ヒップホップ誕生50周年も後押し オープン&リニューアルが目白押し、NYの美術館を一挙紹介

  • 文:菅 礼子

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1973年8月にニューヨークのブロンクスのパーティーでDJクール・ハークによって誕生したとされるヒップホップは今年で50周年を迎えた。本拠地ニューヨークはこれを機に、今年から来年にかけてヒップホップの50周年を祝う多種多様なイベントが行われているが、ニューヨークはアートやカルチャーを受け入れ、育て、盛り上げて文化として成熟させていく土壌がある。

2024年にはサウスブロンクスの「ブロンクス・ポイント」と呼ばれる複合住宅の一部に「ユニバーサル・ヒップホップ・ミュージアム」がグランドオープンする。昨年からニューヨークでは美術館のオープン、リニューアルラッシュが続いており、本記事では、その現状をレポートする。

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今年はマンハッタン各地でヒップホップに関する展示やウォールアートを見ることができる。

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ニューヨークから発信する、LGBTQの歴史博物館

多様な人種や性に対する多様な嗜好を持つ人々が暮らすニューヨークは、世界的に見ても多くのバックグラウンドを持った人々が受け入れられる風土があるように思える。街を歩いていてもLGBTQの人たちが手を繋いで歩いている姿をよく目にし、人に会った際にはもちろん、人種や宗教、性別に関しての質問をしない。みんな違って当然であり、違うことが個性として美しいとされる街でもある。そんな世界一ダイバーシティーな都市ニューヨークでは、性に関する多様性の変遷を表現した美術館がオープン予定だ。

ストーンウォール国立記念碑ビジターセンター
(Stonewall National Monument Visitor Center)
2024年、ウェストヴィレッジにあるゲイバー「ストーンウォール・イン」の店舗の隣にストーンウォール国立記念碑ビジターセンター(Stonewall National Monument Visitor Center)がオープンする。「ストーンウォール・イン」と言えば1969年に警察の立件捜査があった際に初めてLGBTQ当事者たちが立ち上がり、暴動を起こした事件だ。その事件をきっかけにLGBTQ当事者たちは隠れることなく、権利を主張するために立ち上がったとされる。ストーンウォール国定記念碑は自由の女神などと並ぶ国定記念碑に指定され、LGBTQの公民権運動の発端となった出来事を保存し、未来に発展させていく象徴となる。

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ウェストヴィレッジにある「ストーンウォール国定記念碑」
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「ストーンウォール国定記念碑」に飾られている「ゲイの解放」像。

アメリカLGBTQ+博物館
(The American LGBTQ+ Museum)

LGBTQの歴史に特化した博物館がニューヨーク歴史協会とのパートナーシップにより2026年にアッパーウエストサイドにオープン予定だ。LGBTQの人々が迫害から立ち上がり、社会に受け入れられていく変遷を記録していくことで、さまざまなコミュニティが社会から認められることを目指している。博物館のコンセプトは3,200人以上のLGBTQの人々の調査から得た視点に基づいて構築されたという。

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ダイバーシティの坩堝、NYCの歴史を紐解く

世界中から多くの人々が移民として集まってきたニューヨークは、現在もアメリカ屈指の多様性を誇る。ニューヨーク市立博物館(Museum of the city of New York)は今年で開館100周年を迎え、改めてニューヨークという街の歴史に焦点を当てる。他にも人種や国単位で設立された団体や施設がリニューアルや周年記念を迎えており、ダイバーシティの坩堝であるニューヨークならではの動きだ。

ニューヨーク市立博物館
(Museum of the city of New York)

1923年に設立されたニューヨーク市立博物館はニューヨーク市(NYC)の歴史を展示する博物館で、100周年を迎える今年、ニューヨーク市が紡ぐ400年の全歴史を語る「New York At Its Core」を開催している。この400年という歴史はアメリカ合衆国が設立される前からのもので、ニューヨーク市はアメリカ合衆国よりも長い歴史を持つということになる。その他にも、古典的なアートからポップカルチャーまで、有名なアーティストから無名なアーティストまでがニューヨークを描いたさまざまなアートを展示する「This Is New York:100 Years of the City in Art and Pop Culture」も開催中だ。

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開館100周年を迎えたニューヨーク市立博物館

ウクライニアン・インスティテュート・オブ・アメリカ
(Ukrainian Institute of America)

国家歴史登録財にも指定されている建築家、チャールズ・P・H・ギルバート邸に1955年にオープンしたウクライニアン・インスティテュート・オブ・アメリカ(Ukrainian Institute of America)は今年で75周年を迎えた。同施設はウクライナ系アメリカ人のコミュニティの中心地として、また、ウクライナの芸術や音楽、文化の振興を目的としている。昨今、ウクライナは国家的にも厳しい状況下に置かれているが、アメリカへ移民として来たウクライナコミュニティが一丸となり、文化を始め、ウクライナの発展のために活動を続けている。

ヒスパニック・ソサエティ・オブ・アメリカ
(Hispanic Society of America)

ヒスパニックと呼ばれる、スペイン、ポルトガル、ラテンアメリカのアートや書物を所蔵している博物館、ヒスパニック・ソサエティ・オブ・アメリカ(Hispanic Society of America)が6年の改修期間を経て、今夏リニューアルオープンした。1904年に設立された歴史ある博物館で世界的にみても貴重な所蔵品が展示されており、20世紀までのスペイン、ポルトガル、ラテンアメリカの文化を網羅している。人種的にアメリカにおいて白人の次に人種の割合を占めるヒスパニック系が及ぼす文化の影響は大きい。ヒスパニックの言語、文化、芸術の促進とコミュニティの発展に寄与している。

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アートが創り出す、ニューヨークという街

音楽や演劇、芸術など、広義な意味でのアートで溢れているのがニューヨークだが、アートがニューヨークをつくり出していると言い換えてもいいだろう。クイーンズにあるMOMAの別館、「MOMA PS1」の壁には“ARTISTS MAKE NEW YORK”の文字があり、印象的だ。今秋には、ワールドトレードセンターの9.11メモリアルの横に新しいアートセンター、ペレルマン・パフォーミング・アーツ・センター(Perelman Performing Arts Center/PAC NYC)がオープンする。

ペレルマン・パフォーミング・アーツ・センター
(Perelman Performing Arts Center/PAC NYC)
今年9月にワールドトレードセンターにオープンする新しいアートセンター。演劇、音楽、オペラ、ダンス、映画、メディアなど、幅広いアートの発信地となる。9月はクラシックミュージック、フォークミュージック、ジャズなど、バラエティに富んだラインナップとなる。

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「ワン・ワールドトレードセンター」や「911メモリアル」と同じ敷地内にある「PAC NYC」

ブロードウェイ博物館
(Museum of Broadway)

2022年11月にタイムズスクエアにオープンした博物館。国際的なアーティストや演劇史の専門家たちと協力し、ブロードウェイの歴史に焦点を当てている。ブロードウェイの過去から現在への変遷、歴史上、人気のあったミュージカルの作品を取り上げたコーナーもある。

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ブロードウェイの劇場がひしめき合うタイムズスクエアにオープンしたブロードウェイ博物館

多彩な文化と人種が入り混じるニューヨークらしい博物館、美術館の数々。ニューヨークを訪れた際にはぜひ足を運んでほしい。