時代は回り回って..米Z世代は「紙の本」や「レコード」がお好き。その理由

  • 文:安部かすみ

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大手書店ではあまり扱われないアート系やカルチャー系の本、文房具などが充実している新店、McNally Jackson Books。(c) Kasumi Abe copy.JPG
大手書店ではあまり扱われないアート系やカルチャー系の本、文房具などが充実している新店、McNally Jackson Books。(c) Kasumi Abe

電子書籍の台頭で、全米第2位の書店チェーンだったボーダーズが破綻したのは2011年のこと。その後も米最大手バーンズ&ノーブルが店舗の減少を発表するなど、近年アメリカではリアル書店や印刷本の事業規模の縮小が目立っていた。それがコロナ禍の22年ごろから、今度はリアル書店の新規オープンの話題をたびたび耳にするようになった。

今年に入り、バーンズ&ノーブルは全米各地に30店舗を新規オープンする計画を発表した。また、ニューヨークの観光名所「ロックフェラーセンター」やブリックリンのモールには、独立系書店「マクナリー・ジャクソン」の新店が次々にオープンし、地元で大きな話題となっている。

リアル書店の需要は、コロナ禍でのアニメや漫画文化の盛り上がりなどが起因しているようだ。それに伴い、「若者の(紙の)本への回帰」が顕著だ。

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書籍の売上高はここ数年間で急増

米ビジネスインサイダーは今年4月、「ミレニアル世代とZ世代。彼らのノスタルジアが書籍販売、独立系書店、バーンズ&ノーブルの復活の一役に」と報じた。

「若い世代がチェーン書店を復活させている」「ミレニアル世代は子どもの時に行っていたバーンズ&ノーブルの店舗を懐かしんでいる」「Z世代は90年代(SNSが生まれる前)の大型書店のシンプルさに惹かれる。そしてトレンドの書物をTikTokで投稿中」と、記事には書かれている。

マッキンゼーグッドe-リーダーなどのメディアによると、アメリカ(およびイギリスで)の書籍の総売上高はここ数年間で急増した。21年、アメリカの書籍販売はその前年をさらに上回る8億4300万部を超える記録に達した。

この書籍売上増に起因しているのは、Z世代の消費動向によるものだという。「Z世代はなんでもデジタルだが、本に関してはそれは当てはまらず、印刷された紙の本が支持されている」。その理由として「目の疲れや頭痛によるデジタルデトックスのため」「本を手に取り、直接触れることによる触感や、印刷された香りを楽しんでいる」。人工知能 (AI) や ChatGPTなどの最先端テクノロジーが注目される中、これは出版業界にとって朗報だろう。

ブルームバーグによると、アメリカで本の売り上げは前年比で13%増加し、22年全米で172以上の独立系書店がオープンした。確かに、筆者が街を歩いていても新規オープンしたリアル書店、特に独立系書店をよく見かけるようになった。実際に店内を覗いてみると、Z世代と思しき若い世代の客が実に多く、あれこれ吟味している。昨年、ダウンタウンの若者が多い地域にオープンした、カフェとポッドキャスト・スタジオ併設の話題の独立系書店、P&Tニットウェア。ここも若い客層が中心だ。漫画コーナーが店の「中央」に設置されていた。

P&T Knitwearの入り口。(c) Kasumi Abe IMG_9498 copy.jpg
P&T Knitwearの入り口。(c) Kasumi Abe

安らぎや安心感を求めて…

P&T Knitwearの漫画コーナー。(c) Kasumi Abe.jpeg
P&T Knitwearの漫画コーナー。(c) Kasumi Abe

若い世代を中心に紙の本が支持されている理由として別の専門家の分析では、「人々は、コロナ疲れに加え、家計や未来への不安が高まると過去に味わった安らぎや安心感に目を向ける傾向がある」。つまりセキュリティブランケット(安全毛布)としてノスタルジアへの渇望がわき、書店に目が向くようになったというのだ(先述のビジネスインサイダー)。

日本と違いCDショップが皆無のこの街で近年、レコード屋がいくつか復活している。そして、そこでも若い世代の客が中心となって、レコードやカセットテープを吟味している姿を目にする。ノスタルジアへの渇望として、紙の本、そしてレコードが現代において若い人々に注目されているというのは納得だ。