~18時 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:水曜日、年末年始(12/27~24/1/4)
料金:一般¥1,500
www.artsmaebashi.jp

※この記事はPen 2023年12月号より再編集した記事です。