建築業界にイノベーションを起こす、VUILD デジファブを駆使した多様な事業展開に注目

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:佐藤季代
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2017年に創業し、デジタルファブリケーション技術を活用した多様な事業を展開する建築テック系スタートアップ企業VUILD。誰もがつくり手設計者になれる“建築の民主化”をキーワードに掲げ、業界に新たな風を吹き込んでいる。最新作となる「小豆島 The GATE LOUNGE( 千年オリーブテラス for your wellness内)」「学ぶ、学び舎ー東京学芸大学Explayground」を含めたこれまでの活動と今後の展望について話を聞いた。

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BREAKING by Pen CREATOR AWARDS 2023
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Pick Up Works

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今年夏に開業したホテルなどの複合施設「千年オリーブテラスfor your wellness」。写真の建物は来場者を迎えるエントランス的な機能があるゲートラウンジ。 photo: Takumi Ota

「小豆島 The GATE LOUNGE」

2023年7月、香川県・小豆島の「千年オリーブテラスfor your wellness」に完成した複合商業施設。樹齢1000年のオリーブ大樹のある森の中に立つショップを兼ねた「ゲートラウンジ」は、構造体に地元のヒノキや石を採用し、VUILD監修の下、施主の小豆島ヘルシーランドのスタッフが総出で施工に参加。

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大屋根が覆う半屋外の工房はあえてつくり込みすぎず、多様な変化に対応できる場に。今後は3Dプリンターなどの機器が置かれる予定。 photo: Takumi Ota

「学ぶ、学び舎ー東京学芸大学Explayground」

東京学芸大学が教育系スタートアップを支援するMistletoe Japanと協働で進めるプロジェクトの一環として、今年9月に小金井キャンパス内に竣工したインキュベーション施設。VUILDでは初となるRC造と木造の複合に初めて挑戦し、複雑な3次元曲線を描く大規模な空間を実現した。

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大学院時代に3D木材加工機「ShopBot」に出合う

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VUILD代表取締役・建築家 秋吉浩気(あきよし・こうき)
1988年、大阪府生まれ。2013年、芝浦工業大学建築学科卒業。15年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士修了。17年にVUILDを創業。木材を切り出すCNCルータ「ShopBot」の輸入販売の他、オンデマンドで家具をつくる「EMARF」や家づくりサービス「NESTING」など5つの事業を展開する。

――大学で建築を学んだ後、大学院でデジタルファブリケーションを専攻されています。現在の事業とつながるこうした進路は、どのような理由で選ばれたのでしょうか。

大学では建築の意匠(デザイン)を専攻していました。卒業後の進路を考えていた時にちょうど東日本大震災が起きて、美容師など手に職をもった人たちが被災地で活動しているのを目にし、もう少し世の中に対して接点をもってやれるような専門性のあることはできないかと。ちょうどその頃3Dプリンターとかデジタルファブリケーション技術が世に出始めた頃で、自分も一芸というかそうした技術を手に入れれば、単にデザインするだけじゃない、何か価値提供ができるのではと思い、デジタルファブリケーションを研究する大学院でメディア研究科へと進路を変更したんです。

――VUILDを立ち上げるまでにどのような活動をされていたのでしょうか。

大学院在学中に、現在もVUILDでアメリカから輸入販売している「ShopBot」という機械に出合いました。設計図面データを入稿するとその通りに木材を切り出してくれる3D木材加工機です。在学中に販売を始めてなんとか食べていける目処がついたので起業しましたが、1年目はほとんど仕事がなくて。機械の販売の他にちょっとしたデザインをしたりしていました。デザインと言っても誰かが書いた「こんな家具が欲しい」というスケッチを元に設計データへと翻訳して、部材を切り出すということを千本ノックのようにひたすらやっていました。当時はまだ自分でデザインするということにあまり興味をもっていませんでしたね。

――そこからどういった経緯でVUILD創業に至ったのですか。

いわゆるデザイナーとしての仕事が増えてきた2017年に、世界的なスタートアップイベントのメインステージを製作したことをきっかけに、投資家と出会い、企業としていくつかの企業から出資を受けて創業しました。実際にShopBotを使って家具を具現化するにはそれなりに技術が必要だったので、オンラインで誰でも自由に家具を製作できる「EMARF」というアプリケーションソフトを整備したり、より機械を普及させ、生産と流通者のネットワークを整えるために起業した感じです。現在はVUILDが国内販売代理店となり、全国約190カ所の自治体や製材所、民間企業などに導入しています。

