特別ではない素材と道具で、特別な一枚をつくる陶芸家

  • 写真:朝山啓司
  • 写真:内藤貞保
  • 文:高橋美礼
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作家
鹿児島 睦

1967年、福岡県生まれ。美術大学卒業後、インテリア会社に勤務しディスプレイやマネジメントを担当する。2002年より、福岡市内にある自身のアトリエにて陶器やファブリックを中心に制作活動を開始。国内外で個展を開催している。

 

独自の世界観をつくり上げながら、陶芸にとどまらない作品を発表し続けている鹿児島睦。初の大規模個展も開催されているいま、制作の現場を訪ねた。

Pen最新号は『デザインと手仕事』。テクノロジーの進化が目覚ましい現代において、いま改めて人々は、手仕事に魅了されている。しかもそれを、使い手である私たちだけではなく、つくり手であるデザイナーや建築家たちこそが感じている。手仕事に惹かれるのは、手の温もりを感じられるから──そんなひと言にとどまらない答えが、ここにある。

『デザインと手仕事』
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陶芸家でアーティスト、鹿児島睦の代名詞的な作品は、植物や動物をモチーフにした図案を施した絵皿だ。2002年から本格的に作陶を開始して以来、国内外で多くのコレクターを魅了している。今年6月から初の大規模個展『鹿児島睦 まいにち』も始まり、10月からは東京、その後、静岡、福岡へと全国に巡回する予定だ。

鹿児島の拠点は福岡市内にある自宅兼アトリエと、郊外の一軒家を改築してろくろを置いたアトリエ。立体オブジェや大きな絵皿などは、広いアトリエでつくる。

粘土を成型し乾燥させて白土を塗ってから、染付の下描きや蝋抜き、顔料を使った下絵付けや鉄絵付け、掻き落とし、といった技法で絵を完成させ、釉薬をかけて電気釜で焼成するまで、すべて手作業。部分的に家族も手伝うが、弟子や職人がいたことはない。制作しながらこまめに片づけ、最後は床を雑巾がけして終了、というルーティンによって整然と保たれている心地よい空間には驚かされる。

「磁器をつくる工房は、磁器が嫌う鉄分を避けておく意味もあって、床でご飯が食べられるくらい、きれいです。それに比べると、僕がつくるような陶器の作業場は土足が基本で汚れていることが多い。でも、きれいにしておくこともできる、と証明してみせたい気持ちもありますね」

乱雑さとは無縁なアトリエでは、アルヴァ・アアルトのダイニングテーブルが作業台。打ち合わせスペースに揃っているのはハンス・ウェグナーの家具。そこに海外のアンティーク店で見つけた小物類や照明をコーディネートし、季節の花を飾る。鹿児島が1枚の皿の上に描き出す無国籍な雰囲気や想像の世界の延長線上にある場所なのかもしれない。シンプルでありながら独自の審美眼で選び抜かれたもので満ちている。

 

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黒地に複数の色の顔料で下絵付けをした器に、掻き落としをしているところ。このラインでかたちが決まる。すぐにハケで払い、アトリエは常に整然とした状態を保っている。

 

さらに興味深いのは、こうした絵皿をつくるために使う道具が、どれも一般的なものであること。

「誰でも入手できる材料でつくるのがテーマでもあります。たとえば、掻き落としでは、探針(たんしん)という歯医者さん用の医療機器を使うこともありますが、傘の骨もいいです。クッキーの抜き型も、少し変形させたりしながら使います。特別ではない素材と道具で、いかに効果的なものをつくれるかと考えますね。それは、個性とか自分らしさを表現したいというよりも、人に楽しんでもらいたいという意味での効果のこと。だから、料理を盛り付けて使っても、飾ってもらってもいいんです」

 

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陶器製の立体オブジェ「花と鳥のタワー」。土台となる部分に模様を付け、花と鳥はひとつずつ型抜きをしてから丸みをつけたり凹凸を加えた後、組み上げた。

 

