落合陽一が占う、 2033年のアートとAIがもたらす影響

  • 文:小久保敦郎
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気になる未来の姿に迫った、Pen最新号『2033年のテクノロジー』。その中から、メディアアーティスト落合陽一が2033年のアートとAIの未来を予測する記事を、抜粋して紹介する。

Pen最新号は『2033年のテクノロジー』。AIの進化でどう変わる!? モビリティ、建築、アート、ファッション、食&農業、プロダクト、ゲーム、金融と8つのジャンルで2033年の、そしてさらなる未来のテクノロジーを占った。気になる未来の姿に迫る。

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計算機と自然が混ざったとき、計算中心の世界に移行する

生成AIによってアートは大きく変貌してしまうのだろうか? 「デジタルネイチャー」という言葉をいち早く定義してきたメディアアーティスト落合陽一が作品と思想からアートの未来を予想。

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落合陽一(Yoichi Ochiai)
メディアアーティスト。1987年生まれ。2010年ごろより作家活動を始める。個展として『Image and Matter (マレーシア・2016)』、『質量への憧憬(東京・2019)』、『情念との反芻(ライカ銀座・2019)』など多数開催。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター センター長、准教授・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表。
©️中川容邦/KADOKAWA

デジタルがもたらす未来を探究しつつ、これまで数多くの作品を発表してきたメディアアーティストの落合陽一。芸術表現としてのメディアアートは60年程度とまだ歴史が浅い分野だが、コンピューターなど電子メディアとの親和性の高さも特徴のひとつ。実際に落合さんの作品を見わたしても、プラズマや音響浮揚、ディスプレイから古典写真や木彫りまでさまざまな媒体が使われている。

「高コントラストな表現ができるLEDディスプレイは、油絵や水彩画を超える自発光素材。空気を光らせてできるプラズマなら、空気のみを素材に三次元の表現ができる。それらをデジタル時代に生まれた電子的素材として捉えています」と言う。

作品の主題となるのが、「物化する計算機自然(デジタルネイチャー)と対峙し質量の憧憬と涅槃を本願とする」という考えだ。物化とは中国・莊子の言葉で、万物は変化するという意味をもつ。胡蝶のモチーフもここからだ。

「計算機と自然が混ざって新しい自然になったとき、人間中心の世界から計算中心の世界に移行する。『自然』が変わると、人間性も芸術も科学技術も変わってしまう、というのが私の探究の根本です」と落合さん。

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『ピクシーダスト』
2017年
超音波で物体を浮かせる、3次元音響浮揚装置。博士課程時代に落合さんは計算機とフェーズドアレイによる三次元浮揚操作を実現した。浮揚しているのはスチレンビーズ。この頃は映像と物質の間の探究のためにさまざまな装置を試作。©️Yoichi Ochiai
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『Fairy Lights in Femtoseconds』
2017年
空中にプラズマで描き出された三次元の妖精像。指で直接インタラクション可能。100兆分の3秒という超時短パルスレーザーであるフェムト秒レーザーを使を用いた立体描画技術と表現を同時に探究。映像と物質の境界を超えていくための試みでもある。©️Yoichi Ochiai
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『コロイドディスプレイ』
2012年
映像という音と光によるメディアを再考し、より物質性をもった映像表現を探究した作品。薄さ1マイクロメートルに満たないシャボン膜を、超音波の反射特性でスクリーンとした。映し出された蝶は「物化」の象徴。莊子『胡蝶の夢』が作品テーマの根底にある。©️Yoichi Ochiai
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『醸化するモノリス』
2021年
1mmピッチの圧倒的な高精細で、フレームレート120fpsのハイスピード表現が可能な大型LEDビジョンをモノリスに見立て、映像をヌルヌルと動かすことで、風景が物質的にトランスフォームする新しい自然を提示。

 近年の目覚ましいテクノロジーの発達、特に生成AIの進化は落合さんが考える世界への移行を早めているようにも見える。アーティストは、この新技術とどう向き合えばいいのだろうか。

「もともと独自性のある人は、生成AIを使っても新しい表現を生む。でも、ネット上のシーズから素材を引っ張り出して創作する人は、どこかで見たようなものを安くつくることしかできない」

そして生成AIは落合さんがいう「新しい自然」を既に生み出しているとも指摘する。波の動画を例に、こう説明してくれた。

「生成AIは美しい波の映像をつくることができます。それは限りなくリアリスティックに見えるけれど、現実の自然ではその波は立たない。それでもきれいだと思うのは、我々が主観的な世界を生きているから。物理的な写実性を抜いても波はこれでいい、と脳が判断しているわけです。この主観的な現実は印象画の誕生に匹敵する新しい表現でしょう。主観的な計算機自然を見ているのです」

他にも作品制作時の人的パワー効率化、制作時間の短縮など、AIがアートにおよぼす影響は大きいという。

「描画技術の進化は、アートにとっての写真に匹敵する進歩でもあります。生成AIについていろいろといわれているけれど、オリジナリティがある芸術は、AIによって洗練される。10年後、それは当然のこととして理解されていると思います」

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『可塑庵(ぷらあん)』
2021年
廃棄されるガンプラのランナーを、茶室の資材としてリサイクル。デジタル主体の作品だけにとどまらないのが、落合アートの特徴のひとつ。プラスチックは可塑性素材。溶ける・形が変わる・リサイクルは「物化」の極みでもある。

©️創通・サンライズ
協力:樂吉左衞門(樂家十六代)、日本科学未来館
cooperation: Raku Kichizaemon (16th Raku Family Head), Miraikan -The National Museum of Emerging Science and Innovation
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『The Silk in Motion』
2022年 FUJI TEXTILE WEEK 2022
甲斐絹を高精細撮影し、テクスチャーや生地のゆらぎまで大型LEDの映像で表現。テキスタイルパターンをテキスタイル上で表現するのではなく、高精細のLEDというキャンバスを使う手法である。
photo:吉田周平
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『Re-Digitalization of Waves』
2022年 大阪関西国際芸術祭
浮遊する鏡面彫刻が、風景を切り取りながら回転する作品『借景、波の物象化』。本作品は、その作品をNFTに再デジタル化。その繰り返しで作品をNFTと物質世界の双方に展開。デジタル的な作品形態の循環をモチーフにする。
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『物象化する願い、変換される身体(手長)』
2022年 日下部民藝館
モチーフは飛騨高山に残る手長足長伝説。3Dデータから木材を削り出し、組み合わせた手の長さはおよそ8m。「民藝は自分の中で重要なキーストーン」と語る落合さん。テクノロジーによる表現が民藝に至るということも重要なテーマ。

ライカギャラリー東京(9/1-10/29)とライカギャラリー京都(9/2-10/29)で写真展、日下部民藝館(9/17-11/5)にて新作個展を開催予定。

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