2020年のコロナ禍、奈良県南部・東部の奥大和エリアで観光業の活性化を目指してスタートした芸術祭『MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館』。山道を歩き、アート作品と出合いながら豊かな自然や歴史を感じる唯一無二の芸術祭が4回目を迎え、11月12日まで開催されている。前回までは吉野町、天川村、曽爾村という3つのエリアが会場だったが、今年は吉野町、下市町、下北山村が会場となっている。プロデューサーとして企画からキュレーションまでを行うのはパノラマティクス(旧ライゾマティクス・アーキテクツ)主宰の齋藤精一。
奈良県最南端に位置し、7世紀に修験道の開祖である役行者がその霊気に打たれて畔に池神社を開いたといわれる奈良県最大の天然池、明神池などで知られる下北山村を訪れた。下北山村のエリア・ディレクターを務めるのは、浅見和彦(プロジェクト・ディレクター)、ゴッドスコーピオン(メディアアーティスト)、吉田山(アート・アンプリファイア)の3名。
---fadeinPager---
作家たちは奥大和の自然に何を感じるか。
---fadeinPager---
村の銀行跡地やバス停にも作品が展開する。美術作品と河原の石を交換することができる『石疎通センター』を手がけたのは、アーティストコレクティブのyuge(hoge)。「価値」について改めて考え、自然を味わうことと、作品を制作するアートという行為とがどのように連動するかが可視化されるプログラムであり、かつての銀行で展開するに相応しい作品だ。そしてバス停もインスタレーションとして形を成す。松岡湧紀の『地蔵と遊ぶ』。複数の絵画作品と、松岡が子供の頃に遊んだゲームをもとにした体験型の作品が設置されている。風が吹くとカーテンがそよぎ、バスの待ち時間も含めて作品化されたような印象だ。
---fadeinPager---
目指すは山間で霊気を放つ明神池。
しばらく舗装された道を上っていくと、沿道の木々の間からキラキラと光が漏れてくる。明神池の水面に反射する光だ。役行者はこの池の霊気に打たれたといわれているが、水が流れ入る谷も流れ出る川もなく、しかし、枯れることなく水を湛え続ける恵みの象徴のような池であり、この池が御神体となって開かれたのが池神社だ。坂道を歩いてきて池の上に視界が開け、神社の厳かな空気を感じられるのは、この場所に来たからこそ得られる体験だ。
---fadeinPager---
トレイルを歩きながらアートと出合う。
明神池沿いを歩き、山道に入っていく。記事トップの画像に写されたSandSの『Superposition』を超えると、QRコードが設置された祠と出合う。God ScorpionによるAR作品『孔雀の呪法』だ。アプリをダウンロードし、鳥の目を通して見た世界を追体験する。色や明暗の違いを鮮明に捉え、ヒトの視覚とは異なる四色性によってUV(紫外線スペクトル内の色)も目にしていることがわかる。
---fadeinPager---
山岳地帯の自然と、修験者たちが修行を続けてきた1300年の歴史に思いを馳せ、アーティストたちが素材も技法もさまざまに表現を行うこの芸術祭。時間をかけて下北山村に辿り着き、3時間ほど歩きながら作品とその周囲の自然環境を楽しみ、同時に歴史についての興味が喚起される。明神池の霊気にあなたも打たれるかもしれない。下北山村にぜひとも足を運んでほしい。
MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館
開催期間:2023年9月16日(土)〜11月12日(日)
開催場所:奈良県吉野町、下市町、下北山村
TEL:0744-48-3016(奈良県 奥大和地域活力推進課)
※問い合わせの受付は祝祭日を除く月曜から金曜の 8時30分から17時15分まで
休場日:無休
鑑賞料:無料
https://mindtrail.okuyamato.jp/