宮城県村田町菅生にあるモータースポーツ施設のスポーツランドSUGOが、地元の食とコラボレートした「むらたの発酵食品プロジェクト」をスタート。この度、発酵食品を活用したメニューが完成し、お披露目会が開催された。異色のコラボに、地域活性化の起爆剤として期待が寄せられている。
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重要伝統的建造物群保存地区がある宮城県村田町
国内のサーキットといえば、三重県・鈴鹿サーキットや静岡県・富士スピードウェイが思い浮かぶが、実は仙台市内から車で30分ほどの場所にもあるのをご存じだろうか。それがスポーツランドSUGOだ。フォーミュラカーレースの国内最高峰であるスーパーフォーミュラのレースも行われる、モータースポーツファンにはお馴染みのサーキットだ。
国際自動車連盟(FIA)公認の国際レーシングコースを含む4つのコースを持ち、日本で唯一オン・オフの二輪、四輪、カートを含めた全カテゴリーにおける全日本格式のレースを開催している。しかし近年における国内モータースポーツの人気は低迷の一途をだどり、今ではサーキットに足を運ぶのは、40代以上の男性をメインとしたコアな層が多くを占める。
このような現状を危惧し、スポーツランドSUGOの運営会社、株式会社菅生の遠藤渉・代表取締役社長は、「一般の人たちにとってサーキットは非常に敷居が高い。気軽に遊びに来られる場所として認知され、最終的には多くの人たちにモータースポーツの魅力を知ってほしい」と、若年層や女性ファンの獲得に意欲を見せる。
実際、子供でも運転できるレンタルカートが用意されていたり、バーベキュー施設やキッズパークもあるのだが、広く認知されているとは言い難い。そこで、遠藤社長が注目したのは、村田町が持つ“価値”だった。
村田町は、江戸時代に水運を生かした紅花交易で栄えた町。市街地にはなまこ壁を特徴とする土蔵造りの建造物が多く残っており、宮城県では唯一となる国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。故に蔵の町として知られ、「みちのく宮城の小京都」とも呼ばれている。
しかし、町には観光客を誘致できる資産がたくさんあるにもかかわらず、地域の活性化には結びついていなかった。そのような中、歴史のある村田町で、遠藤社長が可能性を感じたのは、納豆、味噌、日本酒という古くから伝わる伝統的な発酵食品だった。
「以前から、村田町の人たちはなぜこんなに元気なのだろうと思っていた。調べてみると、免疫力を高める発酵食品が古くからつくられていて、発酵食品を使った新メニューを開発すれば、町もサーキットも元気になるのではないかと思った」と、村田町の老舗とのコラボレーションを始めたきっかけを語ってくれた。
一般的にサーキットは競技車両が騒音を発生するため、人があまりいない辺鄙な場所につくられることが多い。訪れる人は最寄りの高速道路ICとサーキットを往復するだけにとどまり、サーキットの敷地内から出ることはほとんどない。
しかしスポーツランドSUGOの場合、蔵の町並みが残る村田町の市街地まで、車で15分ほどしかかからない。気軽に立ち寄ることができる立地を背景に、発酵食品を活用した新メニューによって、サーキットと蔵の町のシナジーが期待できるだろう。
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村田町の納豆・味噌・酒粕と異色のシェフが出会う
「むらたの発酵食品プロジェクト」では、スポーツランドSUGOの敷地内に新しく誕生したSUGO CAFÉで新メニューを提供する。そこで使用されるのは、グリーンパール納豆本舗の納豆、桜中味噌店の味噌、大沼酒造店の酒粕という地元3社による発酵食品だ。
グリーンパール納豆本舗の納豆は、職人の五感で手間暇をかけた製法が特徴。自然の空気中にある窒素を残す「自然窒素包装」によって、納豆自体の酸化を抑え、新鮮さを保つことで美味しく食べることができる。また植物油で揚げたおつまみ感覚で食べられるドライ納豆や、米粉に納豆を練りこんでつくったモチモチ触感の納豆米粉麺など、新しい納豆製品も開発してきた実績もある。