――家具からスタートし、現在は建築の設計も手がけられています。どのように事業を拡大していったのでしょうか。

現在も拠点を置いている川崎市のオフィスでは、内装や建具、家具まですべてを手がけていたのですが、同時にこれまでやってきた空間やスケールを超えるものをつくらないといけないという課題も感じていて。それで少しずつ規模を大きくしたり事例を増やしていき、2019年に「まれびとの家」が完成しました。富山の中山間地域に立つ宿泊施設で、地域住人が参加して施工も行うなど木材調達から加工、建設までを地元で完結させました。これをきっかけに建築も手がける集団だと認識されたと思います。そこから徐々に事業を拡大し、現在は40人ほどのメンバーが在籍しながら「ShopBot」「EMARF」「NESTING」「VUILD Place Lab」「VUILD ARCHITECTS」の五つの事業部に分かれて家具だけでなく内装や建築と幅広いプロジェクトを展開しています。

――五つの事業を展開されていますが、特に2022年にスタートした「NESTING」はデジタル化した家づくりプラットフォームとして注目を集めています。具体的にはどういったサービスなのでしょうか。

専用アプリを使って誰でも簡単に住宅の設計ができるサービスです。具体的にはまず形を選び、そこから広さや建具、設備、仕上げなどを変えると3次元イメージが立ち上がる仕組みで、大まかな概算見積もリアルタイムで算出できます。最近では「NESTING」のローコスト版として、建物のパーツがキットで届いてVUILDと一緒に施工ができるという仕組みも始めました。当事者として設計から施工まで携わることができ、すでに全国で何棟か完成しています。通常の住宅コストより安く抑えられますし、今後職人が減って原材料の単価も上がっていくことが予想されるのでその解決策にもなると考えています。利用者は主に移住者だったり、多拠点暮らしをする人が多く、家づくり全てのプロセスを楽しみたいという人たちがこのサービスに集まってきています。

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セルフビルドで建築の民主化を実践

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「小豆島 The GATE LOUNGE」内観。商品を展示販売するショップは施設のエントランスを兼ねたゲートラウンジと名付けている。地元産のヒノキの丸太が大空間を支える。photo: Takumi Ota

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瀬戸内海に面した島の先端に位置する。樹齢1000年の「オリーヴ大樹」を囲むように三又の建物をデザインした。photo: Takumi Otaphoto: Takumi Ota

ーー小豆島に完成した複合施設「千年オリーブテラス」内にあるゲートラウンジは、施主が施工に参加した事例ですね。これはどのような建物なのでしょうか。

施主である小豆島ヘルシーランド側からは、まず初めに建築のプロセスに参加したいという要望がありました。敷地は島の西端にある樹齢1000年のオリーブの大樹がある、自然豊かな場所です。これまでオリーブオイルや化粧品などをオンラインで販売していたのですが、リアルな場でお客さんと交流しながら商品を実体験してもらう場所を求められました。そこで、オリーブ畑や宿泊施設やレストランといった施設の中核となるような、人が集えるラウンジを提案しました。

ーー構造体の丸太を現したダイナミックな空間です。建材はなるべく地元のものを使用していると伺いました。

柱や梁といった構造材はすべて地元のヒノキの丸太を使っています。小豆島で木造建築をつくる場合、島外から木材を調達するのが一般的なのですが、それによって当然コストも上がり、CO2排出量や輸送エネルギーが増えてしまう。そこで島内にあるヒノキの林から1000本近い樹木を調達し、ヘルシーランドの社員スタッフが樹皮を剥ぎ、乾燥まで行いました。島内には木材用の乾燥機がないので、施主がオリーブ栽培用に使用しているビニールハウスを乾燥機に改造して代用しています。建物を支える基礎は島内の花崗岩を使用しました。

ーー地産地消かつセルフビルドでつくる。これまでにない建築プロセスはデジファブ技術を活用したからこそ実現できるわけですね。

そうですね。乾燥した木材はShopBotで加工して部材化し、それをプロの職人と一緒に組み立てました。一般的に丸太づくりの建築は数寄屋大工など優れた技術をもった人しかつくれないのですが、ShopBotを導入することで素人でも丸太のまま建築に使うことができる。もちろん最終的な微調整はプロの職人にお願いしましたが、施主がすべてのプロセスに関わることで“建築の⺠主化”を実践してくれたと思います。

ーー温かみのある丸太の空間と対照的な金属の外観が印象的です。

外壁や屋根は大聖堂などにも使われる亜鉛の板を採用しています。ここにあるオリーブの木はイタリアやスペインなど地中海から来ていて、大聖堂のように長い時間を耐えうる。塩害を考慮し時間をかけて開発していくなら、100年以上の時間に耐えるものを選びました。地元の素材を使いながら、⻑期的な時間軸として後世に残していけるものを提案したいと考えています。

