文学と洋食に浸る、新しい兵庫の旅

  • 写真;東谷幸一
  • 編集 & 文: 渡邉卓郎
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豊かな自然と歴史文化が息づく兵庫県。ブックディレクター・深井航が考える「兵庫の旅」は、城崎温泉で湯と文学に浸り、神戸で至高の洋食を味わうプラン。それぞれの土地が育んだ多彩なテロワール(土地の個性)を堪能する旅である。

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深井 航
Wataru Fukai

1995年、埼玉県生まれ。ホテル「箱根本箱」のブックディレクションのほか、温泉旅館初の文学賞「三服文学賞」や「文喫 六本木」のイベントなど、本を中心に構成した「場」と「企画」を多数手がけている。

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城崎文芸館

城崎温泉ゆかりの作家に関する展示を行う「城崎文芸館(KINOBUN)」。2016年にリニューアルし、より深く文学に親しんでもらえる施設に生まれ変わった。

●兵庫県豊岡市城崎町湯島357-1 

TEL:0796-32-2575 開館時間:9時~17時 休館日: 水、年末年始 料金:一般¥500 

http://kinobun.jp

日本各地に温泉地は数あれど、兵庫県の城崎温泉ほどに文学の薫りを放つ土地はないだろう。『城の崎にて』を残した志賀直哉の他にも多くの文人がこの地を愛した。

「『城の崎にて』にも描写がありますが、流れる川をのぞき込むと鮎や蟹が居て、100年前に城崎を訪れた志賀直哉もこの景色を目にしていたんだろうな、とふと気付き不思議な感動を覚えました。日本人が心に抱いている温泉街の原風景は城崎温泉みたいなものだったんだと腹に落ちました」

そう深井さんが話すように、日本の温泉街の原風景と呼ぶにふさわしい街並みを構成しているのは、7つある外湯と老舗旅館の風情だろう。なかでも300年の歴史を守りつつ、23年にリノベーションしたばかりの「小林屋」を訪ねた。階段や梁などは当時のまま残しつつ、現代的な感覚を用いて動線を変え、和紙を壁紙に使うなど、見どころが多い館内には心地よい空気が漂っている。

「旅館を改修するのでなくて、日本文化をアップデートするという気持ちで取り組みました」

アーティストでもある11代目当主の永本冬森(ともり)さんのセンスと宿の歴史が融合して唯一無二の空間となっている。

「城崎の自然と食の豊かさ、外湯文化の華やかさは財産です」と永本さん。五感を使って城崎のテロワールを味わい尽くせる宿なのだ。

志賀直哉が求めた癒やしは、いまもこの場所に残っている

 

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城崎温泉
開湯1300年を迎えた城崎温泉を象徴する柳並木は、町長だった「小林屋」の先々代の取り組みが始まり。「音が印象的な街ですね。柳がしゃらしゃらとゆれて、からんからんと下駄の音が響いて心地よかったです」と深井さん。

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館内に3つある内湯はすべてコンパクトに設計されている。街に7つある外湯巡りの文化を守るため、城崎温泉の旅館では内湯のサイズに制約があるという。
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ランチで提供される「八寸」には城崎の立地を活かした海と山の恵みが詰まる。鳥取出身の山内誠シェフが山陰地方の素材と向き合い、この土地ならではの料理を提供する。

 

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館内の天井、壁、照明、襖やテーブルに至るまでふんだんに和紙が貼られている。柳並木の風景を見下ろす窓辺の手すりは、100年以上前のものを残し伝統を継承した。

 

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小林屋

歴史ある宿のリノベーションを手がけたのはSUPPOSE DESIGN OFFICE。躯体をほとんど崩すことなく、城崎の伝統とも呼べる建物の歴史と趣を活かした。

●兵庫県豊岡市城崎町湯島369

TEL:0796-32-2424

https://kobayashiya.co.jp

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本と洋食……神戸でしか体験できない濃密な空間

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欧風料理 もん

1936年創業。写真のサンドウィッチ(ビーフカツ)ほか伝統の味がメニューに並ぶ。舶来の調度品や創業当時から使われている家具類が歴史を感じさせる。

●兵庫県神戸市中央区北長狭通2-12-2 

TEL:078-331-0372 営業時間:11時~21時 定休日: 第2・3月

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神戸文学館

2006年に開館し、神戸ゆかりの文学資料を展示。建物は1904年に建設された元関西学院礼拝堂で国登録有形文化財。「妹尾河童さんの筆跡が素敵ですね」と深井さん。

●兵庫県神戸市灘区王子町3-1-2 TEL:078-882-2028 

開館時間:10時~18時(平日)、9時~17時(土日祝) 入場無料

休館日:水(祝日の場合はその翌日)、年末年始 

www.kobebungakukan.jp

 

神戸は深井さんにとって村上春樹が海外文学に触れるきっかけになったハイソな街という印象があるという。やはり神戸と文学というのも相性がよい。

「神戸文学館」で神戸ゆかりの作家の面影に触れた後に向かったのは「こども本の森 神戸」。

「本に囲まれる高揚感は子どもも大人も変わらないですね。ラインアップも『動物』の棚にロニ・ホーンの鳥の写真集があったりして、大人目線の押しつけがなくていいなと思いました」

本に触れた後は、神戸の洋食文化を牽引する「欧風料理 もん」に向かった。日常的にレトロな喫茶店や洋食店を巡るなど、古いものに興味をもつ深井さん。本には過去に生きた人々や時代を切り取っていまに伝えていく役割もある。古いものと同じような存在なのだそう。

「時の経過から生まれた価値はテクノロジーでつくり出せない唯一の価値だと思いますし、その流れの中に自分も身を置いていると考えると独特の安心感があります。神戸を歩くと、感じのよい老舗の喫茶店がいくつもあって、ジャズが流れている。本を読む人にとっては最高の居心地ですよね。街並みを見てもていねいに時間が受け継がれていると感じました」

本と洋食をキーワードにした神戸のテロワールを深井さんは教えてくれた。

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こども本の森 神戸

建築家、安藤忠雄が設計を手がけ2022年にオープンした文化施設。訪れた子どもの世界がどんどん開いていくかのような本が壁一面に並ぶ。蔵書数は約1万8000冊。

●兵庫県神戸市中央区加納町6-1-1 

TEL:078-325-1125 開館時間:9時30分~17時 入場無料 

休館日:月(祝日の場合はその翌日) 

https://kodomohonnomori-kobe.jp

兵庫テロワール旅 www.hyogo-tourism.jp/terroir

※代官山T-SITEにてブックディレクター、深井さんの視点を再現した「兵庫テロワールオリジナルコーナー」を11月20日(月)〜12月4日(月)まで設置。ぜひ一度、足をお運びください。