「絵本もつくる人」荒井良二のイマジネーションに満ちた創作世界、千葉市美術館にて個展が開催中!

  • 文・写真:はろるど

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千葉市美術館の『new born 荒井良二』会場にて荒井良二。※プレス内覧会にて撮影。(2023年10月3日)

『たいようオルガン』でJBBY賞を、また『きょうはそらにまるいつき』で日本絵本賞大賞を受賞したほか、2005年にはアジアで初めてアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞するなど国内外で高い評価を得ている荒井良二(1956年、山形県生まれ)。自らを「絵本もつくる人」と称する荒井は、2010年に初の作品集『metaめた』を刊行したほか、郷里・山形を舞台とした「荒井良二の山形じゃあにぃ」や「みちのおくの芸術祭山形ビエンナーレ」の芸術監督を担うなど、絵本だけでなく、絵画、音楽、舞台美術などジャンルを超えて活動を展開してきた。

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「ぼくはこんな絵本を作ってきたんだ」展示風景。絵本原画や絵本などがたくさん並んでいる。なお絵本は4階の「びじゅつライブラリー」(図書室)でも閲覧できる。

千葉市美術館で開催中の『new born 荒井良二』では、荒井の「いままで」と「これから」を語る多彩な作品を、荒井自身が再構成して紹介。荒井は1990年に『MELODY』を発表して以来、100冊以上もの絵本や書籍を手がけてきたが、展示では「ぼくはこんな絵本を作ってきたんだ」と題し、『あさになったのでまどをあけますよ』など2作の全ページをはじめとした色鮮やかな絵本原画を見ることができる。このほか、小さなスケッチや「展示案」とする展示プランのメモ、さらに「思い切りやりたいことを描いて 失敗とか成功ということよりも 人に贈るギフトみたいにしようと思ってる」など、会場にあちこちに記された直筆のメッセージも見どころといえる。

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「山形ビエンナーレ2018」を再構成した展示。作曲家の野村誠が本展のために作曲した音楽がBGMとして流れている。

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『旅する名前のない家たちを ぼくたちは古いバケツを持って追いかけ 湧く水を汲み出す』展示風景。本展開催に先立ち、設営を終えて初日を待つ展示室内にて、アーティストと一緒に「物語をつくる」プログラムを実施。24名の参加者が全員で作品をモチーフに物語文を編み、アンソロジーとして展示に加えている。

「山形ビエンナーレ2018」で発表された屋台のような立体作品をはじめとした、絵本以外に日々、荒井が生み出してきた作品も数多く公開されている。そのうち本展のための新作『旅する名前のない家たちを ぼくたちは古いバケツを持って追いかけ 湧く水を汲み出す』とは、2010年に発表した絵画『逃げる子どもI』から着想を得たインスタレーションで、約40の“名前のない家”たちによって構成されている。いずれも車輪のついた乗り物のような家には、小さなこどもたちが住んでいて、それぞれの物語を生きながら旅に出ていこうとしている。ともすると「逃げる」とはネガティブな言葉として受け止められるが、荒井は災害や戦争などでいつも最も過酷な状況に置かれる子どもたちにとって、むしろ幸せを目指すために意識的に逃げることも必要だと語っている。 

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『new born 荒井良二』展示風景。出展数は、絵本原画、新作インスタレーション、絵画、立体作品から私蔵のガラクタまで約300点と膨大。時間に余裕をもって出かけたい。 

このほか、「ライブの部屋」として直に壁へ絵を描いたり、愛蔵のガラクタなども立体作品や原画などないまぜになるようにして展示されている上、一部のスペースでは荒井の盟友で作曲家の野村誠が本展のために作曲した音楽も流れているなど、見て、読んで、聞いて楽しめるように工夫されている。「ぼくにとって大事なのは絵本であって作家ではない。ぼくはものを考えたり、作ったりするときは、いつもぼくの『絵本フィールド』に立っている」とする荒井。この展覧会では「『ぼくの絵本フィールド』から派生したものを並べた」という。旅するように不安や恐れを楽しみに変えてしまうような気持ちで活動の幅を広げてきた荒井の、新たな創作が「誕生=new born」する光景を、おもちゃ箱をひっくり返したように楽しい会場で見届けたい。

『new born 荒井良二 いつも しらないところへ たびするきぶんだった』

開催期間:2023年10月4日(水)~12月17日(日) 
開催場所:千葉市美術館
https://www.ccma-net.jp