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個展会場で放映中の映像にも登場するモビール。制作していない時間帯は「誰もいなくて寂しい画面になると思って」、届いた荷物の段ボールを切り抜いてつくった。

 

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電球、傘の骨、クッキー型、歯科器具、貝殻……。身の回りで見つけた個性的なかたちのものを、アレンジしながら道具として使う。陶芸をしていた鹿児島の祖父が手製した小さな花型なども使っている。

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熟練の腕を信頼し、コラボレーションを楽しむ

鹿児島の作風を特徴づける大胆なモチーフは絵皿以外でも展開されている。一澤信三郎帆布のトートバッグ類、ジャム専門店「ロミ・ユニ コンフィチュール」のパッケージなど、コラボレーションの領域は広い。相手との関係性が新鮮な刺激になるのだという。

京都の西陣に工房を構える唐紙専門店「かみ添」との共作も、そのひとつ。今回の個展のために、新たに2つの柄を描きおろした。和紙に白い胡粉と白いきら(雲母の粉)で刷り上げた唐紙は、光の加減によって、階調が異なる白の表情が浮かび上がる。

「下絵を描きながらかたちを決めていきました。それを職人さんが木の板に彫る工程では、細かい点や線まできちんと刷れるようにアレンジしてくださいと委ねます。分業で進める熟練の腕を全面的に信頼しているので自分がつくったものと100%同じにしてほしいとは思いません。最初にいつもとは違う図柄で挑戦してみたら、かみ添さんは『鹿児島さんらしい絵がいいと思いますよ』と本質を見極めていらっしゃり、和紙の色も奇抜で特別なものをお願いしたら、『白が美しいです』と的確な助言をくださる。唐紙は本来、薄暗い日本間に置き、ロウソクの灯りで見るものです。その原点に近い仕上がりになったと思います」

徳島の藍染工房BUAISOUと制作した風呂敷も、すぐにファンの心をつかんだ。絵皿から始まった鹿児島の世界は、ひとりの手仕事で完結する陶芸の枠を超え、異素材や技術とともに、広がり続けている。

 

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陶器の作品は、福岡市内にある自宅兼アトリエと、郊外の自宅を改装したアトリエで制作される。素地づくりから絵付け、焼成まで、すべて手作業。

 

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進行中のプロジェクトに関するメモやスケッチ類。個展用に、クマのかたちをした和紙の照明をデザイン設計していた時の指示書も。実は当初のアイデアはぬいぐるみだった。

 

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鹿児島が描いた絵をパターン化し、京都西陣のかみ添が制作した唐紙。白色の胡粉を引いた和紙に白いきら(雲母の粉)で刷ってあり、光の加減で浮かび上がるように見える。

 

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個展会場で上映する動画撮影のために必要になり、MoMAデザインストアで購入した鳩時計。朝10時から夕方6時まで、鹿児島の1日を映し出す映像で鳴いているのは、この時計。

 

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自宅のデスク周辺にはさまざまなコレクションがぎっしりと並ぶ。このフクロウは、作陶の土が余った時に思いついてかたちにしたもの。気に入ったので金箔を貼って飾ってある。

 

初の大規模な展覧会が、全国で巡回中

近年、国内で鹿児島睦の作品を直に見ることができる機会は少なかった。6月から市立伊丹ミュージアムでスタートした個展では、新作をはじめこれまでにはない作品が紹介されている。写真上から:即興で描いた会場入り口の壁画、和紙照明の林工芸とつくったランプ、200枚もの新作絵皿、かみ添とつくった唐紙の屏風。職人とのコラボレーション作品にも注目をしたい。他にも鹿児島の「まいにち」を映したドキュメンタリー映像も見逃せない。

『鹿児島睦 まいにち』

会期:10月7日〜2024年1月7日 
会場:PLAY! MUSEUM
●東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3棟2F 
TEL:042-518-9625 
営業時間:10時〜17時(月〜金) 10時〜18時(土、日、祝) 
※入場は閉館30分前まで 無休  料金:一般¥1,800 
https://play2020.jp

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