桜中味噌店は、麹造りから仕込みまで細心の注意を払い、昔ながらの田舎味噌をつくる味噌蔵。宮城県産大豆のミヤギシロメ、宮城県産の米麹、赤穂の天塩を使用し、添加物を一切使用しない「生きている味噌」にこだわる。大豆、米、塩が持つ本来の味を活かし、自然の力に任せて醸造した味噌が看板商品だ。
大沼酒造店は300年以上の歴史を持つ酒蔵で、乾坤一(けんこんいち)の銘柄で知られる。酒米には主に、飯米の宮城県産ササニシキを使い、柔らかい口当たりでありながらキレのよさを個性としている。近年は亀の尾、神力、愛国の明治三大品種を宮城県内で契約栽培した酒造好適米を使い、宮城でしか表現できない味わいを追求している。
そして、新メニューの監修は「旅するシェフ」として知られ、SUGO CAFÉのオフィシャルシェフに就任した吉田友則が担当。これまで20年以上にわたって、依頼があれば全国どこにでも駆け付ける出張料理人としてキャリアを積んできた。
一方で、各サーキットのメニュー開発を行い、レーシングチームの専属シェフとして腕を振るうなど、さまざまなフィールドで活躍。東京羽村市にレストラン「きまぐれや」を構えているものの、出張が本業のため、吉田の料理にありつくには運が必要という、まさに異色の料理人と言っていいだろう。
そんな吉田の信条は「その街を歩く、話す、見る。そこからメニュー」。村田町の発酵食品の可能性が、そのこだわりによって切り開かれていった。
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発酵食品が引き出す料理の旨味
新メニューの開発は2022年5月より本格的に始動。その後、レース開催時のサーキットで試食会を複数回行い、村田町のイベントでは一般参加者や有識者を対象にしたモニターを実施。2023年1月には村田町内の幼稚園・小・中学校の給食として提供するなどして、完成度を高めていった。
そして、お披露目会は2023年2月、グランドオープンを控えたSUGO CAFÉで開催。自治体や協力会社の関係者、地域のメディアが招かれたほか、特別ゲストとしてプロモトクロスライダーの富田俊樹選手と渡辺祐介選手も姿を見せた。主催者代表である遠藤社長の挨拶と来賓の紹介が行われた後、プロジェクトの概要とともに新メニューが発表された。
登場したのは、710(なっとう)ボロネーゼ、85(はっこう)カレー、酒粕ミルクソフトの3品。710ボロネーゼはトマトソースをベースに、桜中味噌店の生味噌「粋」で塩加減を整え、オリーブオイルで炒めたグリーンパール納豆本舗の納豆「こつぶ」を加えたもの。トマトの酸味を味噌がまろやかにし、納豆のほのかな香りが漂うこれまでにないボロネーゼが完成した。
85カレーは桜中味噌店の生味噌「粋」を使い、大沼酒造店の酒粕を隠し味として投入。スパイスに頼らずに、味噌の熟成感と酒粕の爽やかさで、まろやかでコクのあるバランスの取れた味に仕上がった。
酒粕ミルクソフトは山田乳業(宮城県白石市)の牛乳を使用し、大沼酒造店の酒粕をブレンド。さらに甘酒を加え、酒粕の旨味が引き立つように工夫が凝らされている。そのままでも十分に美味しいが、黒蜜やきな粉をかけることで和のスイーツとして味わうこともできる。
これら3品はSUGO CAFÉで提供されるだけでなく、村田町内でも販売が検討されている。中でも710ボロネーゼと85カレーはレトルトパウチ食品としても製品化が進んでいる。
免疫力の向上だけでなく、生活習慣病の予防、栄養価や旨味成分のアップなど、さまざまな効能を持つ発酵食品。健康志向の時代性ともマッチし、モータースポーツの推進や地方創生への貢献にとどまらない大きな可能性が花開くことを期待したい。
SUGO CAFÉ
住所:宮城県柴田郡村田町菅生6-1 スポーツランドSUGO
営業時間:平日10時〜17時(ランチ11時半〜14時)/土日祝9時〜18時(ランチ11時半〜14時)
定休日:水曜
駐車場:有
席数:店内40席、テラス席20席
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