絵本の中から飛び出す大冒険がここに! PLAY! MUSEUMにて「エルマーのぼうけん」展が開催中

  • 文・写真:はろるど
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「エルマーのぼうけん」展会場風景より。15匹のりゅうをエルマーが助けるクラマックスの場面をイメージしている。まるでりゅうがダンスパーティーをするかのように賑やかだ。

ニューヨーク出身の作家のルース・S・ガネット(1923年~)が文を書き、義母のルース・C・ガネット(1896~1979年)が挿絵を手がけた「エルマーのぼうけん」シリーズ。9歳の少年エルマーが家を抜け出し、りゅうを救おうと旅に出ると、恐ろしい動物や不思議な病気、また身勝手な大人たちといった困難に出会いながらも、対立することなく手元の道具やユニークなアイデアを使って危機を見事に乗り越えていく。1948年から51年にかけて『エルマーのぼうけん』、『エルマーとりゅう』、『エルマーと16ぴきのりゅう』の3冊の物語がアメリカで出版されると、日本でも1963年に翻訳され、累計700万部を超すベストセラーとして広く愛されてきた。

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「エルマーのぼうけん」展会場風景より。『エルマーと16ぴきのりゅう』表紙のための着彩画。ルース・C・ガネット作、1951年。

東京・立川のPLAY! MUSEUMで開催中の「エルマーのぼうけん」展では、130点を超す貴重な原画やダミー本、さらに挿絵を描くために作られたりゅうのぬいぐるみといった資料が展示されている。そのうち原画は児童文学の資料を所蔵するミネソタ大学図書館のカーラン・コレクションによるもので、国内では初めての公開。目の覚める色鮮やかな表紙や地図、また鉛筆でていねいに描かれた挿絵は、いずれも70年以上前に描かれているとは思えないほど生気に溢れている。そして会場では原画を書き割りでも紹介しているが、高さ2~2.5mほどに拡大しても粒子が荒れないほど精緻であることに驚く。

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「エルマーのぼうけん」展会場風景より。桟橋のような足場の左右では、原画を大きく拡大して書き割りで紹介している。
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「エルマーのぼうけん」展会場風景より。『エルマーのぼうけん』挿絵原画。ルース・C・ガネット作、1948年。

絵本の中に入り、エルマーになった気分で作品を見てまわりたい。暗がりの中、桟橋のような足場を歩いて動物たちと出会いながら、エルマーを食べようとするワニの背中をジャンプして川を渡る。そして嵐の吹き荒れる中、エルマーを乗せたりゅうが懸命に羽ばたく様子を表した光と音のトンネルを抜けると、「とんがりさんみゃく」の向こうにりゅうたちの住む「そらいろこうげん」が現れる。また床の随所にはエルマーの食べたみかんの皮が落ちていたり、原画のキャプションに物語の内容に呼応するような小枝やチューインガムの包み紙などがついているのも見過ごせない。まさに「エルマーのぼうけん」の物語を、視覚的だけでなく、身体的、空間的に体感することができる。

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「エルマーのぼうけん」展会場風景より。「とんがりさんみゃく」の向こうにりゅうたちの住む「そらいろこうげん」がそびえ立っている。光、音、映像などを組み合わせた演出も見どころだ。

洞窟の中に捕らわれていた15匹のりゅうを、エルマーが助ける場面をイメージした展示がクライマックスだ。ここではラッパや笛を鳴らして一斉にりゅうたちが逃げ出す様子を、絵本が刊行された1950年代のアメリカのアナログレコードの音楽を楽しむというコンセプトに置き換えて再現。カラフルなボタンを押すと15匹のりゅうたちに次々と光が当たり、オーネット・コールマンのアルバムが流れるように作られている。また会場では、ガネットが幼い頃に話や絵を書いたノートや写真も展示しているほか、各界で活躍する100人が冒険の書を推薦した「ぼうけん図書館」も開設されている。自分と異なる他者を受け入れ、争わずに知恵を使って困難を解決することを物語で説いたガネットのメッセージは、分断や対立の続く現代においてより強く心に響いてくる。子どもから大人までの幅広い世代で楽しめる「エルマーのぼうけん」の世界をPLAY! MUSEUMにて追体験したい。

『「エルマーのぼうけん」展』

開催期間:2023年7月15日(土)〜10月1日(日)
開催場所:PLAY! MUSEUM
東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3棟 2F
https://play2020.jp