ウェス最新作は複雑な仕掛けと、50年代アメリカのムードが魅力『アステロイド・シティ』ほか【今月の映画3選】

  • 文:細谷美香(映画ライター)
Share:

今月のおすすめ映画①『アステロイド・シティ』
ウェス最新作は複雑な仕掛けと、50年代アメリカのムードが魅力

①アステロイド・シティ:メイン.jpg
撮影が行われたのは、スペインのチンチョン郊外に建てられた町のセット。ウェス・アンダーソン監督作の常連俳優、ジェイソン・シュワルツマンをはじめ、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクスら豪華なハリウッドスターたちが集結している。

インスタグラマーたちの撮った“ウェス・アンダーソンっぽい”写真を集めた展覧会が開催されてしまうほど、独自の世界観が確立されている映画作家は、それほど多くはない。くすんだ色合いやシンメトリーな構図、細部まで美意識を詰め込んだ衣装やセット。すべてのシーンに刻印があるかのような映像を生み出してきた彼の作家性は、砂漠が舞台となった『アステロイド・シティ』でももちろん失われることはない。

1955年、隕石による巨大クレーターがある町に、科学賞を受賞した子どもたちと家族が招待される。母親が亡くなったことを子どもたちに伝えられない戦場カメラマンの父親や、シングルマザーでもある映画スター。さまざまな事情を抱えた人々が集ったこの街に、宇宙人が現れる……というストーリーはあるのだが、なによりもユニークなのは、劇場と砂漠の町を背景にした入れ子構造かもしれない。

上演される舞台の制作過程に密着したテレビ番組がモノクロで映し出され、番組のためにつくられた「架空のドラマ」だという物語がカラーで描かれる。一体どちらがフィクションで、どちらがノンフィクションなのか。舞台、ドラマ、映画の境界線さえも曖昧になって混乱させられるような感覚が、本作にはある。これまでの監督作と同様に、箱庭的なウェス映画の完璧な住人になった俳優たちが、観客を独自の世界に招き入れる。前作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』にはフランスや雑誌への憧れが詰め込まれていたが、今回色濃く感じられるのは50年代のアメリカへの想いだ。全編から未知なる宇宙への興味や演劇界への憧憬が浮かび上がり、ウェスの仕掛けに翻弄されながら時代のムードに浸る楽しみを味わえる一本だ。

2_アステロイド・シティ:サブ1 (2).jpg
© 2022 Pop. 87 Productions LLC

『アステロイド・シティ』

監督/ウェス・アンダーソン
出演/ジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソンほか
2023年 アメリカ映画 1時間44分 9/1よりTOHO シネマズ シャンテほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

---fadeinPager---

今月のおすすめ映画②『ほつれる』
気鋭の劇作家が静かに描き出す、大切な人を失った女性の心の旅

③main.jpg
© 2023「ほつれる」製作委員会&COMME DES CINÉMAS

夫との関係が冷え切っている綿子は、友人の紹介で知り合った木村と会う時間を重ねていた。しかし木村は綿子とのキャンプの帰り道で事故に遭い、帰らぬ人となる。劇団た組を主宰し、『ドードーが落下する』で岸田國士戯曲賞を受賞した若き才能、加藤拓也が脚本と監督を務めた。自分にとって大切なことや失いたくない人との対峙から逃げてきた主人公は、どこにたどり着くのか。いつの間にか絡んだ糸をほどくような心の旅を静かに見つめている。

『ほつれる』

監督/加藤拓也
出演/門脇 麦、田村健太郎ほか
2023年 日本映画 1時間23分 9/8より新宿ピカデリーほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

---fadeinPager---

今月のおすすめ映画③『ダンサー イン Paris』
ダンサーの身体性が活かされた、新たなステージへの扉を開く物語

④ダンサーインParis/メイン.jpg
© 2022 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA Photo : EMMANUELLE JACOBSON-ROQUES

パリ、オペラ座。公演中に恋人の裏切りを目にしたエリーズは、動揺から転倒してしまう。ケガによって夢を絶たれた彼女が出合ったのは、コンテンポラリーダンス。やがてエリーズは完璧ではない自分を受け入れ、新しい一歩を踏み出す。映画初出演にして主演を務めたのはオペラ座のダンサー、マリオン・バルボー。冒頭から彼女の身体の説得力が映画を支えている。瑞々しい感性と感動を届けてくれる、セドリック・クラピッシュ監督の最新作。

『ダンサー イン Paris』

監督/セドリック・クラピッシュ
出演/マリオン・バルボー、ホフェッシュ・シェクターほか
2022年 フランス・ベルギー合作映画 1時間58 分 9/15よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

※この記事はPen 2023年10月号より再編集した記事です。