「嘘でしょ…?」鉄道が横切り遮断機が下りる、アメリカのラウンドアバウト(環状交差点)が複雑すぎる

  • 文:青葉やまと
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Georgia DOT East Central Region: District 2-YouTube

アメリカの一部に、RRXラウンドアバウト(レイルロード・クロッシング・ラウンドアバウト)と呼ばれるめずらしいラウンドアバウト(環状交差点)が存在する。複数の方向から集まる道路を結ぶラウンドアバウトの中央を、さらに鉄道が通過。遮断機が下り警報が鳴り響く、ユニークなラウンドアバウトだ。

一般にラウンドアバウトは通常の交差点とはルールが異なり、慣れていないと通過方法にただでさえ混乱しがちだ。車だけでなく列車まで1カ所で交わるRRXラウンドアバウトはいっそう複雑怪奇に感じられるが、意外にも住民の評判は良いのだという。

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全米でもめずらしいラウンドアバウト

東海岸のジョージア州サンダースビルの町は、人口6000人ほどののどかな田舎町だ。この町に2020年初め、全米でもめずらしいRRXラウンドアバウトが誕生した。CBS系列の地元局WMAX-TVは竣工前、「通常見られないひねりが加えられたラウンドアバウト」が誕生すると紹介。「交通の流れにいっそうの注意を払う必要があるでしょう」とニュース番組を通じて呼びかけていた。

このRRXラウンドアバウトでは、4方向から集まった道路が中央のサークルへ流出入するのに加え、サークルの中心を鉄道が横切っている。サークル内を分断する形で遮断機が設置され、さらにサークルに流入する4カ所のポイントのうち2カ所にも遮断機が設けられている。

通過ルールとしては通常のラウンドアバウトと同様、サークル内を走っている自動車が優先される。サークルに進入しようとする車は、すでにサークル内を走っている車が通過しようとする場合、そちらを優先して一時停止を行う。この通常のルールに加えて、自動車よりも鉄道の通過が優先される。列車が接近すると遮断機が下り、サークルは2つの半円状に分断される。自動車はその直前で待機する形だ。

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危険だった交差点に秩序が生まれた

交通が複雑化する印象もあるが、住民や付近で働く人々はむしろRRXラウンドアバウトの誕生を歓迎しているようだ。

この場所はサンダースビルの町としては最も交通量が多い交差点だが、かつては主要道路同士が斜めに交差し、さらに鉄道が横切るわかりにくい形状だった。本線側のドライバーにとっても、斜めの支線から流入するドライバーにとっても、踏切を越えた数メートル先で他方の道路と合流する危険な形となっていた。

RRXラウンドアバウトへの切り替え工事が始まると、近くの職場に勤める女性はWMAX-TVの取材に応じ、ラウンドアバウト化に歓迎の意を示した。以前は「いつ止まればいいのか、誰が次に進めばいいのか、確信を持てない状態でした」という。RRXラウンドアバウトになってからは、遮断機が下りていればその手前で待機し、あとはサークル内の交通を優先して進入すればよい。お互いに目で合図しながら優先順位を探り合う必要はなくなった。

また、もともとは直線道路同士が交差していたことから、スピードを出して通過する危険な車も目立った。ラウンドアバウトになってからは、カーブしたサークル内を通行することになる。必然的にスピードが落ち、さらに安全性が高まったという。

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ほぼ例のない工事に感じたプレッシャー

リニューアル工事はジョージア州運輸局が主導し、サンダースビル鉄道が協力した。サンダースビル鉄道のベン・ターバトン3世社長は、道路工事情報サイトの米コンストラクション・イクイップメント・ガイドに対し、「初期調査の段階で、(RRXラウンドアバウトは)全米でも数件しかありませんでした」と語る。それでも、設置する以上は当然円滑に機能することが求められており、相当なプレッシャーを感じたと振り返っている。

苦労の甲斐あって、評判は良好だ。米自治体情報誌のミュニシパルは、ヨーロッパで普及している一般のラウンドアバウトに「多くのアメリカ人はいまだに反対している」と述べつつも、本ラウンドアバウトについては「ほとんどの住民はすでにこのプロジェクトを成功と見ている」との意見を取り上げている。

ただし、鉄道と交差するユニークな構造上、いくつかの課題もあるようだ。自動車がラウンドアバウトに入るポイントと出るポイントによっては、サークル内で最大で2回、鉄道との交差ポイントを通過する。従来は1回で済んでいたところ、注意を要するポイントが増えたことになる。

また、アメリカではスクールバスなど特定の車両に限定した交通ルールではあるが、踏切前での一時停止が求められる。こうした車両がRRXラウンドアバウトを通過する場合、サークル内で最大2回一時停止する形となる。ほかのドライバーにとって予期していない挙動となり、追突を懸念する声があるという。

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稼働中のRRXラウンドアバウトはほかにも

とはいえ実際に教育委員会や地元の学校から苦情が出ているわけではなく、総じて安全性が向上したとの意見が多く聞かれるようだ。

鉄道と交わるRRXラウンドアバウトは、ほかにアリゾナ州フェニックス都のメサにも存在する。こちらはLRT(ライトレール)と交差するタイプだ。バレーメトロ地域公共交通局が公開している動画では、LRTの接近に伴い、軽やかな警報音とともに遮断機が下りて自動車を抑止する。列車の通過後、各方向からラウンドアバウト内に順次自動車が秩序立って流入してゆく様子は、不思議な爽快感すら帯びている。

ヨーロッパに対してラウンドアバウトの導入に抵抗が根強いとされるアメリカだが、場所によってはこのように思い切った構造のものが存在するようだ。

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ラウンドアバウトの中心を、列車がゆっくりと通過してゆく。

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「通常見られないひねり」が加えられたラウンドアバウト。住民の反応は良好だ。

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アリゾナ州の事例。列車が過ぎるのを待って、順序よく自動車が流れ込んでゆく。

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同事例。歩行者用の横断帯も設けられ、かなり入り組んでいる。