幼い頃から詩に触れてきた坂本美雨が語る、谷川作品の魅力

  • 写真:黄瀬麻以
  • 編集&文:渡邊卓郎
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70年を超えるキャリアの中で、詩集、絵本、翻訳、作詞など、あらゆる分野で数え切れないほどの作品を残してきた谷川俊太郎。13歳から101歳まで、各世代を代表するファンのことばから、いつまでも色褪せることのない、谷川作品の魅力の神髄に迫る。現在発売中のPen最新号『みんなの谷川俊太郎』から抜粋して紹介する。

Pen最新号『みんなの谷川俊太郎』。今年4月から開催されている『谷川俊太郎 絵本★百貨展』の見どころから、谷川俊太郎のインタビュー、自宅で見つけた思いが宿った品々などを掲載。また、10代から101歳までの俳優・作家・ミュージシャンらが、谷川作品について語ってくれた。谷川俊太郎の「ことば」をいま改めて見つめ直し、その魅力を未来へとつなげたい。

『みんなの谷川俊太郎』
Pen 2023年7月号 ¥880(税込)
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Miu Sakamoto
1980年、音楽一家に生まれ、東京とNYで育つ。97年、歌手デビュー。音楽活動に加え、ラジオパーソナリティ、ナレーション、執筆、演劇など表現の幅を広げている。近著にエッセイ『ただ、一緒に生きている』(光文社)がある。

ちゃんと生きていて、肉体的で血が通っている詩

谷川の詩を朗読する機会も多いミュージシャンの坂本美雨。持っている文庫本の谷川詩集には、無数の付箋が貼られている。谷川の詩は日々の暮らしや旅先など、場所を問わずに読まれ、谷川の詩と存在はずっとそばにあるという。

「谷川さんってすごく色っぽいんです。詩がとても肉体的だと思うんですよね。心象風景じゃないし、哲学的でもない。ちゃんと生きてる、血が通っている詩なんです」

母親に連れられて行った朗読会、家の書棚にあった詩集など、小さな頃から谷川の詩に触れてきた彼女にとって、表現者として詩から学ぶことは多かったそうだ。

「音楽の中でも私は声での表現をしているので、自分の肉体しか使うものがありません。自分の肉体を使って感情や想いなど、説明できないことを説明できないまま出したいといつも思っています。それが運よく誰かに伝わればいいなと。説明的にするのもプロフェッショナルとしてはやるべきことなのかもしれないけれど、なるべくそのまま出したいと思っているんです。そういう自分にとって、詩から学ぶところがすごく大きいですね。詩は説明も分析もしないし、表現したいものやこと、感情をそのまま表現するもの。たとえばひとつの感情でも、“悲しい”と言ってしまうと台無しになってしまう場合があります。歌詞になると“悲しい”を使わざるを得ない場合もあるんですけど、“悲しい”の中にもいろんな色合いやストーリーがあるんです。この胸の中にあるさまざまな色合いを出すのが詩の技術だと思うんです」

あらゆる芸術からインスピレーションをもらう中でも、詩の存在は大きいのだろう。

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『朝のかたち
谷川俊太郎詩集Ⅱ』

谷川俊太郎 著 
KADOKAWA(角川文庫) ¥836

「年齢やその時の状況で感じるものが変わるから、この詩集全部が好きなんです」と坂本さん。中でも「からだの中に」は、自分の創作の根本にも触れる感じで特に好きなのだとか。

からだの中に
ああからだの中に
私をあなたにむすぶ血と肉があり

人はそれ故にこんなにも
ひとりひとりだ

(「からだの中に」より)

「小説だったら物語が好きとか、登場人物に感情移入するとか、いろいろな捉え方がありますけど、詩の場合は“あっ”ていう感じ。瞬間的に感情が動かされるんです。自分の中のことばにできなかった、まだ、ことばにも感情にもなる前の“もや”みたいなものを掬い取ってくれるような谷川さんの詩が好きですね。今回選んだ『からだの中に』は、つくる動機、生きることそのものに触れてきます。谷川さんには近づけないなあとも思いますけど、自分の中にこれはわかるなあ、と思う部分を感じると安心します。形のないものを具現化したり、美しいものにするのが芸術家なんでしょうね。谷川さんのような芸術家と同じ方向を見ているんだと思えると、すごく安心します」

詩、絵本、歌、翻訳、心に響く”ことば”のすべて
『みんなの谷川俊太郎』
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Pen 2023年7月号 ¥880(税込)

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