日本法人設立25周年! ダイソンのさらなる進化と、初志を貫く「ものづくり」の本質

  • 文:林 信行
  • 写真:宇田川 淳
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日本法人設立25周年、ファミリーで築くダイソンの歴史

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ダイソン創業者でチーフエンジニアのジェームズ・ダイソン(右)と、ジェームズの長男でチーフエンジニアのジェイク・ダイソン(左)。(Dyson提供)

「ダイソン」という社名を聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろう。

掃除機の会社? 確かに同社の原点は掃除機だし、5月にも最新ロボット掃除機「Dyson 360 Vis Nav」を発表するなど掃除機は相変わらず同社の大事な製品ジャンルのひとつだ。一方で、羽根のない扇風機や、花粉・ウイルスなどを取り除く空気清浄機や空調家電、あるいはドライヤー、ヘアアイロンなどのヘアケア製品も最近よく見かける。

この一見バラバラに見える製品群で共通しているのが、小型でパワフルな独自開発のモーターで空気を意のままに操って、他社商品が持つさまざまな問題を解決していること。

これまでのダイソン製品とはかなり趣きが異なる同社初のウェアラブル製品で空気清浄機能付きヘッドホンの「Dyson Zone」にも共通したポイントだ。 

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5月23日に日本で発売開始されたアクティブノイズキャンセリング機能付き空気清浄ヘッドホン「Dyson Zone」。(Dyson提供)

「Dyson Zone」は、ダイソン社の若きリーダー、ジェイク・ダイソンが先導して開発された。名前から想像できるように、創業者ジェームズ・ダイソンの長男で、同社での肩書きは「チーフエンジニア」。実はジェームズ・ダイソンと同じ肩書きだ。

もともとは自分の会社で機能性の高いLED照明を開発・販売していたが、2015年にダイソン社がこれを吸収合併し、以後、ダイソン社の一員となった(現在、照明製品はダイソン社が販売)。

5月、そんなダイソン親子が揃って訪日し、「Dyson Launch Pad」というイベントを開催。ダイソン日本法人設立25周年を祝い、「Dyson 360 Vis Nav」「Dyson Zone」を含む最新製品を発表した。

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ロボット掃除機「Dyson 360 Vis Nav」を手にするジェームズ・ダイソン。(Dyson提供)
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ジェイク・ダイソン。空気清浄機能付きヘッドホン「Dyson Zone」は彼が先導して開発した。(Dyson提供)

イベントでは冒頭、ジェームズが登壇。ダイソンと日本の深い関わりを振り返った。彼が40年前に発明した掃除機「G-Force」は、日本の商社エイペックス社によって商品化された。ジェームズはその収益を元手に30年前の1993年にダイソン社を創業している。日本はそんな彼にとっては特別な国で、その後も度々、日本で新製品発表をしたり、日本のブランドであるイッセイ ミヤケとのコラボレーションも行っている。

続いて息子ジェイクが登壇すると、背景には「我々はファミリービジネス」と書かれたスライドが映し出された。

実はダイソン社、これだけ世界的に大成功を収めている会社にもかかわらず、上場企業ではないのだ。株主の意向をうかがってつくりたいものをつくれなくなるよりはと、あえて非上場の道を選んでいる。会社の経営も彼ら2人とは別に最高経営責任者(CEO)はいるが、実質的にはチーフエンジニアであるダイソン親子が主導している。

日本法人設立25周年というひとつの節目を迎えたダイソン。新たなテクノロジーを携えながら、今後、どのように展開していくのか。

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テクノロジーは進化しても、ものづくりの本質は変わらない 

「最初の2年半はダイソンがどういう会社か理解するので精一杯でした。父が日々、製品をつくるエンジニアたちを相手にデザインレビューを行なうので、自分もそこに同席しました。また取締役会にもファミリーメンバーとして参加してきました。それらを続けることで会社の戦略や、どういった課題があるかを徐々に理解しました。そして最近ようやく、どの仕事はどのように進めるべきかグリップ感が掴めるようになってきました。現在、私はロボティクスとウエアラブルの事業を統括していますが、同時に取締役会のメンバーも務め、ダイソンの事業や戦略、運営方法についても意見も言うようになってきました」

ダイソン社に加わってから8年が経ち、こう語るジェイク。彼はダイソン社を「テクノロジーの会社」だと断言する。

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イベント後、個別取材に応じたジェイク・ダイソン。

創業者ジェームズは、ダイソンをデザイン・エンジニアリングの会社と位置付け、その教育にも力を注いできた。世の中にある課題を見極め、それを解決するために多くの試作を繰り返し、製品の形を模索するアプローチだ。先述の「G-Force」の開発では1号機を完成させるまでに5127台もの試作をしたというのは有名な話だ。

