国立新美のイヴ・サンローラン展、「モードの帝王」の創造に全方位から接近する圧巻の展示!

  • 写真・文:中島良平
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「5 服飾の歴史」展示風景より、「エル・ロシオの聖母像の衣装」1985年 パリのノートルダム・ド・コンパシオン教会にあるエル・ロシオの聖母像のために制作した衣装。伝統的な典礼のコードに着想し、デザインを手がけた。

日本初となるイヴ・サンローランの大回顧展が国立新美術館で開催されている。1958年にクリスチャン・ディオールの急逝を受け、ディオールのデザイナーとして21歳で鮮烈なデビューを飾ったサンローラン。1962年には自身のブランドを立ち上げ、2002年の引退まで世界のファッションシーンをリードした「モードの帝王」の表現が、イヴ・サンローラン美術館パリの特別協力により、クチュリエとして手がけた衣服とそのデザイン画はもちろんのこと、舞台芸術などにも及んで網羅されている。

展示は「0 ある才能の誕生」に始まり、「11 イヴ・サンローランと日本」までの計12章とドキュメンタリー映像を上映するシアターで構成。ルック110体も含め、アクセサリー、ドローイング、写真など計262点が展示され、デザイナーとしての人生とその創造の全貌に迫ることができる。

 

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「品行方正」シャツ・ドレス イヴ・サンローランによるディオールの1958年春夏「トラベラーズ・ライン」オートクチュールコレクション プロトタイプ 展覧会冒頭の「0 ある才能の誕生」のコーナーに展示。

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ファッションは時代遅れになるが、スタイルは永遠である。

1962年に自身のメゾンから初めて発表した春夏のオートクチュールコレクションが、船乗りの作業着に着想した紺のピーコート、白のプリーツパンツ、ミュールを合わせたコーディネートによって幕を開けたことに象徴されるように、同年の秋冬コレクションではイギリスの将校の防水コートに想を得たトレンチコートを、1967年にはアフリカの宣教師のユニフォームをモチーフにしたサファリ・ジャケットを発表したように、男性服の、それもユニフォームをベースに洗練された女性服を創出したサンローラン。展示室の壁面に言葉が示したように、ファッションではなくスタイルとしての表現に取り組み、デビュー時からその評価は高まり続けた。

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「1 1962年 初となるオートクチュールコレクション」展示風景より 一番手前の「ボーティング・アンサンブル ファースト・ピーコート」に始まり。1962年春夏コレクションより7体のルックが並ぶ。
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「1 1962年 初となるオートクチュールコレクション」展示風景より コレクションボード「フォーマル・アンサンブル」1962年春夏オートクチュールコレクション 生地とスタイルを合わせて記録した貴重な資料の数々を展示各章で楽しむことができる。

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「2 イヴ・サンローランのスタイル アイコニックな作品」展示風景より タキシード、ジャンプスーツ、トレンチコート、サファリ・ジャケットなど、実用性をスタイルに昇華し、優雅さを加えたルックの数々を展示。
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「4 想像上の旅」展示風景より 20世紀、ヨーロッパのアーティストたちを魅了した「異国趣味」。モロッコに赴くこと以外に旅行をあまり好まなかったサンローランは、「想像上の旅」を通してアフリカやロシア、日本、中国などをテーマに制作を行った。
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「7 舞台芸術——グラフィックアート」展示風景より 劇場、バレエ、ミュージックホール、映画などのために多くの衣装を制作したサンローラン。幼少期のスケッチもこのコーナーに展示されている。

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創造の原動力となったのは、尽きない好奇心。

この展覧会のハイライトのひとつが、「9 アーティストへのオマージュ」のコーナーだといえるだろう。展覧会メインビジュアルとなっている「カクテル・ドレス——ピート・モンドリアンへのオマージュ」を筆頭に、ゴッホやブラック、マティス、ボナール、ピカソなどの表現の「引用」を通して、画家たちへのオマージュをデザインに込めた。

私の目標は巨匠たちと自分を比較することではなく、最大限彼らに近づき、その才能から学ぶことでした。(展覧会図録より)

生前にそう語っていたように、引用を通して画家たちの表現に迫り、その平面作品に描かれたものを身体がまとう衣服へと展開するなど、サンローランは多様なアプローチでデザインの新たな次元を探求していた。

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「9 アーティストへのオマージュ」展示風景より 手前が、1965年秋冬コレクションで発表した「カクテル・ドレス——ピート・モンドリアンへのオマージュ」。奥の展示には、ブラックやマティスなど複数の画家のスタイルが見える。

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1958年にディオールの跡を継ぎ、62年からは自身のブランドでオートクチュールのコレクションを発表し続けたイヴ・サンローラン。もちろん天性の才能とバイタリティが、「モードの帝王」と呼ばれるまでになった創造の背景にあったのは間違いないだろう。しかし、何よりも尽きぬ好奇心こそがサンローランを突き動かしたのではないだろうか。興味を持った対象を観察し、想像を広げ、手を動かして視覚化する。デッサンが衣服となって人がまとい、動き出したとき、再び創造へのモチベーションに火が着く。展示を通して、天才クチュリエの創造のサイクルを感じ取ってほしい。

 

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展示風景より

イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル

開催期間:2023年9月20日(水)〜12月11日(月)
開催場所:国立新美術館 企画展示室1E
東京都港区六本木7-22-2
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時〜18時
※毎週金・土曜日は20時まで
※展示室入場は閉館の30分前まで
休館日:火
入館料:一般¥2,300
https://ysl2023.jp