懐かしき70年代のロサンゼルスの老舗アウトドア店への記憶を辿って信州・松本に行ってきた

  • 写真 & 文:小暮昌弘
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先日、久しぶりに長野県の松本に出掛けた。前回行ったのはコロナ禍前で、たぶん3、4年振りの松本だ。旅の目的は松本に住む知人と一緒に美味しいものを楽しく食べて、アルプスの自然を存分に満喫すること。それにもう一つ。気になる服を見たいと思ったからだ。

その服はアメリカ・ロサンゼルスにあるショップ、アドベンチャー16がデザインしたTシャツだ。松本に行くと必ず立ち寄るショップがあり、旅行前の下調べでその店のウェブサイトをチェックしている時にたまたま見つけたのだ。

アドベンチャー16はロサンゼルスにあるアウトドアショップで、サンディエゴなどにいくつか店もあったと聞くが、市内のウエスト・ロサンゼルスにあった店に私が初めて訪れたのは、1978年のこと。初めての海外旅行で、何の雑誌かは忘れたが、イラストレーター小林泰彦さんのイラスト地図を頼りに目指した店だった。ロサンゼルスに一度でも行ったことがある人ならばわかると思うが、ロサンゼルスはとにかく巨大な街だ。しかも平地で目印になる建物も少ない。クルマで移動するのが当たり前な街だが、当時免許も持っていなかった私はバスと徒歩でなんとかその店に辿り着いた記憶がある。記憶はそこまで。どんな店だったか、そこで何を購入したかは、まったく思い出せない。

10数年前に仕事でロサンゼルスに行った際に、たまたま同じ店を見つけ、思わず懐かしくなって立ち寄ってみた。平屋の店に入ると、木造りのクラシックなインテリア。壁には昔の写真や古いキャンプ道具などが並んでおり、アウトドアショップとしての歴史と60〜70年代の古き良き時代のカリフォルニアのカルチャーを感じられる洒落た店だった。アメリカのアウトドアショップらしく、とても広々としたつくりで、ウェアや靴だけでなく、テント、キャンプ用品などのギアなども豊富に揃っている。さまざまなアウトドアブランドを扱い、自社製品のアイテムも並んでいた。何時間でもいられるような品揃えだった。

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胸にプリントされた写真。下に「1976年」とある。1976年の同店を映した写真をそのままプリントしたのだろう。ほかにも当時のバックパッカーの写真をプリントしたTシャツもあったが、目指したのはこのプリントのTシャツだ。
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本国のサイトを見てみたら、ショップは閉じてしまったが、オリジナル製品を中心にサイトで販売は続けているようだ。このTシャツもその中の一枚と思われる。厚手のコットン100%の生地を使い、ネックのつくりもしっかりしている。

アドベンチャー16がオープンしたのは、1962年。登山家でもあったアンディ・ドローリンジャーが開いたショップで、某サイトの情報によれば、俳優の高倉健さんも「ロサンゼルスでいちばん好きな店」と言っていたという逸話まである。昨年、Pen Onlineで連載中の「大人の名品図鑑」のためにグレゴリーの歴史を調べていたら、グレゴリーの創業者ウェイン・グレゴリーとのこの店の関係を書いた記述を発見した。ウェインはボーイスカウトのギアを買うためにサンディエゴのアドベンチャー16によく通っていたそうで、2番目の店員としてこの店で働いていたことがあると書かれていた。アウトドアバッグのロールス・ロイスの異名を持つグレゴリーの出発点になった名店ということなのである。また同じカリフォルニアに出自を持つアウトドアブランド、パタゴニアがまだ直営店を開く前はアドベンチャー16がそうとうな量のパタゴニアの製品を販売していたという話もある。私も2度目に訪れた時には、パタゴニアの品揃えの豊富さに驚き、記念にとフリースジャケットを1枚購入した。

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10数年前に訪れた時に購入したオリジナルのナイロン製のポーチ。3層になっており、書類や小物を仕分けできるので、とても便利。旅行の必需品として今でもよく使っている。
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オリジナルの製品にはこんな凝ったラベルが付けられている。本国のサイトではこれをそのままステッカーにしたものも販売されている。

そんな確かなストーリーを持つ老舗アウトドアショップであったが、松本のショップのサイトによれば、「2020年コロナ前に惜しまれながら閉店」とある。ええっ! 残念。 自分でも検索してみると、アメリカの老舗アウトドア雑誌『Outside』のWebサイトでも同ショップが57年の歴史に終止符を打ったという記事を発見した。

そんな事情を考えると、是が非でもこのTシャツは手に入れたいと思うのが、服好きの性だ。もちろんサイトでポチっとクリックして簡単に買うこともできる。しかしモノには出会いが必要で大切だ。可能ならば見て触って買いたい。「万が一売り切れてしまったらそれはそれで縁がなかったということだ」と自分に言い聞かせて、6月の旅を心待ちにしていた。

松本でようやく手にしたそのTシャツ。白のボディにプリントされていたのはアドベンチャー16の外観写真。プリントの下には手書きで「1976」と描かれている。76年に撮られた写真だろう。私が初めてこの店を訪れる2年前の写真ではないか。たぶん私が訪ねた時も店のつくりはこんな感じだったに違いない。一緒に写っているクルマの一台はワーゲンのタイプⅡ。まさしくあの頃、私が夢に見たカリフォルニアそのものだ。

胸に一枚のプリントが入っただけのシンプルなTシャツだが、私の20代のロサンゼルスへの旅と、今回の松本への旅を繋ぐメモリアルな一枚となった。

小暮昌弘

ファッション編集者

法政大学卒業。1982年から婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。『25ans』を経て『MEN’S CLUB』に。おもにファッションを担当する。2005年から07年まで『MEN’S CLUB』編集長。09年よりフリーランスとして活動。

小暮昌弘

ファッション編集者

法政大学卒業。1982年から婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。『25ans』を経て『MEN’S CLUB』に。おもにファッションを担当する。2005年から07年まで『MEN’S CLUB』編集長。09年よりフリーランスとして活動。