ジェイクは「テクノロジー」という言葉を用いながら、「製品の形状は使うテクノロジーによって自ずと決まる。ある課題を解決しようとしたとき、どのテクノロジーが有効かを見極め、そのテクノロジーがちゃんと役目を果たすように並べていけば、自ずと製品の形も決まるものだ」と語り、製品のデザインについての考えを展開する。

「父が事業を始めた30年前と今では時代が変わった。昔はコンピューターがなかったから、何かが違うと製品を手でつくり直し、手でテストし、何が問題かを分析して、再び手でつくり直す必要があった。今は空気の流れや熱伝達もコンピューター上でシミュレーションできる」 

一方でジェイクは、こうも言い添えた。

「これらの方法で誰もが製品をつくれるわけではない。つくろうとしている製品や課題、どんなパラメーター変更をしたらいいのかを熟知しているからこそ、それを製品に落とし込める。つくり方のアプローチは変わったけれど、製品を完成させるまでに何度も何度も試行錯誤を繰り返さないければならないというものづくりの本質は変わっていない」

ジェームズと製品づくりに使う技術は変わったが、基本の姿勢は変わっていないようだ。ただし、技術変化による影響があまりにも大きいので、彼は「テクノロジー」という言葉を好んで使うようだ。

「今後は製品づくりで当然のようにAIの活用も進むだろう。研究でもAIを使うだろうし、製品が仕事を学習するためにも当たり前にAIを使うようになる。ただそんな時代になっても製品づくりの本質が変わることはない」

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ジェイク・ダイソンはテクノロジーが進歩しても「製品づくりの本質が変わることはない」と語る。

では、日本との関係はどうか。

小さい頃は、父ジェームズが日本に出張に行く度に、英国では見ない面白いものをスーツケースいっぱいに買ってきてくてたそうで、日本は憧れの国だったという。初めて訪れたのは「12年ほど前」で、「それ以後、コロナ禍になるまでは毎年日本に来ていました」と言う。

前の会社、Jake Dyson Productsの照明製品のローンチも代官山のT-SITEで行った。ユーザー調査も度々、日本で行っては、父がそうしていたようにスーツケースいっぱいに日本の珍しい製品をお土産として買って帰っているそうだ。

一体、日本のどこにそんなに魅力を感じているのか。

「私にとって日本は世界で最もエキサイティングな場所です。魅了されることも多ければ、衝撃を受けることも多い。止めどなく変化があり、それでいて非常に秩序正しい先進的な国。日本の街はまったく持って驚くべき存在だし、その文化も驚くべきものだと思っています。我々は常に日本から非常に大きなインスピレーションを得ています。日本人のDNAには、新たな発明で課題を乗り越えようとするマインドや、精巧なものづくりへのリスペクトといったものが刻まれていると感じますし、その部分がダイソン社の文化とも繋がっているのだと感じています」

どうやら、時代が変わり製品が変わっても、親日企業であるとともに、ものづくりにおける哲学は変わらないようだ。

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ダイソンの新たなラインナップ

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ダイソン初のオーディオ、ウエアラブルデバイスとなる空気清浄ヘッドホン「Dyson Zone」。高度なノイズキャンセリング機能で没入感のあるサウンドを実現。取り外し可能なシールドに空気清浄機能を搭載し、花粉やウイルスなどを捕集する。
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日本での25周年を記念して誕生した、ダイソン初の掃除機「G-Force」にヒントを得た限定カラーのヘアケア製品「Ceramic Pop(セラミック ポップ)」モデル。
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360°ビジョンを搭載するインテリジェントなロボット掃除機「Dyson 360 Vis Nav」。パワフルな吸引力を誇り、魚眼レンズを用いた360°ビジョンシステムによって効率よく、すばやい掃除を実現する。

問い合わせ先/ダイソンお客様相談室 TEL:0120-295-731 (携帯電話からは0570-073-731)
https://www.dyson.co.jp/contact.aspx

林 信行

ITジャーナリスト

1990年から最先端の未来を取材・発信するジャーナリストとして活動を開始。アップルやグーグルなどIT大手に関する著書を多数執筆。最近は未来をつくるのはテクノロジー企業ではないと良いデザインやコンテンポラリーアートの取材に注力。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学客員教授。

Twitter / Official Site

林 信行

ITジャーナリスト

1990年から最先端の未来を取材・発信するジャーナリストとして活動を開始。アップルやグーグルなどIT大手に関する著書を多数執筆。最近は未来をつくるのはテクノロジー企業ではないと良いデザインやコンテンポラリーアートの取材に注力。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学客員教授。

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