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木造のスケールを超えた、自由曲面の建築

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「学ぶ、学び舎ー東京学芸大学Explayground」の施工風景。VUILDの工場内で3次元加工したCLT(積層パネル)の型枠を現場でつなぎ合わせている様子。コンクリート打設後はそのまま型枠を内装の仕上げとして残す計画だ。photo: VUILD
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全て形状の異なる約2000の部品を切り出すためデータ上で検証。部品をデジタル製造管理することでコストを抑え、工期の短縮も可能に。

――もうひとつの最新作となる「学ぶ、学び舎」はどのようなプロジェクトなのでしょうか。

東京学芸大学と教育系スタートアップを支援する民間企業が手を組んで、新しい学びを公教育の中に入れていこうというプロジェクトです。学生や先生、企業の人たちが集まれるシンボリックな場所が欲しいということでスタートしました。どのような場が必要か議論をする中で、100人ぐらいが集まってものづくりができる半屋外スペースと、それを覆う日よけの屋根といった必要最小限のものだけを備えた余白のある建築にたどり着きました。

――これまで木造建築に特化してきたわけですが、今回RC造と木造の混構造にチャレンジした理由を教えてください。

“デジタルファブリケーションのよさを活かした建築とは何か”を模索する中でたどり着いた案です。これまでの木材をメインにしたやり方だとどうしても規模に限界があったので、そこにチャレンジしたい気持ちがありました。そもそもRC造の建物は型枠によって形状が決まるのですが、プラモデルのようにキット化すれば特別なスキルがなくても簡単に安く、かつ大規模な自由曲面をつくることができます。ただコンクリートはCO2排出量や廃棄量が大きいのでなるべく使用量を少なくし、型枠はそのまま内装材として残すなどして環境負荷を減らすことをテーマにしています。一方で木造は燃えやすいという欠点があるのでコンクリートと複合させることで耐火性を高めつつ、木の質感といった木造ならではのよさを活かしたハイブリッドの建築を目指しました。

――複雑な屋根の形状が特徴的です。これはどういう意図があるのでしょうか。

先ほど話したようになるべくコンクリート量を抑えるため、通常300㎜ほどある厚みを最小で80㎜に抑えています。すると強度的な問題が出るのですが、たとえば折り紙のように、クシャっと折ると強度が高まるといった原理を応用しています。ただカクカク折れていても発展性がないので、いままでにないもう少し滑らかに波打つ“葉脈”のような曲面を考えました。

――こうした自由曲面の建築はこれまでにも建築家によって設計されてきましたが、デジファブ技術を活用することでどのようなメリットや違いがあるのでしょうか。

VUILDでは1000㎡ほどある倉庫のような工場を持っていて、ShopBotよりも大きい6mほどの5軸加工機を2台設置所有しています。それを使えば工場内で建築一棟を仮組みできます。今回はこの5軸加工機を用いることで、CLTパネルから型枠を板取りし、そこから切り出し組み立てています。いままでの工業化の手法では小品種大量生産でしたがデジタルファブリケーションの場合はそもそもパーツ1個1個がユニークでも同じコストで製造できます。そこが従来の手法とデジタルを使った手法と全く異なる部分ですね。しかもデジタルだからこそ膨大な数のパーツがあっても同じコストでつくることが可能。ある程度コストを把握した上で最大限の意匠性の高いものを実現できるというのが特徴でもあります。
これまでの自由曲面建築は“どうつくるか”までは踏み込んでいなくて、デザインありきで施工者側が無理をすることで実現していた。でもデジタルツールを活用することで高度な計算ができるようになり、それによって僕らのような小さな企業でも高度な製造技術を手に入れられるようになったと言えます。

――今年で創業6年を迎え、これからの活躍が楽しみです。VUILDでは今後どのような展開を目指されていますか。

5つの事業を展開しながら多様なプロジェクトをやりつつ、先ほどの最新作のようなシンボリックな建築に挑戦していくつもりです。実際に1000㎡を超えるような大規模な建築プロジェクトがいくつも進んでいます。VUILDの強みは“0から1”をつくることにあると思っているので、これからも誰もやったことない技術を試しながら、見たことのないものをつくることに特化し、さらにネットワークを広げていくような新しい事例や規模を追求していきたいですね。 

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VUILD創業以前から輸入販売を手がける3D木材加工機「ShopBot」。設計データの通りに木材を切り出し、家具などを自由に制作できる。
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神奈川・川崎市内にあるオフィス。現在40人ほどのメンバーが在籍し、建築にまつわる5つの事業を展開している。

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Pen CREATOR AWARDS 2023
2017年にスタートした「Pen クリエイター・アワード」。第7回となる今回は、その1年に最も輝いたクリエイターをたたえる『Pen』本誌での特集に加えて、最旬のクリエイターをWEBで紹介する「BREAKING」と、作品公募×ワークショップのプロジェクト「NEXT」を展開。本誌「クリエイター・アワード」特集は2023年11月28日発売予定。