モード初心者のための、クリスチャン・ディオール展ガイド<見どころ編>

  • 写真・文:一史
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前回の、
モード初心者のための、クリスチャン・ディオール展ガイド<基礎知識編>
に続きまして、ここでお届けするのは「見逃さないで!」スポットのお話。
といいますか、極私的に好きなモノになってますが。
5月28日(日)の終了が迫っているなかで、すでに体験済みの方はおさらい気分でご覧いただければ。
それではどうぞ!

アトリエでつくられる、服の原型ルーム

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「なんだこの真っ白な部屋は!」と驚愕。

ここです、ここ。
もういちど「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展」に行くなら、大半の時間を過ごすこと間違いなしの部屋。
というか、ここにまた行くためなら入手が超困難のチケットを取る努力も惜しまないほど感動の部屋。


白の服を集めて、凝ったディスプレイで展示した部屋?
いえいえ、実はこれらはすべて服になる前の構想された原型(トワル)なのです!
アトリエで職人さんたちが試行錯誤して平面の布を立体につくり変え、布を曲げて針を打っては調整していった制作のプロセス。

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一点一点を見ていくと、どんどん時間が過ぎていきます。頭のなかで鳴り響き続けた言葉は「すげえ、すげえ……」」。

やばいです、ここ。
白無地の布により造形の美しさがグッと浮き彫りになってます。
ぶっちゃけ「じっさいの服より美しい」と感じてしまったほど。
わたしがミニマル好きで、ファッションレポート業の職業柄で服づくり好きなこともありますから、皆さんがどうお感じになるかはわかりません。
(会場ではさらりと見て去っていく客が多かったような…)


カンペキな造形の彫刻です!
目にする機会のない舞台裏がずらりと並んでるんですから、この展覧会の最高の目玉といっていいと思うんですが。

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服全体がX字型に整えられた、シルエットと布のドレープのハーモニー。キュートな服!ボタンの位置もここしかない、って完成度の高さ。
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胸元に針が打たれてるのがわかります?最高級の服はこのように立体的に調整されますから、高価になるのもやむなしです。

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なんときれいな……。花をまとっているかのようです。ゼロからこれをつくるのはデザイナーの指示を受けたアトリエの職人さんたち。

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パネル仕立てで細くしたウエストとメリハリをつけた、きゅっと膨らむ丸いスカート。造形を調整しては針を打って固定させ……。

さらにふたつ気づいたことが。
クリスチャン・ディオールのオートクチュール(高級注文服)のアトリエの職場ユニフォームが白衣であること。
(モード界では有名な話)
この部屋が白なのはメゾンのスタイルを表したものでもあるのでしょう。

もうひとつは、服造形で使う布が白であること。
一般のアパレルの原型では低品質な生成り(ベージュ)の「シーチング」と呼ばれる布が使われます。
日本のファッションメーカーの作業場ではベージュタイプしか見たことなかったので、「ディオールは白なんだ…」と。
シフォンを使う部分にはそれに近い布が使われてますし、オートクチュールがコストや採算を度外視したプロセスでデザインされていることがわかります。

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このまま製品化OKですよね!? ダイナミックなのに、華奢でフェミニンでエレガント。ため息しか出ないブラウスです。

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頭であれこれ想像します。「襟が丸いなら?袖先が狭ければ?前合わせがシングルなら?脇のポケットがなければ?」。どれもたぶん不正解。カンペキです、このジャケット。

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高い位置にあり近くで見られない服が多かったのは残念でしたが、部屋の演出の迫力も気分を高揚させてくれました。

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白部屋のご紹介の〆はこのトレンチコート。もはやドレス。ボタン位置の高さが!二重襟が!裾幅の優雅さが!

