ブレゲ「タイプ XX」の新作披露でひも解かれた、もうひとりの “天才ブレゲ”と揺るぎない時計づくり

  • 文:Pen編集部

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新作「タイプXX」の原型となる、フランス海軍に納入されたパイロットクロノグラフ。ル・ブルジュ航空宇宙博物館の展示より。

6月初旬、ブレゲ「タイプXX」の新作がフランス・パリで発表された。ブレゲにとってパリといえば創業者アブラアン-ルイ・ブレゲの存在が重要だが、今回のお披露目で光を当てられたのは、航空界で名を残したもうひとりの“天才ブレゲ”であった。知られざる“空のブレゲ”と、老舗の時計づくりを支えるジュウ渓谷の本社工房について紹介する。

ブレゲだけに許された、パリとの関係

ブレゲから「タイプ XX」のふたつの新作が発表された。時計の詳細はもうひとつの記事に譲るが、「タイプ XX」とは1950年代にフランス空軍および海軍に納入された腕時計を原型とするパイロットクロノグラフの名品である。

ご存じのとおりブレゲは、時計の歴史を200年進めたと語られる創業者、アブラアン-ルイ・ブレゲの名を継ぐ老舗ブランドだ。王侯貴族に愛され、ルイ16世やマリー・アントワネット、ナポレオンらを顧客リストに連ねる同ブランドを語る上で、パリはきわめて重要な場所である。セーヌ河岸のケ・ド・ロルロージュにはかつて工房が構えられ、貴重なアーカイブはルーヴル美術館にも収蔵。ヴァンドーム広場にはブティックとミュージアムがあり、ペール・ラシェーズ墓地には創業者が眠っている。

今回、お披露目のイベントはセーヌ川を眺めるプティ・パレ美術館で開かれたが、ゲストがまず招かれたのは、そうした場所とは趣を異にする、シャルル・ド・ゴール空港近くのル・ブルジュ航空宇宙博物館であった。

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「タイプXX」のお披露目イベントがパリのプティ・パレ美術館で行われた。写真は会場の様子。
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発表されたふたつの新作。右が「タイプ 20 2057 – ミリタリーバージョン」、左が「タイプ XX 2067 – 民間バージョン」 

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航空史に名を残す、もうひとりのブレゲ

ブレゲの名が実は航空界とも深く繋がっていることは、あまり知られていないだろう。アブラアン-ルイ・ブレゲから受け継いだ天賦の才と情熱を黎明期の航空界に注いだのが、アブラアンから数えて5代目にあたるルイ-シャルル・ブレゲ。フランス航空産業史に名を刻む、もうひとりの“天才ブレゲ”である。

フランスの空の玄関シャルル・ド・ゴール空港から約5キロの地に、リンドバーグの大西洋横断の着陸地点となったフランス最古の空港、ル・ブルジュ空港がある。現在はプライベート機専用の空港となっているが敷地内には航空宇宙博物館があり、世界中の航空愛好家が足を運ぶ。そしてここが、今回の新作をひも解く展示会場となっていた。

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ル・ブルジュ航空宇宙博物館での展示の様子。「タイプXX」のフライバック機能をフランス語で表した「RETOUR EN VOL」がテーマ。
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博物館にはかつて一世を風靡した音速旅客機、コンコルドの機体も展示されている。

ターミナルビルや格納庫を利用した館内には18世紀の熱気球から飛行船、人力飛行機を経て、プロペラ飛行機やジェット戦闘機、コンコルドに至るまで、航空の進化をたどるさまざまな機体が展示されている。

その中で存在感を放っているのが、ルイ-シャルル・ブレゲの手による名機たちだ。ドローンのような回転翼をもち、ヘリコプターの原型となった「ジャイロプレーン」、第一次大戦で活躍した偵察機「ブレゲ 14」、1930年に大西洋横断を成功させた「ブレゲ19」……。ルイ-シャルルが興したブレゲ航空会社は数々の名機を世に送り出し、航空界の発展に大きく寄与した。また時計のブレゲとも関係を持ち、航空用時計の発注も行っていたという。

