尾崎世界観、木下龍也、武田砂鉄が、谷川俊太郎のことばを通し、”書くこととことば”について語り合う

  • 写真:後藤武浩
  • 編集&文:久保寺潤子

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短歌、歌詞、エッセイと、土俵は違えどもことばを相手に仕事をしている気鋭の3人が、谷川の詩や「書く」という行為について語り合う。現在発売中のPen最新号『みんなの谷川俊太郎』から抜粋して紹介する。

Pen最新号『みんなの谷川俊太郎』。今年4月から開催されている『谷川俊太郎 絵本★百貨展』の見どころから、谷川俊太郎のインタビュー、自宅で見つけた思いが宿った品々などを掲載。また、10代から101歳までの俳優・作家・ミュージシャンらが、谷川作品について語ってくれた。谷川俊太郎の「ことば」をいま改めて見つめ直し、その魅力を未来へとつなげたい。

『みんなの谷川俊太郎』
Pen 2023年7月号 ¥880(税込)
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尾崎世界観:ジャケット¥49,500、パンツ¥36,300、ソックス¥4,950/すべてマーガレット・ハウエル(マーガレット・ハウエルTEL:03-5785-6445)ヴィンテージのシャツ¥19,580/Pigsty原宿店TEL:03-6438-9969

谷川俊太郎との連詩の共著もある歌人の木下龍也。音楽と文学でことばを世に送り出しているミュージシャンの尾崎世界観。日常のコミュニケーションに風穴をあけるエッセイが話題の武田砂鉄。それぞれの創作現場と敬愛する谷川の詩について、三者が語り合う。

武田 尾崎さんが木下さんの詩集の帯に書いた文章、素敵でしたね。「言葉が寂しそうだ」って。

尾崎 音もない限られたことばの世界で、同世代の若者が挑戦しているという印象を受けました。俳句は凛としていて寂しさを感じないけれど、短歌はまだどこかへ行きたそうにしている。そこに寂しさを感じたんです。

木下 谷川さんは俳句も書かれるのですが、短歌については「不感症」だと公言しています。五七五まではいいけど、七七の部分で情がこもって演歌的になってしまうのが苦手だ、と。だから歌人としてはすごくショックでしたね。

武田 でも木下さんの本が多くの人に届いているということは、その演歌的というか、エモーショナルな部分がこの時代に届いているのかなと思います。尾崎さんは作曲と作詞を両方やられますよね。

尾崎 はい。曲が先で、そこに歌詞を付けます。ことばのエモーショナルな部分は大事にしたいのですが、いつも曲に絡め取られてしまう気がして。メロディとリズムはかなり強い存在なので、ことばが塗り潰されてしまう。本当に書きたいことは書けないし、本当のことを書いたら伝わらないという諦めに似た思いもある。そんな疑いから歌詞集を出したり、それでも表現し切れないものを小説として書いています。

メロディとリズムの存在は大きくて、
ことばは曲に絡め取られてしまう
         ──尾崎

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尾崎世界観(Sekaikan Ozaki)●ミュージシャン 東京都出身。ロックバンド、クリープハイプのボーカル・ギターで作詞・作曲を手がける。2016年に小説『祐介』(文藝春秋)で小説家デビュー。22年に歌詞集『私語と』(河出書房新社)を刊行。「NHK短歌」の司会も務める。

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『母影』 尾崎世界観 著 新潮社 ¥1,430 2020年、コロナ禍に執筆した初の純文学小説。自身の出身地である東京都葛飾区を舞台に、友達ができず居場所のない小学生の少女と、マッサージ店で働く母親の日常が描かれる。第164回芥川賞候補作品にノミネートされた。

武田 僕は、雑誌に文章を書くことが多いのですが、雑誌も文字数は決められていて、決まった“土地”に文字を埋めていく感覚があります。限られた文字数といえば短歌はその最たるものでしょう。

木下 そうですね。短歌の土地である定型に慣れたいま、詩や小説の土地が途方もなく広いものに思えます。でも僕の場合は定型だから世に出せる。自分の内側にある感情や風景をことばとして外に出し定型にする。この二段階があるから、恥ずかしさが少なくなる。

尾崎 なるほど。いつも曲をつくってからでないと歌詞が書けないのは、自分で土地を決めているのかもしれません。

武田 谷川さんの詩には繰り返しを用いた作品が多くありますよね。尾崎さんの詞も反復が多いですが、メロディがあるとないでは大きく違ってくると思うんです。

尾崎 全然違いますよね。歌詞の場合は同じことばでも1回目と2回目、6回目では全く違う印象になるとわかって書いている。音の感覚がない中で繰り返すのはどんな感じなんだろうと、谷川さんの詩を読みながら考えていました。

武田 「くりかえす」って詩もありますね。

尾崎 「くりかえしてこんなにもくりかえしくりかえして……」と読んでいるとリズムの渦に入り込んでしまうけれど、谷川さんはあえてそのリズムを引き剥がそうとしているように感じる。そうやってことばだけで勝負しているのが格好いい。

