唯一無二のアーティスト、デヴィッド・ボウイが鮮やかに着こなしたカラースーツ

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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デヴィッド・ボウイが着たカラースーツを彷彿とさせるアレキサンダー・マックイーンのスーツ。カラーは薄いブルーで、素材はウール100%。シャツには同系のブルーを合わせてみたが、これもときよりボウイがステージで見せていた着方だ。ジャケット¥402,600、パンツ¥133,100、シャツ¥82,500/すべてアレキサンダー・マックイーン

「大人の名品図鑑」デヴィッド・ボウイ編 #1

英国、いや世界を代表するロックスターのデヴィッド・ボウイ。1960年代から2010年代まで半世紀という長い期間に渡り、第一線でアーティストとして活躍した。その歌が、そのステージが、人々の心を揺さぶり、音楽というジャンルを超え、社会にまで影響を与えた唯一無二のスーパースターだ。今回はそんなデヴィッド・ボウイにまつわる名品を集めてみた。

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今年3月24日に日本全国で公開されたのが映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・ドリーム』。デヴィッド・ボウイ財団初の公式認定ドキュメンタリー作品だ。財団が30年にわたり保管していた彼の膨大な量のアーカイブから選りすぐった未公開映像と、「スターマン」「スペイス・オデティ」「ヒーローズ」「レッツ・ダンス」など40曲もの彼の名曲で構成されている。しかも全編にわたって本人のナレーションが流れるという、ボウイファンならずとも音楽好きには堪らない作品だ。

監督はブレット・モーゲン。ドキュメンタリー映画『くたばれ!ハリウッド』(03年)、『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』(15年)でも知られる。ボウイやT・レックスらの楽曲を手掛けている名プロデューサーのトニー・ビスコンティが音楽プロデュース、『ボヘミアン・ラプソディ』(18年)でアカデミー録音賞を受賞したポール・マッセイが音響を担当している。

この作品ではそれぞれの時代を彩ったボウイの名曲とともに、彼の圧倒的なライブパフォーマンスも堪能することができるが、異彩を放ったことで知られるボウイのステージ衣装にも注目してほしい。70年代までは髪を真っ赤に染め、高さが20cmもあるロンドンブーツを履き、服も女性用とも男性用とも判断できない両性具有的なものを選ぶことが多かったボウイ。なかでも有名なのが、山本寛斎がデザインした「TOKYO POP」と呼ばれる扇のような形の未来的なジャンプスーツだろう。

実はボウイは山本寛斎に衣装を提供してもらう前から、彼の服をステージで着ていた。山本がデザインした「因幡の素兎(いなばのしろうさぎ)」と呼ばれたジャンプスーツをロンドンにある「ボストン42」という店で購入したのだと、『ユリイカ』2016年4月号で山本は語っている。ボウイが大きく華開いた「ジギー・スターダスト・ツアー」や「アラジン・セイン・ツアー」を衣装でバックアップしたのは山本寛斎のクリエイティビティだろうが、そんな山本の才能を正式に仕事を依頼する前からボウイは見抜いていたということだ。

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センセーショナルな衣装だけではない、ボウイのスーツスタイル

映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・ドリーム』にはこうしたボウイの初期のイメージを決定づけたセンセーショナルな衣装も登場してくるが、映画を観て、意外にもボウイがステージでスーツもよく着こなしていたことがわかった。彼のステージ衣装の画像を検索してみると、71年発表の「火星の生活」のミュージック・ビデオではブルーのスーツを着用しているし、『メンズウェア100年史』(P ヴァイン・ブックス 10年)の表紙を飾ったボウイが着ていたのは、イエローのスーツ。

この着こなしを同書の著者キャリー・ブラックマンは「テディ・ボーイとカントリーの折衷スタイル」と評する。もちろんボウイが選んだスーツは英国流のクラシックなタイプとは違う。カラフルで現代流に言えば、モード感を感じさせるものばかり。端正な彼の顔立ちやパフォーマンスと相まって、スーツでも十分ステージ衣装になり得ることを証明しているようだ。

本連載を担当するスタイリスト井藤成一によれば、ここ数シーズン、メゾンブランドがデザインするテーラードスーツにもカラフルなもの、しかもボウイが好みそうな色合いのものが多いという。その中からこの連載のために選んだのが、英国を代表するメゾン、アレキサンダー・マックイーンがデザインしたスーツだ。

創業者でブランド名の由来にもなっているアレキサンダー・マックイーンは、イギリス出身のデザイナー。サヴィルロウのテーラーで修業を積んだ後、自身のブランドを立ち上げたのが92年。96年には弱冠26歳でブリティッシュ・デザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞、以降、多くのコレクション作品を手掛けるが、2010年2月に40歳で亡くなってしまう。しかしながら彼の意思を引き継ぐ形でサラ・バートンがクリエイティブ・ディレクターに就任し、現在でも高い人気を誇るブランドだ。

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ボウイを想起させるアレキサンダー・マックイーンのスーツ

実は創業者アレキサンダー・マックイーンはボウイの衣裳もデザインしている。97年に発表されたアルバム『アースリング』の表紙を飾ったユニオンジャック=英国の国旗をモチーフにしたコートがまさしくマックイーンがデザインしたもので、これをボウイはステージでも着用している。前述の『ユリイカ』に、2013年にロンドンを皮切りに日本を含め世界各国で開かれた展覧会『デヴィッド・ボウイ・イズ』の図録を見た山本寛斎の話が載っている。

「いろいろな衣装が載っていますが、同じようなヨーロッパ人がつくった服は誰がどう見てもそんなに変わった服はないんですよ。唯一、アレキサンダー・マックイーンがつくったユニオンジャックのコートだけが、私から見て合格で、あとは全然ダメなんですよ」

このように山本寛斎はマックイーンがデザインしたユニオンジャックのコートを評価していた。

アレキサンダー・マックイーンのコレクションからボウイのスーツをイメージして選んだのは、薄いブルーのダブルブレストモデルだ。ダブルでもくるみボタンを使った特徴的なデザインで、シェイプされたウエストが美しいシルエットをつくり出す。スーツ全体からモードな香りが立ち上ってくるが、随所に光るのが職人的な仕立てだろう。

広めのラペルや胸ポケット、ポケットのフラップにも美しいハンドステッチが施され、美しいシルエットを出すためか、パンツの仕立ては非常に凝ったつくりをもつ。サヴィルロウでキャリアをスタートさせた創業者アレキサンダー・マックイーンの服づくりの姿勢が、ブランドにもこのスーツにも息づいている。

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サヴィルロウなどでキャリアを積んだアレキサンダー・マックイーンが創業したブランド。ビョーク、レディー・ガガ、リアーナなど、顧客には世界的なミュージシャンも愛用している。
 

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随所に光るクラフツマンシップ。ポケットなどにハンドステッチが施され、身頃と同じ素材でつくられたくるみボタンも独特だ。

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アレキサンダー・マックイーンのテーラードスタイルは、細身のパンツが多い。シルエットをより美しく見せるためか、ヒップポケットから裾にかけて長くダーツが取られている。

問い合わせ先/アレキサンダー・マックイーン TEL: 03-5778-0786
https://www.alexandermcqueen.com

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