「怪物」とはなにを指すのか? 複数の視点から正体を描き出す『怪物』ほか【今月の映画3選】

  • 文:児玉美月(映画執筆家)

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今月のおすすめ映画①『怪物』
「怪物」とはなにを指すのか?複数の視点から正体を描き出す

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是枝監督の念願が叶い、この3月に惜しくも逝去した坂本龍一が音楽を手がけた。書き下ろしの2曲に加えて、1月に発売された最新アルバム『12』の収録曲やさらに過去の曲が流れる。全7曲を収録したサウンドトラックが5月31日に発売予定。

韓国で撮影された是枝裕和監督の前作『ベイビー・ブローカー』は、赤ちゃんポストを題材に、彼がこれまで繰り返し扱ってきた「擬似家族」が主題として描かれた。そこには韓国社会、ひいては日本社会も共有する同性愛や女性差別の問題も繊細に織り込まれ、答えが出なくとも対話を続けてゆく重要性が提起されていた。

最新作『怪物』で脚本に迎えたのは坂元裕二。共通の趣味をもつ恋人同士を描いた『花束みたいな恋をした』(2021年)は、その年の恋愛映画の代表作に。今回、そんな坂元との初めてのタッグによって新たな境地を開く。

『万引き家族』(2018年)に続いて2作目の是枝作品への出演となる安藤サクラが、息子が教師からいじめを受けているのではないかと心配するシングルマザーを演じた。校長役を演じたのは、坂元作品にも出演歴のある田中裕子。母親から問い詰められてもどこか上の空な校長を、抑圧的ながらも含みのある演技で表現し、存在感を放っている。

ある夜に起きた雑居ビルの火災を起点としながら、小学校を舞台に親と子、教師ら複数の人物の視点から物語が描かれてゆく。少年たちが重要な役どころを担うあたりは、『誰も知らない』をはじめ、子役の演出に長けた是枝の手腕が光るところだ。ここには、非規範的なジェンダーやセクシュアリティをもつ子どもの問題も含まれる。

少しずつウソを孕む言葉、ささやかなズレが生じる人間関係など、日常生活の微細なボタンの掛け違えが、やがて大きな出来事を引き起こしてしまう。

怪物とはいったい誰なのか──? ある視点ではある人が怪物のようであり、別の視点ではまた別の人が怪物のように映し出されてゆく。わたしたちはこの映画が描く怪物の正体を、鋭く見つめる必要があるだろう。

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© 2023「怪物」製作委員会

 

『怪物』

監督/是枝裕和
出演/安藤サクラ、永山瑛太ほか
2023年 日本映画 2時間6分 6/2よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画②『世界が引き裂かれる時』
究極の視覚表現で、戦争の凄惨さを告発する

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ある日、安全地帯であるはずの自分の家にぽっかりと大きな穴が開いてしまう。2014年に発生したマレーシア航空17便撃墜事件を背景に、ウクライナの小さな村に暮らす妊娠中の女性を描いた。円を描くように旋回する長回しによる撮影は恐怖を増長させ、穴の開いた家とともに日常生活になだれ込む危険を表す。究極の視覚表現がここに誕生した。失われてゆく命と生まれてくる命を同時に描くことで、戦争の凄惨さを告発している。

『世界が引き裂かれる時』

監督/マリナ・エル・ゴルバチ
出演/オクサナ・チャルカシナ、セルゲイ・シャドリンほか
2022年 ウクライナ・トルコ映画 1時間40分 6/17よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

 

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今月のおすすめ映画③『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
赦すか闘うか、去るか。女たちによる選択の行方

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© 2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.

ミリアム・トウズによる同名ベストセラー小説の映画化。あるキリスト教一派の村で起きた性暴行事件を巡って、それぞれの立場にある女たちが「赦す」か「闘う」か、「去る」かを決めるために話し合う。残された時間は、男たちが街から帰ってくるまでの2日間だけ。監督のサラ・ポーリーは、ほとんどが狭い納屋で展開されるこの映画において、空間を広く見せる特異な演出を試みている。それは、女たちの行方を予告しているようでもある。

『ウーマン・トーキング 私たちの選択』

監督/サラ・ポーリー
出演/ルーニー・マーラ、クレア・フォイほか
2022年 アメリカ映画 1時間44分 6/2よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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※この記事はPen 2023年7月号より再編集した記事です。