製品の服の布はふにゃふにゃだったり、刺繍で固くなったり、耐久性に問題があったり、実現にはさまざまな工夫と葛藤があるでしょう。

ちなみに約10年前のエピソードをひとつ。
ファッションショーではデザイナーが最後に登場して挨拶するのが恒例になってます。
ジョン・ガリアーノがデザイナーを解雇された(当人の社会的失言により)直後の2011-12年秋冬オートクチュールのファッションショーのエンディングに、アトリエの職人さんたちが(20名以上)デザイナーのごとくランウエイに出てきて観客を驚かせたことはいまやモード界の伝説。
困難を乗り切った職人さんたちにクリスチャン・ディオールというメゾンが最大限に敬意を払い、彼らなくてしてはメゾンが成立しないことをメディア関係者らに示した感動のフィナーレ。
写真や映像でしか見ていないわたしも、記憶に焼き付けられて忘れられません。
いまもつい「ディオール=好き」と思ってしまうのは、このショーの影響がかなり大きいですね。
決定的といってもいいです。
「こんな姿勢のブランドあるんだ!」と。 

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会場のあちこちに看板で語られている創業者の言葉。「人のためにデザインする」って、デザイナーには自己表現欲求との闘いでもある難しい考え方なのです。

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例のひな壇の仕組み

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1階と地下1階まで吹き抜けで連なる大ひな壇。SF映画の舞踏会かのごとく。
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大きく斜めになったベースにマネキンが鎮座。1階から眺めた様子です。

展覧会に行った人がほぼ全員撮りネットを賑わす大迫力のひな壇。
映える一方で、行ってない人は「展示状態がわからない」とお感じのはず。
そこでわたしは様子がわかるように撮ってみました。
上部が鏡で、反射により永遠に続くように見える構造です。
台の部分は映像投影により色が変わり、常に動いているので見続けても飽きません。
写真で知っていたわたしも、「うっ」となった大迫力。
こんな凄いファッションディスプレイは見たことがありません。
絵画やCGアニメが現実になったような。 

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地下1階では見上げるように一体一体を眺められます。
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あまりにも映えるので、「もういいや(笑)」とすぐ撮るのをやめた展示。誰がどう撮っても確実に絵になります。

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庭園がイメージされた花畑のドレス部屋

 

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がらりと空気が変わるクリーンな部屋。

会場で唯一といっていい、明るくロマンティックな部屋がここ。
マネキンもドレスに合わせて肌部分が消された特別仕様。
ドリーミーな部屋です。

この場所に惹かれたのはまず、香水があったから。
クリスチャン・ディオールの名で思い浮かぶ古い記憶が香水。
ブランドのアイコンは初代の「ミス ディオール」。
私的には「ディオリッシモ」が印象的で。
若い頃に知り、ツンとする匂いにインパクトがあったんです。
「プワゾン」もよく覚えてます。
名前が“毒”ですから。
男を誘惑する狙いがよく伝わるネーミングセンス。

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アトリエで刺繍されたボウタイがついた、特製ケースとセットになった2022年エディションのミス ディオール。
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1952年のミス ディオール特別エディション。犬のモチーフは創業デザイナーの愛犬。

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この部屋でもうひとつ素敵だったのが、切り絵作家の柴田あゆみさんによる天井ディスプレイ。
贅沢すぎます。
会期が終了したらどうなるのか気になってます。

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上から照らされる白いライトで陰影も浮かぶ紙の切り絵。

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展覧会終盤のエスニック

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世界とのつながりを見せる「ディオールと世界」の部屋で、心惹かれたカラフルなルック。

展覧会に並ぶ型数は膨大です。
一方でこれほど偉大なファッション展でも、動かないマネキンを見続ける疲れは出てきます、やはり。
服は動いて生活する人のためにデザインされてますから、静止させるのは無理があるんですよね。
絵画や彫刻、または家具とも異なる存在。

そこで、終盤にある「ディオールと世界」部屋はチラ見くらいで済ませる人もいるでしょう。
社交界の華やかな印象とは違ってエスニックですし。
わたしも実は次にいくアポの時間が迫っていたこともあり部屋をゆっくり見られなかったのですが、目に止まったルックをすかさずスナップ。
自分のストック資料用です。
ディオール展の記録というより。

