フィンランドの18 Wheels社が、世界初の18輪駆動EV・ATV(オール・テレイン・ビークル、全地形対応車)の開発を進めている。既にプロトタイプが稼働し、凹凸の激しい岩場を難なく走破する様子を披露している。
18 WHEELSと呼ばれるこのATVは、ジェットスキーのような見た目だ。運転者は前のめりの体勢で本体に跨がり、水平に突き出したハンドルを握って操縦する。本体は幅1m・全長2mほどの板状の台座に据えられているが、ユニークなのはこの台座の下に伸びる18本の「脚」だ。
それぞれの脚の先には防水仕様の電動輪が備えられ、各個のモーターによって独立して回転する。また、これらの脚は金属板をアーチ状にたわませた構造となっており、高低差を柔軟に吸収する。荒い地形でも各脚のサスペンションによってそれぞれのタイヤが適切に接地し、推進力を確保する設計だ。
18の車輪がワサワサと地面を捉える
路面に倒木や岩が転がっているシーンでも、高さ20cmまでの障害物であれば乗り越えて走破可能だ。18 Wheels社が公開しているプロトタイプの走行動画では、水辺の浅瀬、倒木、岩の上などを、ほぼ速度を落とさずに乗り越えてゆく様子を確認できる。18本の脚がワサワサと動きながら柔軟に地形にフィットし、まるで大きなハケで地面を撫でているかのようだ。
米自動車メディアの「ドライブ」は、階段や縁石さえ乗り越える「優れた設計のサスペンション」だと評価し、「この車両の能力は、従来の多くのATVとはまったく異なる」と述べている。
これまでの四輪バギーなどの一般的なATVは、大径のタイヤで強力に前進する反面、森や草地などの繊細な走行面を破壊してしまう問題があった。18 Wheels社は開発にあたり、路面を傷つけることなくオフロード走行が可能なATVを製作することを目標に掲げた。18点のホイールが車体重量を分散して路面に伝え、負荷の集中を回避する。
同社はまた、著名自動車サイトの米オート・ブログに対し、一般的な四輪バギータイプのATVとの比較でバネ下重量を10分の1に抑えたと説明している。バネ下重量は、サスペンションよりも下部にあたるタイヤやブレーキ部分の重量を指す。一般にこの重量を軽量化することで路面追従性が向上し、凹凸が顕著な路面であってもタイヤが地面を捉えやすくなる。
「最も奇妙なオフロード車のひとつ」
抜群の悪路走破性を誇る18 WHEELSだが、課題はデザインだ。科学・テックメディアの豪ニュー・アトラスは、多数の脚が伸びるルックスに注目し、「私たちが出合った中でも、最も奇妙なオフローダーのひとつ」だと述べている。
四輪ではなく18本の脚を採用した大胆なデザインは、人によっては節足動物を想起するかもしれない。米ドライブは、サスペンションと多数の脚について、「このコンビネーションはムカデのような雰囲気を帯びており、見慣れるまではかなり不安を覚える」と率直に指摘している。
米モーター・トレンド誌も、18輪駆動と独自のサスペンションが「比類なきトラクションをもたらす」と評価しながらも、デザインについては「悪夢から這い出してきたムカデの突然変異種のよう」「鳥肌間違いなし」と容赦ない。
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第2世代が計画中、年内に量産化へ
18 WHEELSは2021年に着想され、昨年プロトタイプが完成した。走行動画が今年6月に公開され、7月下旬になって各種自動車メディアの注目を集めている。現在はすでに第2世代の理論モデルが完成しており、今年中に次世代版のプロトタイプがお目見えする予定だ。
現在採用しているアーチ状のサスペンションでは、車体全体が激しく前後に揺れることがあった。次世代版では18輪の基本設計を維持しながら、この点を改善する。各輪の衝撃吸収機構をスプリング式のパーツに変更し、安定性を向上したい意向だ。
また、第2世代は2人乗りとなり、実用性も向上する。最大時速は約110km/h、航続距離は200kmを開発目標としている。ステアリングにも変更を加え、各輪に少しずつ角度の差を設けながら滑らかに方向転換するシステムになるという。
同社は今年の夏以降、次世代版を量産したい考えだ。アウトドアのアクティビティで四輪バギーだけでなく、18輪EVバギーも試せるようになる日が来るかもしれない。
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