27年がかりで編まれる“写真の箱舟”が、絶滅危惧種の姿を未来へとつなぐ

  • 文:佐野慎悟

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2012年にフロリダのロウリーパーク動物園にて撮影されたフロリダパンサー。1970年代には20頭前後まで生息数が減少したが、現在では200頭前後にまで回復している。Photo by Joel Sartore/National Geographic Photo Ark(©Joel Sartore/National Geographic Photo Ark)

オーストラリアでは、動物園で飼育されていたフクロオオカミの最後の一頭が死んでしまい、絶滅した日にちなんで、毎年9月7日を絶滅危惧種に対する理解を呼びかける「全国絶滅危惧種デー (National Threatened Species Day)」と定めている。これに合わせてナショナル ジオグラフィック(TV)では、9月7日に4時間にわたる特別編成「ワイルド ネイチャー:絶滅危惧種の日」を実施。世界中の動物園・保護施設・研究所などで飼育されている全絶滅危惧種を、ナショナル ジオグラフィックの写真家、 ジョエル・サートレイがひとりで撮影するという壮大なプロジェクト「PHOTO ARK(フォト・アーク)」を追ったドキュメンタリー作品など、4つのドキュメンタリー作品を連続で放送する。

#1 Rare_PhotoArk_Ep101_SG_04(c)Joel SartoreNational Geographic Photo Ark.jpgPHOTO ARK:動物の箱舟 『マダガスカルのシファカ』」より。マダガスカルにしか生息していないシファカ属に分類されるサルと触れ合うジョエル・サートレイ。©︎Joel Sartore/National Geographic Photo Ark

上野動物園を皮切りに日本の動物園と水族館での撮影のために来日したサートレイに、総制作期間27年という壮大なプロジェクトである「フォト・アーク」について話を訊いた。

「これまで絶滅していった動物たちを記録した映像や写真は、とても不鮮明なものが多く、彼らが生きている頃の姿を正確に伝えているものがありませんでした。だから私は、彼らを正当に評価し、彼らのストーリーを未来に残していくための活動として『フォト・アーク』を始めました。私の写真の中では、ゾウも、ネズミも、すべての動物が同じくらいの大きさで写し出されますが、それはどんなに大きくても、どんなに小さくても、彼らには等しく生きる権利があるのと同様に、平等に“声”が与えられるべきだからです」

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絶滅に向かう動物たちの姿が、私たちに教えてくれること

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熱帯雨林のシンボル的な存在として知られるアカメアマガエル。メキシコ南部から中央アメリカ、南アメリカ北部の熱帯の低地に生息し、その生息域は驚くべきスピードで縮小しているという。Photo by Joel Sartore/National Geographic Photo Ark(©Joel Sartore/National Geographic Photo Ark)

「フォト・アーク」という壮大なプロジェクトを始めるにあたって、サートレイが、最初に選んだ被写体は、両生類だ。

「両生類は多様性に富み、何百年も存在し続けていますが、その反面彼らはとてもデリケートで、些細な温度や湿度の変化でも絶滅の危機に晒されてしまいます。だから彼らの存在は、私たち人間に、地球環境の変化や、その影響について、非常に多くのことを教えてくれるのです」

これまでにサートレイが撮影してきた動物たちの中でも、撮影後に絶滅していった種は数えきれないほどに多い。

「飛行機で空を飛んでいる時に、目の前にあるネジがひとつ外れたとしても、気にはならないでしょう。では、10本ならどうでしょう? 100本ならどうでしょう? 世界がバラバラに壊れてしまう前に、私たちはどれだけ多くの種を失うことになるのでしょうか? 『フォト・アーク』は、救うべき動物たちの存在に気づいてもらうための、写真家としての必死の試みといえます」

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2012年にテキサスのヒューストン動物園にて撮影されたコクレルシファカ。マダガスカル北西部の乾燥林や低木林などに生息する。キツネザルの仲間で、ジャンプ力は9mに達する。Photo by Joel Sartore/National Geographic Photo Ark(©Joel Sartore/National Geographic Photo Ark)

サートレイが撮影する動物たちの姿は、獰猛な野生の姿よりも、どこか愛らしく、親近感を抱かせるものが多い。

「私の目的は、世界中の人々に、絶滅危惧種の動物たちに興味をもってもらって、どんなに小さくても、彼らを救うためのアクションを起こしてもらうこと。人はまず、その動物のことを好きにならないと、救いたいという気持ちもなかなか芽生えません。だから、私はできるだけ彼らが人間にとって魅力的に見えるような姿を捉えるようにしています」

どのような姿がより人々の関心を惹きやすいのか、SNSでの反応を見れば、手に取るようにわかるという。

「大きな目の哺乳類がいちばん好まれて、それが立ち上がったり、戯けたように見えたり、人間と同じような仕草をすると、さらに心をつかまれるようです。奇妙なかたちや、カラフルな動物も人気です。まず写真に目を留めさせることができれば、少なからず私たちからのメッセージを受け取ってもらえる可能性が生まれるから、これは非常に大事なことだと思っています」

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「フォト・アーク」のためにサーバルの撮影に挑むサートレイ。©︎Cole Sartore/National Geographic Photo Ark

「人々の関心を惹いて、動物たちのことを伝える役割という意味では、動物園や水族館の活動にもシンパシーを感じています。彼らは動物たちのことを研究し、人々に世界の素晴らしさを教えてくれます。テレビやパソコンのスクリーンの上ではなく、本物の動物を見たり、匂いを嗅いだり、彼らの鳴き声を聞いたりする機会を与えてくれる、とても重要な場所です」

動物たちに興味をもち、その種が置かれた状況を知り、彼らが今後もこの地球に存在し続けられるために、自分たちはなにをすればいいのか。どんなに小さな思いでも、それが世界中で積み重ねられていくことで、状況は確実に変わっていくだろう。

「動物たちを救うために、いまよりいいタイミングはありません。いまよりいいチャンスもありません。なにもひとりで地球全体を救う必要はないんです。なにを買うか、どこに行くか、なにを食べるか、一つひとつの行動を考えてみてください。動物のため、地球のために私たちができることは、いくらでもあるはずです」

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9月7日(木)20時〜24時放送『ワイルド ネイチャー:絶滅危惧種の日』

 

写真家 ジョエル・サートレイ - THE SPARK VOL.05 (CC字幕付きアーカイブ)

『ワイルド ネイチャー:絶滅危惧種の日』

9月7日(木)20時〜24時
20時〜『キングダム・オブ・チャイナ:隠された大自然「バンダが住む森」』
21時〜『ホッキョクグマと白銀の世界「親子の旅立ち」』
22時〜『PHOTO ARK:動物の箱舟「マダガスカルのシファカ」』
23時〜『PHOTO ARK:動物の箱舟2「インドネシアの動物」』

www.natgeotv.jp/tv/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/3217