次代を担う若者が東京 & 京都のトップシェフと紡ぐ「海の未来をつくるレストラン」

  • 文:岡野孝次

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「ザ ブルー キャンプ」の東京ポップアップレストランで提供されたメイン料理「不鯛・醜鯛・舞鯛…? ユニークなお魚ブダイのカダイフ揚げ ブールブランとラタトゥイユを添えて」。

サンマやサケの不漁が報じられるなど、乱獲や地球温暖化などの影響で、日本を取り巻く海の環境が激変している。この問題と向き合い、「サステナブルな海と未来につながる食文化」を模索すべく活動をするのが、2017年にフードジャーナリスト & 東京のトップシェフ約30人を構成メンバーに立ち上げられた、一般社団法人「シェフス フォー ザ ブルー」。2021年には京都のトップシェフ約15人とともに「シェフス フォー ザ ブルー 京都」を創設し、東京と京都の2拠点から、未来の海と食文化を守るための情報を発信している。

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「ザ ブルー キャンプ」の東京ポップアップレストランの様子。キッチンは、おもに調理・料理の専門学校生が担当。

今夏には、日本財団の環境啓発活動「海と日本プロジェクト」の一環として、東京 & 京都のトップシェフ4人が学生と協業するプログラム「ザ ブルー キャンプ」を実施。この取り組みを通して、学生とともに日本の海の未来について考えた。指導に当たったシェフは、東京が「ノーコード」の米澤文雄と「シンシア」の石井真介、京都が「モトイ」の前田元と「チェンチ」の坂本健。いずれもミシュランの星を獲得した、錚々たる面々である。

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サービスは水産学を専攻する大学生などが中心となって担当。また参加したすべての学生は、「シンシア」にて2日間のレストラン研修を積み、シェフの石井真介などから指導を受けた。

参加者は東京と京都の2カ所を会場として募集され、選考の結果、合わせて16名の学生が「ザ ブルー キャンプ」のメンバーに決定。約3カ月のスケジュールの中で、オンライン講座、企画会議、フィールドワーク(漁港視察)、レストラン研修などを体験した。プログラムの最後には総仕上げとして、学生たちがポップアップレストランを運営。東京と京都あわせて約240名のゲストが訪れて、サステナブルな未来の海のために考案されたメニューに舌鼓を打った。

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東京チームは神奈川県三浦半島の長井漁港で、仲卸の現場を視察。
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オンライン講座の講師を務めた千葉・船橋の沿岸まき網船団「大傳丸(だいでんまる)」の大野和彦を有志で訪問した。

東京チームのフィールドワークでは、神奈川・横須賀「さかな人」代表で仲買人の長谷川大樹などのもとを訪問。またオンライン講座には千葉・船橋の沿岸まき網船団「大傳丸(だいでんまる)」代表の大野和彦が出演した。その縁もあって、8月11日〜16日に東京大学駒場第二キャンパス内「食堂コマニ」で開催されたポップアップレストランでは、両名から届けられた魚がメニューを彩った。漁師の大野から届いたのは、夏が旬のスズキ。しかしプログラムに参加した学生いわく、この〝旬〟といわれる時期には、実は2通りの意味があるという。

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東京のポップアップレストランで提供されたメニューは合計4皿。前菜は「未来を見据える船橋の漁師・大野さんが届ける旬のスズキとレモングラス、ライムのタルタル仕立て グリーンカレーヴィネグレット」。

「まず1つ目の旬が、産卵期。産卵するために群れになったり岸に近づいたりするため、漁獲しやすい水揚げの旬です。もう1つが、産卵期から時期が離れた味わいの旬。今回のスズキは、後者の旬を指します」
「漁師の大野さんは『産卵期の魚がまき網にかかったら逃す』と言います。自然繁殖の機会を妨げないことで、次代の海を豊かなものにしたいとの思いがあるそうです」
 
そんな大野の海の未来を思う気持ちに惹かれて、ポップアップレストランで彼が水揚げした魚を用いたいと考えたと話す学生たち。味わいの旬を迎えたスズキはプリプリとした食感で、旨味はきめ細やか。白身の清らかな透明感も、目に涼やかだ。

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2皿目で登場した「魚の生命力に魅せられた仲買人・長谷川さんが惚れ込んだ4種の『海の原石』ラグーパスタ」。

一方で、学生たちが仲買人の長谷川から取り寄せたのは、バショウダイ、コロダイ、マツダイ、メジナ。これらは需要が少ないために市場に出回らず、水揚げされても利用されることの少ない「未利用魚」「低活用魚」と呼ばれる魚たちだ。
 
「『日本近海で魚が獲れない』とのニュースをよく耳にしますが、実はさまざまな魚が水揚げされている事実が知られていないんです」
 
学生たちはこれらの魚に「海の原石」という新たな名前を与えて、味わい深いラグーパスタの主役に据えた。4種の魚をミンチにして一緒に煮込むことで、ひと口で、それらの美味しさを堪能できる。加えて食べ手は それぞれの魚の異なる食感や風味を楽しむことが可能で、まだ出合ったことのない、その他の「海の原石」への興味も湧いてくるのだ。

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「ザ ブルー キャンプ」東京チームに参加した学生たち。

他方、京都チームのポップアップレストランは、河原町御池にあるコミュニティキッチン「DAIDOKORO」にて、8月14日〜8月19日の日程で開催された。こちらもカリキュラムの流れは東京チーム同様で、フィールドワークでは兵庫・明石「金楠水産株式会社」4代目の樟陽介、鮮魚卸「つる一」店主の鶴谷真宜のもとを訪ねて、明石浦漁港や仲卸の現場を視察した。

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「ザ ブルー キャンプ」の京都ポップアップレストランの様子。こちらも計4皿のメニュー構成で、学生たちの手によって手際よく料理がサーブされていく。
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京都チームは明石浦漁港を視察。
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レストラン研修は「チェンチ」でおこなわれた。

金楠水産の樟からは、夏が旬の明石のタコが絶妙な火加減で茹でられ、学生たちのもとに届けられる。これは季節の野菜と合わせて、サラダとして提供された。
 
また京都チームでは、「つる一」から仕入れた未利用魚が、〝幻の魚〟と命名されて用いられた。「幻の魚のパータフィロ」の薄い生地のなかに閉じ込められたのは、クロシタビラメ、キビレ、ミシマオコゼなど7種類の魚の切身。使用する未利用魚を白身に統一することで、食感や風味はさまざまながら、味わいの一体感が生まれている。

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前菜の「明石のタコと焼ナスのタルタル」
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小麦粉、コーンスターチ、水、塩などで作られた薄い生地で魚の旨味を閉じ込めたメイン料理「幻の魚のパータフィロ」

「ザ ブルー キャンプ」のポップアップレストランが伝えてくれた、海の食文化の豊かさ。しかし我々日本人が、その恵みを活かし切れていない現実がある。
 
「サステナブルな海の食文化を育むためには、せひ味わいの旬の魚を楽しんでください。また同時に〝当たり前〟を疑ってみてください。普段スーパーに陳列される以上に、さまざまな種類の魚が日本周辺の海では獲れているのですから」
 
3カ月間のプログラムを終えた学生たちが紡いだ、次世代の海を思う言葉。その声に耳を傾け、〝いつもの魚〟以外に目を向けることが、日本の未来の海を守るための一歩になるのだ。

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京都チームのメンバー。東京・京都とともに最後にはゲストに手土産が提供され、初めから終わりまで学生の気持ちが詰まったポップアップレストランとなった。

シェフス フォー ザ ブルー

MAIL:info@chefsfortheblue.jp
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ザ ブルー キャンプ

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