谷川さんみたいに
自分とは思えない作品を書きたい
          ──木下

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木下龍也(Tatsuya Kinoshita)●歌人 山口県出身。歌人。2013年に第一歌集『つむじ風、ここにあります』(書肆侃侃房)、19年に谷川俊太郎、岡野大嗣との、詩と短歌の連詩による共著『今日は誰にも愛されたかった』、20年に『あなたのための短歌集』(ともにナナロク社)を刊行。

 

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『オールアラウンドユー』 木下龍也 著 ナナロク社 ¥1,980 3冊目の短歌集。既発表と書き下ろしの短歌から123首を収録。摘んできたばかりの一輪挿しの花のように瑞々しく美しい短歌は、短歌に馴染みのない読者の心をもとらえている。栞に谷川俊太郎との対談を収録。

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2021年、木下は依頼者からのお題をもとにつくった短歌を集めた歌集を刊行し、話題となった。

武田 木下さんの『あなたのための短歌集』はどうやって生まれたのですか?

木下 最初はお題をいただいて短歌をつくるという腕試しのつもりでした。続けているうちにお題がどんどん切実になってきて、いまは悩み相談的な長文のお題が多いです。だから、自分が依頼者だったらどんなことばがほしいだろう、なにをされたら心地よいだろう、と悩みながらつくっています。

武田 なんだか、ナンバー1ホストのコメントみたい(笑)。いかに背中を押してその人の悩みを解こうかってことですよね。

木下 はい。依頼文をいただいた時点で短歌は半分完成しているんですけどね。依頼者が悩みをことばにできたってことですから。あとは僕がもう半分を添えるだけ。それでも毎回、頭を抱えてます。

尾崎 それでもなんとかできてしまうのは、「型」があるからですよね。自分の場合はメロディとリズムがあれば、筋肉が勝手に収縮するようにことばがはまっていく。

武田 以前、ラジオ番組でゲストに歌人の東直子さんをお招きした時、僕も短歌に挑戦したんですが、全然ダメでした。自分が普段書いている文章に引きずられて説明的になってしまう。自分ではバッチリ描写できているつもりでしたが、むしろ余白がなくなるんです。

木下 僕は短歌をつくるのは得意ではあるけれど、完成の喜びよりもそこに至るまでの生みの苦しみのほうが大きいです。

尾崎 創作の苦しみが完成の喜びより小さい作品は、なかなか届かないですよね。ツイッターなどで有名になる書き手が増えていて、そこからプロへの道も開かれているけれど、フォロワー2000人くらいまでは他人をディスりまくっていた人が、本を出した途端に黙ってしまうのをたまに見かけます。メジャーになった途端にいい人になるのも人間らしいなって。

木下 僕もそういう時期ありました。歌集を出す前は自己が肥大化していて、人を刺すような尖ったものを書いていました。ぶん殴って振り向かせるような。本を出してからはだんだん社会化されて、ことばを選ぶようになりました。

武田 SNSが流行っているというけれど、たとえツイッターで炎上したとしても黙っていればいずれ話題にならなくなる。永遠に残るわけじゃない。だからこそ僕は、作品として残ることばのなかで仕事をしたいと思うんです。

木下 短歌は短いので1音1音にこだわることができる。推敲したものをお見せできる。でも、これに慣れると喋るのが怖くなるんです。話しことばって推敲できないし、脳や心に近すぎる気がして。

尾崎 そこは逆ですね。喋ることで要らないことばを捨てていく。排泄したことばをあえて残しておいて作品にすることもあります。

最後に、好きな谷川の詩を3人に挙げてもらった。

武田 僕がいちばん好きな谷川さんの詩は「うんち」です。「せいしょには しるされていないが/アダムも うんちはしたであろう/そしてイブも エデンのそののくさむらで/りんごのうんちを したであろう」っていう。聖書の「創世記」に描かれるお馴染みの光景を勝手に広げて、みんなうんちをするんだっていう愉快さと、うんちに対する軽やかさ。谷川さん的濃度の濃い作品だと思います。

尾崎 「ビリイ・ザ・キッド」が好きです。読んでいて単純に格好いいところが好き。説明する必要がなくて、いま自分がいちばん求めているものです。

木下 僕は「芝生」ですね。この詩、同じ人間が書いたものとは思えないんです。谷川さんに聞いたところ、自動筆記みたいにして書いたと。自分で書いたというより、書かされたって感覚だそうです。僕は短歌をやり続けるかぎり、自分という枠から出られないのではと感じていて。谷川さんのように、自分が書いたとは思えないようなものを書くのが憧れです。

武田 谷川さん、本当はものすごく緻密な計算式があって、まだ誰にも言っていないだけなのかもしれませんよ。

決められた土地のなかで、
作品として残る仕事がしたい
        ──武田

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武田砂鉄(Satetsu Takeda)●ライター 東京都出身。出版社勤務を経て2014年よりライターに。15年『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)でBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。雑誌やウェブメディアなどで執筆するほか、ラジオパーソナリティとしても活躍。

 

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『父ではありませんが』 武田砂鉄 著 集英社 ¥1,760 「父とは」「母とは」「家族とは」の語りに潜む違和感を「父ではない」著者が、第三者の立場から考察したエッセイ。当事者と第三者、マジョリティとマイノリティが意見を交わすことの必要性を、生活のさまざまな場面を通して検証する。

 

詩、絵本、歌、翻訳、心に響く”ことば”のすべて
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