CEOダヴィデ・グラッソが語る、電動化が始まった未来のマセラティ

  • 文:サトータケシ
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ダヴィデ・グラッソは、イタリア・トリノ大学でビジネスと経済学を学び、ミラノ経営大学院で修士課程を修めた。2001年にナイキに入社、おもにマーケティングを担当し、COOなどの要職に就いた。また、ナイキの子会社であるコンバース社の最高経営責任者も務めた。19年にマセラティのCEOに就任、現在にいたる。

 

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来日して、我々のインタビューに精力的に答えるグラッソ。マセラティ社の歴史にはとくに詳しい。

ここ数年のマセラティの動きが、実に興味深い。2025年までに全モデルにBEV(バッテリーに蓄えた電気だけで走るピュアな電気自動車)仕様をラインアップし、30年には全モデルをBEVに切り替えるとアナウンスしたのだ。ラグジュアリーブランドのなかで、最も急進的に電動化を進めている。

マセラティが「フォルゴーレ(註:イタリア語で稲妻や雷光の意)計画」と呼ぶ電動化のプロジェクトは、絵に描いた餅ではなく、着々と進行している。

23年4月の上海モーターショーでは、BEVのグレカーレ・フォルゴーレを発表。22年にお披露目された2ドアクーペのグラントゥーリズモにも、エンジン車とBEVの両方が設定されている。また、同社のアイコンとも言うべきスーパースポーツのMC20にも、近い将来にBEVが追加されるはずだ。

イタリアン・ラグジュアリーを体現する伝統のブランドであるマセラティが、あえて革新的な取り組みに挑む理由はなにか? 来日中のマセラティのダヴィデ・グラッソCEOに、直接質問する機会を得た。

グラッソは、伝統と革新の両立について、言葉を選びながらていねいに答えてくれた。

「来年、創立110周年を迎えるマセラティは、歴史のあるブランドですが、ここで忘れてはならないのは、自動車の黎明期から今日にいたるまで、常にチャレンジングなメーカーであったという事実です。たとえば20世紀初頭の創業当時、マセラティ兄弟は1930年代にスーパーチャージャーを採用したグランプリカーを生み出すなど常識を覆すような新しい技術を取り入れた高性能車を開発することで、ブランドの地位を確立しました。したがって、電動化などの新しい技術に積極的にチャレンジすることは、実にマセラティらしい姿勢だと言うことができます」

なるほど、マセラティは革新を続けてきたからこそ、伝統を築くことができたのだ。グラッソは、さらに言葉を続ける。 

「マセラティのユニークな点として、サーキットで得た技術や経験を、市販モデルの開発に生かしてきた歴史があります。現在、マセラティはフォーミュラEに参戦していますが、そこで得た知見を最大限に活用してBEVを開発しています」

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2022年秋、マセラティは新しい時代のフラグシップモデルとして、グラントゥーリズモを発表した。エンジン仕様とフォルゴーレと呼ばれるBEVを同時に発表したところがユニークだった。フォルゴーレは、T型のバッテリーと3基の自社製モーターを搭載、エンジン仕様を凌ぐハイパフォーマンスを実現した。

BEVをつくるというとまったく新しいことをやっているように感じるけれど、開発の手法やサーキットが実験室であるという考え方は、昔から変わっていないのだ。

マセラティが伝統と革新を上手にバランスさせていることは、グラントゥーリズモのデザインにも表れている。このクルマは、ロングノーズ・ショートデッキという、伝統的な高性能クーペのフォルムを踏襲しているのだ。

ボンネットの下に大きくて重たいエンジンを積む必要がないBEVは、従来のエンジン車と異なるフォルムにすることも可能だ。実際、あえてエンジン車とかけ離れたデザインのBEVに仕立てることで、新しさを表現したり差別化を図るメーカーも存在する。けれどもマセラティは普遍的な美しいフォルムの中に、最新のメカニズムを組み込んだ。

グラッソによれば、「グラントゥーリズモは、エンジン車もBEVも同じパフォーマンスを発揮します」と語る。マセラティというブランドは、いままでクルマを愛してきた人々の気持を裏切ることなく、一緒に未来へ向かおうとしている。