「その一瞬にしか生まれない、命のぶつかり合いができた」。映画『アンダーカレント』井浦新インタビュー

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:SYO
  • スタイリング:上野健太郎
  • ヘアメイク:NEMOTO(HITOME)
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井浦新●1974年9月15日、東京都⽣まれ。1998年、映画「ワンダフルライフ」に初主演。以降、映画を中⼼にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。アパレルブランド「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」ディレクター。サステナブル・コスメブランド「Kruhi」のファウンダー。映画館を応援する「MINI THEATER PARK」の活動もしている。

『愛がなんだ』(2019年)、『街の上で』(21年)、『ちひろさん』(23年)を手がけた今泉力哉監督が、豊田徹也の伝説的漫画『アンダーカレント』(05年)を実写映画化した。

夫の悟(永山瑛太)とともに銭湯を経営していたかなえ(真木よう子)だが、ある日、何の前触れもなく悟が失踪してしまう。銭湯を一時休業し途方に暮れるも、なんとか再起したかなえのもとに突如、「ここで働きたい」という謎の男・堀(井浦新)が現れ……。

一言では言い表せない、人の心の移ろいを繊細に描いた本作には、ミステリアスな雰囲気の中にも緩やかで豊かな時間が流れている。芸術に造詣が深く、自然環境を意識した活動も精力的に行っている井浦に、本作の撮影秘話から「自然との共生」まで、幅広いテーマで話を聞いた。

物語のキーとなる、水について

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真木よう子が銭湯「月乃湯」の主人かなえを演じる。

――「アンダーカレント(海面下を流れる海流、潜流のこと)」というタイトル通り、「水」が作品の重要なモチーフになっています。井浦さんは水と人、芸術の関係性をどのように考えていますか。

井浦:水と人間の関わり合いがどれだけ密接かつ深いのかは、美術史を辿っていくとよくわかります。日本に限ったとしても、どんな時代でも必ず美術の中には水が描かれています。琳派や浮世絵、もっと遡ると、縄文土器でも水の形を捉えて造形にしているくらい、共通のモチーフになっている。これは「素敵だな」と思って突発的に描かれたものではなく、水というものが人間にとって本当に必要で、生活と密接に関わっているからこそなのだと感じます。水に限らず火も同じですが、宗教観とも切っても切り離せない関係性にあります。

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ジャケット¥97,900、シャツ¥39,600、パンツ¥71,500/ATON(ATON AOYAMA TEL:03-6427-6335) シューズ¥27,500/Clarks Originals(PR01 TEL:03-6805-0904)

――『アンダーカレント』の撮影・照明を手がけられた岩永洋さんとは、『こちらあみ子』(22年)でも組まれていますね。どちらも自然物を美しく映し出した作品でした。「自然との共生」は、井浦さんご自身にとっても大事なテーマなのでしょうか?

井浦:そうですね。自然との共生にも色々なやり方があると思います。自分自身の生活を実際に自然の中に移す方法もありますが、僕個人としてはまだその前の段階にいます。自分の仕事と家族との生活を、どう自然と結び付けていくのか。ただ単に「田舎暮らしができたらいい」というものでもないため、いまは都会にいながら自然との共存・共生や環境保全をどのように行っていくかを、模索中です。

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サステナイブルコスメブランド「Kruhi」は、自然由来成分100%の「せっけんシャンプー」を主要アイテムとして販売する。

――2022年には、サステナイブルコスメブランド「Kruhi」を立ち上げられました。

井浦:「Kruhi」を通して、環境に負荷をかけず人の健康を維持するにはどうすれば良いのか、より深く考えるようになりました。心身のメンテナンスのために、ただ無条件に100%の自然の中へ自分を放り込むことも大事だと思います。ですが、僕はきっとそれだけでは満足できないというか、納得できない状態になっています。

自分が暮らしたいのは海が近いところなのか、あるいは川なのか、もしくは僕が生まれ育ったような東京の都会の端っこにあるような山なのか。なにを目指して、自然との共存・共生をするのかをいまは考えています。もっと総合的に自分の叶えたいこと、達成したいことが固まってきたときに、共存・共生が身近なものになるんじゃないかと感じています。

