職人と世界をつなぎ継承するデザイナー、ガブリエル・タンのものづくり

  • 編集&文:山田泰巨
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職人と世界各地のデザイナーを組み合わせることで、素材と技術の妙を引き出すガブリエル・タン。事業の持続可能性にも目を向ける、彼のプロジェクトとは。

Pen最新号は『デザインと手仕事』。テクノロジーの進化が目覚ましい現代において、いま改めて人々は、手仕事に魅了されている。しかもそれを、使い手である私たちだけではなく、つくり手であるデザイナーや建築家たちこそが感じている。手仕事に惹かれるのは、手の温もりを感じられるから──そんなひと言にとどまらない答えが、ここにある。

『デザインと手仕事』
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アジア、ヨーロッパ、アメリカに拠点をもつデザイナーのガブリエル・タン。彼は2014年、休暇先のポルトガル・ポルトで、同国北部の工房に息づく職人の技術や原材料の美しさと出合う。彼らのものづくりは対外的に知られておらず、グローバリゼーションや工業化が進むなか、伝統を守る職人こそサポートすべきと考え、手工芸に着目したブランド「オリジン・メイド」を立ち上げる。「家族経営の工房との出会いは、私に土地独自の製法や原材料を教えてくれました」とタンは言う。

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ガブリエル・タン

1982年生まれ。海軍からデザイナーへと転じた異色のキャリアで、2016年にスタジオを設立。日本の家具ブランド「アリアケ」でクリエイティブディレクションを手がけるほか、B&Bイタリアなどから家具を発表。ハーマンミラーから発表したソファ「ルヴァ」は、今秋日本発売予定。

彼は陶磁器や石、金属などの素材を扱う職人を世界各地のデザイナーと組み合わせ、コンテンポラリーなデザインでその可能性を表現する。素材と技術の妙を引き出し、家具、照明、雑貨は単なる日用品としてではなく、そこに芸術性を感じるレベルまで高めることを目指した。それは、「人と素材の深い関係を育むことで、地球との密接なつながりと責任を使う人にも感じてほしい」からだと言う。「いま私たちは自ら所有するものの出自に疑問をもち始め、もっと生活に意味のあるもの、本物であること、個人的なものを求めています。大量生産品の均質性や匿名性、使い捨てのあり方にうんざりしている側面もあるでしょう。だからこそ、つくり手や素材、製品の背後にある物語とのつながりを求める。魂が宿り、歴史をもち、個性があるものを欲しています」

彼は自身の出身地であるシンガポールに手工芸の文化がほとんどなく、だからこそ手工芸の表現を守りたいとも語る。「ハンドメイドで生まれるプロダクトは単なる物や商品ではありません。そこには人々の創造性や技術、精神が宿ります。文化的多様性やアイデンティティ、伝統が表れるからこそ、人はそこに他者とのつながりを感じる。私たちがパッケージやウェブサイト、ソーシャルメディアで職人の名を公表するのもそのためです。私たちは名もなきヒーローの物語を伝え、人々がただ使用したり所有したりするだけはなく、子や孫に受け継ぎたいと願う価値をも見出してもらいたいと考えています」

同時に、工房や職人にとって生活の糧であることも忘れてはならないとタンは言う。ただ伝統を重んじるのではなく、持続可能で倫理的な素材や手法を扱うことが職人にも求められ、新しい挑戦にひるまないことも重要だ。「歴史的な遺産、知恵、技術を継承することは、私たちが歴史、文化、アイデンティティを守ることと同義です。これを経済的に持続可能な仕組みにすることで、若い世代の技術継承も可能にしたい」

世界的に活躍するタンの視点は時代を見据えつつ、持続可能性にも踏み込んだもの。その眼差しはときに厳しくも、つくり手への温かな尊敬に満ちている。

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カルロス・バルボーザとふたりの息子による工場は手作業と機械加工を組み合わせた木製品を製造。 

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3人の職人からなる小規模な陶工房で、手で調整しながら釉を掛ける。

子や孫に受け継ぐ、機能と佇まいを求めたものづくり

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フィリップ・マロインがデザインした「ブルート」は複数のコンクリート製パーツからなる彫刻的なオブジェで、テーブルを飾るセンターピースにも。オーバル245ユーロ/オリジンメイド https://origin-made.com(以下同)
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ポルトガル語で「半月」を意味する「メイア・ルア・アームチェア」は、ガブリエル・タンのデザイン。木工職人のフレームと織物職のアーム加工技術を掛け合わせた。1,450ユーロ

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ノーム・アーキテクツによるトラバーチンを削り出した石材の照明。1,225ユーロ

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シェーン・シュネックによる断熱性のある磁器製水差し「ジャグ」は、水道水を飲むことを奨励する日常使いのオブジェ。135ユーロ

 

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