カラフルなビーズ刺繍はおそらくアフリカからの着想だと推察します。
世界各国の民族衣装は本当に素敵です。
民衆に支持されて長い歴史を生き残り定着したのですから、冷静に考えれば民族衣装が素晴らしくて当たり前なんですよね。
「文化の盗用」でなく、メジャーなブランドが着目したことで世界中に知られる服文化があります。
その重要性にも改めて気づかされた、「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展」でした。

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複雑で立体的なビーズ刺繍がスゴい。おそらくアフリカの現地の人につくってもらったのではないかと(推察です)。
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ほしくないですか?このバッグ。紐を長くして斜め掛けしたら旬のファッションスタイルができあがり。
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サンダルをここまでパワフルに生まれ変わらせるセンスと、つくり込みの贅沢さ。

All photos&text©KAZUSHI

KAZUSHI instagram
www.instagram.com/kazushikazu/?hl=ja

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【画像】モード初心者のための、クリスチャン・ディオール展ガイド<見どころ編>

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「う、なんだこの真っ白な部屋は!」と驚愕。

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一点一点を見ていくと、どんどん時間が過ぎていきます。頭のなかで鳴り響き続けた言葉は「すげえ、すげえ……」」。

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見事な布のドレープのバランス。キュートな服!ボタンの位置もここしかない、って完成度の高さ。
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胸元に針が打たれてるのがわかります??最高級の服はこのように立体的に調整されますから、高価になるのもやむなしです。

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なんときれいな……。花をまとっているかのようです。ゼロからこれをつくるのはデザイナーの指示を受けたアトリエの職人さんたち。

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パネル仕立てで細くしたウエストとつながり、きゅっと膨らむ丸いスカート。メリハリ造形を調整しては針を打って固定させ……。

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このまま製品化OKですよね!? ダイナミックなのに、華奢でフェミニンでエレガント。ため息しか出ないブラウスです。

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頭であれこれ想像します。「襟が丸いなら?袖先が狭ければ?前合わせがシングルなら?脇のポケットがなければ?」。どれもたぶん不正解。カンペキです、このジャケット。

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近くで見られない服が多かったのは残念でしたが、部屋の演出の迫力も気分を高揚させてくれました。

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この部屋のご紹介の〆はこのトレンチコート。もはやドレス。ボタン位置の高さが!二重襟が!裾幅の優雅さが!

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会場のあちこちに看板で語られている創業者の言葉。「人のためにデザインする」って、デザイナーには自己表現欲求との闘いでもある難しい考え方なのです。

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1階と地下1階まで吹き抜けで連なる大ひな壇。SF映画の舞踏会かのごとく。
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大きく斜めになったベースにマネキンが鎮座。1階から眺めた様子です。

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地下1階では見上げるように一体一体を眺められます。
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あまりにも映えるので、「もういいや(笑)」と思ってしまった展示。誰がどう撮っても確実に絵になります。

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がらりと空気が変わるクリーンな部屋。

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アトリエで刺繍されたボウタイがついた、特製ケースとセットになった2022年エディションのミス ディオール。
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1952年のミス ディオール特別エディション。犬のモチーフは創業デザイナーの愛犬。

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上から照らされる白いライトで陰影も浮かぶ紙の切り絵。

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世界とのつながりを見せる「ディオールと世界」の部屋で、心惹かれたカラフルなルック。
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複雑で立体的なビーズ刺繍がスゴい。おそらくアフリカの現地の人につくってもらったのではないかと(推察です)。
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ほしくないですか?このバッグ。紐を長くして斜め掛けしたら旬のファッションスタイルができあがり。
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サンダルをここまでパワフルに生まれ変わらせるセンスと、つくり込みの贅沢さ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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