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井浦は突然主人公の目に現れる謎の男・堀を演じた。
 

――いまお話しいただいたような「すぐに答えを出さない」というスタンスは、これからの時代に必要なことだと感じます。

井浦:本当にそう思います。いま行っていることも、すぐに考えて動いたものではありません。自分の興味を深く掘っていって、それが自分の中で腹落ちした上で、楽しみ続けたり、考え続けたりした結果、ようやく行動すべきことが見えてきました。無理して頑張り過ぎても続かないですし、自分のペースで活動できるのはきっといまなんだと思えたうえで、ここに至っています。

昭和・平成と続いてきた過剰なサービス競争や、そこで勝ち抜くことが正義だという考え方、便利さを求めて効率化を優先しすぎた結果が、令和のいまの姿なのだと思います。こうして一度反対側を味わったからこそ、簡単に答えが出ないものが新鮮に思えるのかもしれませんね。手間暇がかかっているものを使う喜びを感じたり、立ち止まって考えることもひとつの方法だと思える人が少しずつでも増えていけば、もっと許容性のある社会になっていくと思います。 

映画においても、「答えがわかりやすく提示されるものじゃないと観ていられない」「映画は長すぎて疲れる」という体質にしてしまったのは、作り手にも責任があると感じます。観る側が安易に求めるものをそのまま作ってきてしまった結果でもあります。発信する側が少しずつ変化していけば、受け取る側にもそれが緩やかに伝播していくと僕は信じています。

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楽しく"刺激的"な真木よう子との芝居

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「原作の漫画がすでにシネマティックなので、今泉組でつくる映画は各部が高いハードルを超えていく必要があった」という。

――『アンダーカレント』は自身に起きた“事件”について、主人公がひたすら考え続ける、答えの出ないさまを丁寧に描いた作品だと感じます。『さよなら渓谷』でも共演された真木よう子との劇中での距離感が絶妙でしたが、どうやって生み出していったのでしょう。

井浦:僕は真木さんに対して、ちょっとシャーマン的な、「役が乗りうつる」ような印象をもっています。自分は現場でいつでもそれを受け止められるような状態を保ち、1㎜も取りこぼさないようにと考えていました。ある種の動物的な感覚に対して、「こういう風にしましょう」といった打ち合わせは不要で、「真木さんがどう動くかに合わせて自分は選択していこう」と考えた結果だったのかなと思います。真木さんとのお芝居はいつも刺激的で、すごく楽しいです。

――かなえと堀の心の距離が、自然と見えてくるようでした。

井浦:真木さんのお芝居には、本番の瞬間に生まれてくる“命のきらめき”のようなものを常に感じています。その一瞬にしか生まれない命のぶつかり合いや削り合い、寄り添い合いがあり、結果的にそれを「芝居」と呼ぶのだと思います。

もちろん事前に覚えてきたセリフを話してはいるのですが、そういった感覚すら感じませんでした。本番ではない時間も役を背負って生活して、現場に行ってさらに没頭して、悩んだり苦しんだり喜んだりする体験をそのまま(演技に)出していくような、そんな時間でした。

――井浦さんは今泉監督と『かそけきサンカヨウ』(21年)でも組まれています。その際に今泉監督が「井浦さんには細かい演出はしていない」とコメントされていましたが、今回も井浦さんを見守っているような形だったのでしょうか。

井浦:自分に対してはそうでしたね。『かそけきサンカヨウ』では若い出演者が多かったので、「こうやってみたら、もっと役が広がるんじゃないか」といったように、出演者にヒントを与えていくような演出をされていました。今回の現場でも、「もう一回やってみよう」と今泉さんがおっしゃることは何度かありました。本当の理由は監督しかわかりませんが、きっと「もう一回やったら同じものが出てくるのか、それともなにか違うものが出てくるのか」を見てみようとしていたんじゃないかと思います。実験精神を感じて、面白かったです。

『アンダーカレント』

監督/今泉力哉
出演/真木よう子、井浦新ほか 2023年 日本映画
2時間23分 10月6日より新宿バルト9ほかにて公開。

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