今回発表された「タイプ XX」は1952年、フランス海軍の求めるコンペに参加した時計をルーツとするが、それもブレゲ社に航空用時計の経験があってこそのことだろう。

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「タイプXX」の歴史を紹介する展示の風景。第1世代から現在の第4世代に至るまでの歩みが一目瞭然となっている。
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同じくル・ブルジュ航空宇宙博物館での展示の様子。航空機の機体を思わせる空間に、アーカイブの時計や解説が展示された。

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時計づくりのあらゆる工程が行われる、ジュウ渓谷の本社工房

また現在、ブレゲの時計はすべてスイス国内で製造されている。ジュネーヴから北東へ約60キロ。高級時計のゆりかごと称されるジュウ渓谷にあるブレゲの本社工房に訪れることができた。

清潔でモダンな建物では、高級時計づくりのさまざまな工程が行われている。ムーブメントの地板やブリッジ、自動巻きの回転錘やクロノグラフレバーなど様々な部品を製造するところから、面取りや磨きといった仕上げの工程、永久カレンダーやトゥールビヨンなど複雑機構の組み立てまで、あらゆる工程を自社で行っている。

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ジュウ渓谷の一角に立つブレゲ本社。高級時計のゆりかごと称される地で、確かな時計づくりを行っている。
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時計師が作業をする様子。熟練の職人を多数抱え、高度な技術と正確性が求められる作業を行っている。

特に印象的だったのは、伝統的な手法で行われてるギヨシェ彫刻だ。ブランドの代名詞でもあるこの作業のために十数台の機械が稼働し、熟練職人たちが多様な仕上げを施す様子は圧巻だ。さらにミニッツリピーターの音響調整、専任職人によるグラン・フー・エナメル加工など、高級時計製造に欠かせないさまざまなプロセスが社内で完結しているのだ。

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ギョシェ彫刻を行っているスペース。伝統的な手法に則りながら、現代的にアップデートした機械を用いて作業を行う。
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同じくギョシェ彫刻の作業の様子。ハンドルで刃を動かし、文字盤に模様を彫り込んでいく。ブレゲならではの工程である。

また、特筆しておきたいのが修復部門である。超絶機構を搭載するアンティークの懐中時計から、現代の複雑時計まで、創業以来のあらゆる時計を修復する能力をもつ。マリーアントワネットの依頼でつくられた「No.160」のレプリカ「1160」、置き時計に腕時計を組み込み同調させる「シンパティック・クロック」など、博物館クラスの時計を保管し、メンテナンスを行なっている。

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新作の「タイプ XX」に搭載される自社開発、自社製造ムーブメント。ジュウ渓谷の工房でつくり出されている。

今回発表された「タイプ XX」は姿形こそ軍用時計のコードを踏襲しているが、10振動のハイビートムーブメントを搭載し、ひげゼンマイやアンクル、ガンギ車にシリコンパーツを採用するなど最新技術が注ぎ込まれ、各パーツは高級時計の文脈に則って仕上げられた、生粋のハイウォッチである。こうした時計を自らの手で作り上げる揺るぎない時計づくりの体制は、ブレゲというブランドの懐深さを表すとともに、近年のブレゲの充実ぶりを雄弁に語っている。

今回の新作発表に伴って、知られざる”空のブレゲ”について学び、ジュウ渓谷の本社工房を訪ねて、その確かな時計づくりに触れられた。歴史と伝統を背景に、最新のテクノロジーを注ぎ込むブレゲならではのパイロットクロノグラフ。その誕生に敬意を表すとともに、ブレゲの今後にますます注目していきたい。

問い合わせ先/ブレゲ ブティック銀座 TEL:03-6254-7211