気になる未来の姿に迫った、Pen最新号『2033年のテクノロジー』。その中から、従来の旅客機の2倍の速さを計画している、アメリカのブーム社が開発した「オーバーチュア」の記事を、抜粋して紹介する。
Pen最新号は『2033年のテクノロジー』。AIの進化でどう変わる!? モビリティ、建築、アート、ファッション、食&農業、プロダクト、ゲーム、金融と8つのジャンルで2033年の、そしてさらなる未来のテクノロジーを占った。気になる未来の姿に迫る。
『2033年のテクノロジー』
Pen 2023年9月号 ¥880(税込)
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超音速旅客機が再び注目を集めている。アメリカのブーム社が開発する「オーバーチュア」は、従来の旅客機と比べて2倍の速さを計画する。この機体は、コンコルド以上の成功となるのか。
英仏が共同開発した超音速旅客機「コンコルド」が2003年に商業運航を終えて20年が過ぎた。音速の2倍であるマッハ2で飛行できるものの、超音速時の騒音や落雷のような音を伴う衝撃波「ソニックブーム」といった課題があり、歴史に名を残す機体ではあったが商業的には成功と言いがたい結果に終わった。
また、世界的に環境に対する関心が高まるなか、航空業界は50年までにCO2排出の実質ゼロを目指している。電動航空機や水素燃料といった次世代技術の研究が進むなか、現時点で選択できる排出量削減策として各国のエアラインが注目しているのが「SAF(サフ)」と呼ばれる代替航空燃料だ。廃食用油などを原料としており、航空機や給油設備などをそのまま活用し、CO2排出量を化石由来の航空燃料と比べて大幅に削減できるためだ。
航空機の環境性能向上が強く求められるいま、対極といえる超音速旅客機が再び注目されている。なかでも日本航空(JAL)が出資する米国のベンチャー、ブーム・スーパーソニック社(以下、ブーム)が開発中の「オーバーチュア」はユナイテッド航空とアメリカン航空が導入を表明。25年に機体が完成し、26年に初飛行、29年までに商業運航を始める計画だ。
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英語で序章やクラシック音楽の序曲を意味し、機体の全長はコンコルドとほぼ同じ。オールビジネスクラスに相当する約70人の乗客を想定しているが、運賃もビジネスクラス並みに設定できるよう、運航コストを抑えることを目指している。既存の旅客機と比べて2倍弱の速度マッハ1.7で飛行し、ブームによると現在約11時間かかる東京〜西海岸を6時間程度、8時間以上かかるホノルル〜東京間を約4時間で結べるという。
ブームを14年に設立した創業者兼CEOのブレイク・ショールはアマゾンなどで要職を務めた人物だ。「人類がさまざまな分野で進歩を遂げている割に、空の移動時間は劇的に変わっていない」と超音速機実現のために会社を立ち上げた背景を語っている。
かつてコンコルドは騒音や燃費の悪さ、座席数の少なさによる収益性の低さが課題だったが、オーバーチュアは航続距離4250海里(7871km)を計画し、世界で600以上の路線を現在の半分の時間で飛行できる設計だ。ビジネスクラスが埋まるような世界主要路線に投入すれば採算も合うという。
オーバーチュアが超音速を実現する上で重要なカギとなるエンジンは従来計画していた3基を4基に増やし、1基当たり必要な推力を抑えて騒音を低減する。コンコルドが使っていた、エンジンの排気に燃料を吹き付けて再燃焼させ、推力を増強する「アフターバーナー」を使わずにマッハ1.7を実現する計画で、燃料は設計時からSAFに最適化し、CO2排出量の実質ゼロを実現する。
一方、航空機大手のアメリカのボーイングや欧州のエアバスは、いまのところ超音速旅客機を自ら開発する計画は発表していない。ボーイングによると、民間機の新造需要は42年までの20年間に4.2万機以上が見込まれ、現時点で大量の受注残を抱える大手2社が超音速機を自ら手がける経営面のメリットはないに等しく、有望企業に投資する程度で十分だ。半面、胴体や翼、着陸装置などを製造する世界の大手サプライヤーはオーバーチュアへの参画を表明しており、機体製造は実績ある企業が手がけることになる。
最近のビジネスクラスは個室タイプが主流となり、かつてのファーストクラスを凌駕する快適性を実現したともいえる。エアライン各社が他社と差別化できる新たな領域は、乗客の時間価値向上にある。技術の進歩で低騒音化や運航コストの削減、環境負荷の低減が実現されることで、移動時間を半減できる超音速機が再びフラッグシップとして復活する未来が近づきつつある。
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