山口晃が問いかけるサンサシオンとは?アーティゾン美術館の『ジャム・セッション 山口晃』の見どころ

  • 文・写真:はろるど

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山口晃『来迎圖』(2015年)作家蔵。1969年に東京にて生まれ、群馬県桐生市に育った山口晃。日本の伝統的絵画の様式を用いつつ、油絵の技法を用いて絵画を描いている。過去と現在、自然と人工物が入り混じったような表現でも人気を集めてきた。

アーティストと学芸員が共同して、石橋財団コレクションからインスパイアされた新作や、コレクションとアーティストの作品のセッションによって展覧会を構成し、新たな視点を提示する『ジャム・セッション』。アーティゾン美術館では2020年から年1回、同展を開くと、過去に鴻池朋子や森村泰昌、また柴田敏雄や鈴木理策らが参加し、西洋や日本の近代絵画と現代美術が共振するような展覧会として人気を集めてきた。そして第4回の今年は、絵画や立体、漫画、インスタレーションなどを幅広く手がけるアーティストの山口晃が登場。雪舟やセザンヌの代表作を引用し、時に驚きに満ちたユニークな世界を展開している。

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山口晃『汝、経験に依りて過つ』(2023年)展示風景。写真では一見、ごく普通の整った室内のようにも思えるが、床にある仕掛けが施されている。このインスタレーションを山口はかつての豊島園にあったアトラクションから着想を得ている。

タイトルの『山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン』のサンサシオンとは、「感覚」を表すフランス語で、セザンヌが制作について語る話によく出てくる言葉だという。「感覚に集中して対象と同化して描くというのが古今東西の制作の基本だと思いますが、感覚に集中することは正に生きているということであり、制作は生の全肯定なのです」とする山口は、「制度が我々を取り込むのに巧妙化する時、やむに止まれぬサンサシオンをこそ頼るべきなのでしょう」とサンサシオンへの強い想いを語っている。そうしたサンサシオンに揺さぶりをかけるのが、冒頭のインスタレーション『汝、経験に依りて過つ』だ。ここでは何気ない室内空間にある仕掛けを施すことで、平衡感覚が奪われ、にわかに歩くのも困難になるような体験が得られる。通常の視覚認知機能を問い直すような作品といえる。

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山口晃『セザンヌへの小径(こみち)』(2023年)作家蔵。セザンヌの『サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール』(1904〜06年頃)やパネルの「セザンヌ理解に向けた自由研究」などともに展示されている。

 

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右:雪舟『四季山水図』(室町時代 15世紀)石橋財団アーティゾン美術館、重要文化財 左:山口晃『オイル オン カンヴァス ノリバケ』(2023年)作家蔵

これに連なる「セザンヌへの小径」では、セザンヌの『サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール』と『帽子をかぶった自画像』とともに、前者を模写した『セザンヌへの小径(こみち)』といくつものスケッチを公開。あわせて「セザンヌ理解に向けた自由研究」として、「セザンヌのパレット」に「セザンヌの絵」といったセザンヌの絵画に関する山口の解釈をはじめ、セザンヌの故郷やアトリエへ出向いたエピソードなどをパネルに書き綴っている。そして展示は雪舟の『四季山水図』と自らの新作『オイル オン カンヴァス ノリバケ』を並べた「雪舟の翳る部屋」から、一面に純白の空間が広がる『モスキートルーム』へと続いていく。

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『山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン』展示風景。一部の展示作品の構造上、歩きやすい靴で出向くのがおすすめだ。

このほかにもNHK大河ドラマ「いだてん ~東京オリムピック噺~」のオープニングタイトルバック画となった『東京圖1・0・4輪之段』や、2021年7月に完成した東京メトロ日本橋駅のパブリックアート『日本橋南詰盛況乃圖』などの原画も初めて公開。中央にはペンや切り紙、小さなスケッチなどが入れられた一種の装置のようなアクリルボックスが立ち、四方に「談話室」や「東京こりごりん」などと名付けられた展示室が連なっていて、絵画やインスタレーションが入れ子のように展開している。また今回、特筆すべきは会期中に限り、普段禁じられている鉛筆によるデッサンが可能なことだ。「書くことと見ることは同義」とする山口は、作品に向き合い、手を動かすことで解像度がぐっと上がるという。山口の作品と石橋財団コレクションのセッションを目で見て、全身で感じながら、さらに手を動かして楽しみたい。

『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン』

開催期間:2023年9月9日(土)~11月19日(日)
開催場所:アーティゾン美術館 6階展示室
https://www.artizon.museum/