唯一無二の体験を目指す、Airbnbの新たな戦略とは? 日本市場への展望を創業者のネイサン・ブレチャージクが語る

  • 写真:溝口 拓
  • 文:久保寺潤子
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世界中の旅行者と、部屋を貸したい人をつなぐホームシェアリングのプラットフォームをいち早く手がけたAirbnb(エアビーアンドビー)。創業者のひとりであるネイサン・ブレチャージクが来日し、今後の展望を語った。

ホストはAirbnbのおもてなしの最前線を担う大切な存在

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ネイサン・ブレチャージク●ハーバード大学でコンピュータサイエンスの文学士号を取得。2008年よりAirbnbの共同創業者であり最高戦略責任者。Airbnbのエンジニアリング、データサイエンス、支払い、パフォーマンスマーケティングなどの立ち上げを主導してきた。最近では短期宿泊事業に関して、自治体のニーズに対応する業界初のソフトウェアソリューション「Airbnbシティポータル」や、予約の悪用防止のためのスクリーニング機能、賃借人がホスティングを享受できるようにする「Airbnbフレンドリーアパートメント」の立ち上げに携わる。

スマホの画面から世界中のホストと繋がり、個人宅での宿泊を予約できるAirbnbは、ゲストがその土地や人々とより深く交流できることで新たな旅の可能性を広げた。2007年、デザイン系大学を卒業したブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアは当時ルームメイトとしてサンフランシスコで暮らしていたが、同地で開かれる国際デザイン会議の際に宿泊地が不足していることに目をつけ、自宅の空きスペースにエアマットを敷いて貸し出すことを思いつく。このアイデアをビジネスとして確立した立役者がジョーの元ルームメイトでエンジニアのネイサンだった。3人のメンバーによって08年にローンチしたAirbnbは、今や220の国と地域でサービスを展開し、ゲストの受け入れ回数は14億回を数えるまでに成長した(22年12月31日時点)。わずか3人のゲストから始めたビジネスは飛躍的に発展を遂げたが、ネイサンは原点に立ち返ることを忘れない。

「サービスを始めた2008年は前途多難でした。『知らない人を自分の家に招くなんてとんでもない!』と誰もが思いますよね。そこで私たちはまず信頼性の確保に努めました。ゲストのプロファイルに関しては、ある程度裕福で信頼できる人たちを中心にサービスを提供していることを確認しながら、ホストとの対話を重ねました。設立間もない頃に、地元ニューヨークでユーザーたちのもとを訪ねてみたのです。そのなかで、とある著名な投資家から『何百人ものゲストをなんとなく集めるより、少数でも自分たちのことを心から愛してくれるゲストを集めるべきだ』というアドバイスを得ました。実際Airbnbを利用したゲストは、楽しい体験ができるとそれを友達に口コミで伝えてくれます。そしてそこから、自分もホストになってみようという動きが加速されるのです。ニューヨークやパリで滞在した経験をもとに、東京でホストをやってみようという具合に」

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東京にあるAirbnb日本支社では、全国のホストと定期的にミーティングを行っている。

Airbnbはインターネット系のスタートアップではあるが、提供しているのは人と人とのリアルなコミュニケーションだ。創業から15年経った今でも、代表の3人はホストとの関係性を重視している。今回、パンデミックが終息を迎えつつある日本を訪れたネイサンは、日本のホストたちと膝を突き合わせてミーティングを行った。

「いま改めて、私たちの企業の最前線はホストであるという点を強調したいと思います。実際におもてなしをするのはホストであり、彼らの個性がゲストの旅の体験を豊かなものにするのです」

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“顔の見えるホスト”と、きめ細やかなサービス

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自身も妻のエリザベスとともにAirbnbホストとして活動し、何百人ものゲストを迎え入れている。

今年新たな機能として発表された「ホストパスポート」は、ホストの顔をより具体的に伝えるサービスだ。

「ホストがどんな生活をしているのか、どんな音楽が好きなのかといった具体的な情報を掲載することで、より親しみやすさを感じてもらえると思います」

Airbnbでは一棟丸ごとを別荘のように貸し出すバケーションレンタルもあれば、ホストが生活している家屋の一室をゲストルームとして提供するタイプもある。後者において、ゲストルームに関する情報をより詳細に記載する機能も追加された。

「ベッドルームに鍵はかかるのか? トイレは共同使用か? など、ゲスト目線でのポイントをわかりやすく明記することにしました」

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新たに導入された「ホストパスポート」の画面。ホストの職業や趣味、ペットの情報などが表示される。

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古民家の人気と大阪・関西万博の開催で、高まる日本市場

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ゲストとホストが互いに評価しながら、より良い関係性を構築したいと語るネイサン。

パンデミックの終息により世界中で人の移動が再開されつつあるが、日本は旅先のリストで上位にあるとネイサンは言う。

「わが社の第一四半期において、アジア地域は前年比48パーセントの伸びを示しており、日本もそれに準じて高い伸び率となっています。これは国外の移動が制限されていたパンデミックの最中でも、国内において地方を訪れるゲストが増えたためです。Airbnbには地方の小さな町にも多くの物件があるため、今後は海外のゲストにもその魅力を発信できると期待しています」

新機能のひとつとして追加された「カテゴリ」は、行き先から旅を決めるのではなく、体験から旅先を選べる画期的なシステムだ。

「たとえば、“国立公園の中を見たい”“スキーをするならどこがいい?”“ビーチでの楽しみは?”“歴史ある建物に泊まりたい”といった、さまざまなリクエストに応じて検索できるシステムを追加しました。私たちは宿泊先の物件を『ホーム』と呼んでいますが、ホーム自体が旅行者にとってかけがえのない体験になるような場を提供したいと思っています。国内であれ国外であれ、Airbnbで旅することはすなわち、そこでしか得られない人との出会いや本物の体験なのです」

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別荘として利用していた古民家をAirbnbに登録。丹波の山に囲まれたロケーションが人気だ。 提供:Airbnb https://www.airbnb.jp/rooms/34794644
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長野県の諏訪エリアにある木造の一軒家。趣ある日本家屋で夏の思い出づくりを。 提供:Airbnb https://www.airbnb.jp/rooms/561197854259636701

日本ならではの宿泊体験として、Airbnbが力を入れているリスティングのひとつが古民家だ。

「日本国内のAirbnbには現在、『歴史ある建物』カテゴリのリスティングが500以上あります。われわれは一般社団法人全国古民家再生協会に対して今年、古民家のリノベーション費用として必要としている方々に使っていただけるよう、1億5千万円を寄付いたしました。これまで“隠れた宝”であった歴史ある建物も、Airbnbに掲載されれば世界中のゲストが容易に検索できるようになりますので、これから数多くの古民家が宿泊施設として再活用されることで、より多くの人に体験してもらえれば嬉しいですね」

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創業以来、ユーザーとの信頼関係を大切にしているネイサンは、世界中のホストと交流を重ねている。

2025年には大阪・関西万博も控え、Airbnbの需要はますます高まりそうだ。

「大規模なイベントのための宿泊施設を個人が提供するホームシェアリングのスタイルはわれわれの原点です。2025年の大阪・関西万博に向けて、私たちは一般社団法人関西観光本部と提携し、Airbnbだからこそ可能な関西周辺地域の広域周遊と地元のホストさんとゲストによる交流型観光の可能性を広げていくことができると思っています。万博を機に多くのゲストを迎えることは、ホストにとって副収入を得る以上の貴重な経験になるでしょう。これをきっかけに日本の方々にはぜひホストになっていただきたいですね」

問い合わせ先/Airbnb https://www.airbnb.jp

 

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