落合陽一写真展『晴れときどきライカ』、ライカで撮られた唯一無二の世界観

  • 文:中島良平
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落合陽一⚫︎1987年生まれ。メディアアーティスト。2010年ごろより作家活動を開始し、境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開する。2019年に写真集『質量への憧憬』を発表。個展やグループ展で写真やインスタレーション作品を発表するほか、「落合陽一×日本フィルプロジェクト」を演出するなど、さまざまな分野とのコラボレーションも手がける。筑波大学准教授、京都市立芸術大学客員教授。撮影:中島良平

落合陽一 写真展『晴れときどきライカ』がライカギャラリー東京とライカギャラリー京都で10月29日まで同時開催されている。東京展のサブタイトルが『逆逆たかり行動とダダイズム』、京都展が『質量への憧憬、ラーメンは風のように』。文芸雑誌『文學界』で「毎日風景を撮ろう」というテーマで続けた「風景論」と題する連載を書籍化するに際し、『晴れときどきライカ』と名付けた。

「晴耕雨読じゃないですけど、晴れたときにはライカをもって外に出て写真を撮ると。1年半ぐらい続けた連載で、そのときにやっていることを写真と文で綴った散文集みたいになったので、『晴れときどきライカ』というタイトルがいいと思って本にしました。この会場(インタビューを行ったライカギャラリー東京)では、本に未掲載のものも含めて2019年から23年ぐらいに撮った写真を集め、テーマが『デジタルネイチャー』なので、計算機にまつわる写真も多く展示していいます」

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ライカギャラリー東京の展示風景より

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物理的な身体性の領域においても「デジタル」が行き渡り、質量のある従来の自然と、コンピュータによって生まれた質量のないデジタルの自然。それらの自然は不可分であり、融合した「計算機自然(Digital Nature)」を私たちは生きている。年間に10万枚ほど写真を撮影するという落合は、ライカを通じて計算機自然の微細な動きを捉え、物質と非物質、生命と非生命の間を自由に行き来する。江戸時代の「置くだけで数えられる計算器」から現代までの多様な計算機を写した写真に加え、日常で目にした風景や、作品として演出した写真までが展示されているが、そこにデジタル技術との対峙を命題とする落合らしいプログラムが加わっている。写真作品の下に掲示されたQRコードを読み取ると、スマートフォンのモニター上にその写真が動き出す動画作品が展開するのだ。

「写真展を何度かやっているんですけど、割と変わった被写体をよく撮影するので、じっくり見てもコンテクストがないとわからないものが多いんですよ。円空が彫った重要文化財の大納言像などを生木で再現して、日下部民藝館で撮影した写真も展示しているんですが、円空がいま彫ったばかりの彫刻が置いてあるはずはないので、相当変な画面になっているはずです。でも多分、人間はそこまで着目して見ないですし、写真だけの展示だとそこまで集中力が保たないこともあります。なので写真を元に生成AIでグリグリ変わっていく様子を見せることができれば、そのオブジェが何か変だと気づいてもらえたりして面白いかなと思って、今回は映像をつくりました」

 

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龍を想起させる木の立体物を撮影した写真からは、龍のようにうごめく動きが映像に生成されている。ちなみに、展示構成の下敷きに干支も採用されており、この作品は「辰」と関連づけられている。撮影:中島良平

書籍『晴れときどきライカ』に関しては、日記がわりにさまざまな被写体を撮影した写真が掲載されている一方、展示には作品として撮影された写真も多く含まれている。京都では寺院にまつわる作品を多めに、など東京と京都でそれぞれ展示の傾向はあるが、干支と歳時期を組み合わせて「寅だから猫のトラ彦を」「6月だから鮎を」といった具合に被写体を並べるなど、いくつもの仕掛けを施しながら展示を構成した。

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「仕掛けとしてはSF小説並みに緻密に作品を選んで配置しています」と、展示構成の「メモ書き」を見せる落合。東京と京都の作品展示の呼応関係も考えたシミュレーションの痕跡だ。撮影:中島良平

 

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ライカギャラリー京都の展示風景より

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撮りたい画像はAIで生成できるが、写真を撮る理由とは?

身体を使って撮った写真を展示し、そこから生成AIで作成した動画をQRコードでリンクさせるように、ヴァーチャルとフィジカルの行き来はこれまでのインスタレーションなどでも行ってきた落合。「最近はブログで使う写真もほとんど撮影していなくて、生成AIでほぼつくってるんですよ」と語るように、AIにおいて不可欠なものとしての写真についてもこう話す。

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ライカギャラリー東京展示風景より

 

「AIは写真で学習しているものがほとんどなので、石油じゃないですけどAIの動作に必要なエネルギーと捉えられていて、写真をこれだけ人間が撮ってこなかったらAIがこれだけ多くのことを認識してはいないと思っています。つまり、生成AIでイメージをつくる作業は、膨大なイメージでつくられたドロドロの豆乳から湯葉をすくい上げるようなものだと思っていて、自分が撮りたい写真のイメージがあれば、プロンプトに適切な文字列を入れれば過去の画像から作成することができるわけですよね。

そう考えたときに、フィジカルな部分でしか起こらない偶然を捕まえられるのが、カメラで写真を撮る行為だと思うんですね。1回その偶然を捕まえてしまうと、同じようなものは結構生成AIで作れる。だけど、その偶然は逃したくないし、貯めていきたいから、カメラはずっともち歩く。そんな距離感を大切に考えていますね」

細い髪の毛と光と溶け合うようなボケ感など、生成AIで画像作成するときにも、ライカならではのレンズの描写力の美しさには舌を巻くという落合。自らの撮影、現像、プリントという経験値を獲得し、視覚とそれ以外の感覚も含めて体験的に得る情報といった観点からも、写真というメディアは欠かせないものとして人と生き続ける。『晴れときどきライカ』と題する展示と本には、そんな落合陽一の現代的な写真観が込められている。

 

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ライカギャラリー京都展示風景より

 

晴れときどきライカ——逆逆たかり行動とダダイズム

開催期間:〜2023年10月29日(日)
開催場所:ライカギャラリー東京(ライカ銀座店2F)
東京都中央区銀座6-4-1 2F
TEL:03-6215-7070
営業時間:11時〜19時
定休日:月
入場無料
https://leica-camera.com/ja-JP/event/leica-gallery-tokyo/yoichi-ochiai

晴れときどきライカ——質量への憧憬、ラーメンは風のように

開催期間:〜2023年10月29日(日)
開催場所:ライカギャラリー京都(ライカ京都店2F)
京都府京都市東山区祇園町南側570-120 2F
TEL:075-532-0320
営業時間:11時〜19時
定休日:月
入場無料
https://leica-camera.com/ja-JP/event/leica-gallery-kyoto/yoichi-ochiai

https://yoichiochiai.com/exhibition/leica-2023/