モード初心者のための、クリスチャン・ディオール展ガイド<基礎知識編>

  • 写真・文:一史
Share:

5月いっぱいの会期中の全開催日が予約で埋まってしまった驚くべき大ヒット展覧会、
「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」


「ブルーボトルコーヒー日本第1号店ができた東京・清澄白河の散歩がてらに」、ってことでもないのでしょうが、東京都現代美術館には連日人が押し寄せているようです。
今回はその展覧会に行こうかと思っている人に向けた、頭に入れておくと会場で戸惑わなくて済む予備知識のお話を。
「どうせもうチケット取れないでしょ」とお思いの人もご安心を。
現在はあくまでも予約であり、当日キャンセルも出るようです。
もっとも当日券は朝イチでソールドアウトらしいので、高いハードルを乗り越えないと入場できないことには違いありませんが。

前置きをあともうひとつだけ。
日本のメディアでも長く語られてきた、世界の服づくりにおいて“別格”と呼ばれる2大ブランドがあります。
それが、
クリスチャン・ディオールシャネルです。

共通点は、オートクチュール(高級注文服)のアトリエを持つ歴史の長いブランドであること。
フランスなのも共通ですね。
オートクチュール職人を抱えるブランド(こういう存在は『メゾン<家>』とも呼ばれます)はほかにもあれど、センスも含む仕立ての実力で上記の2ブランドが世界最高峰とされています。
既製品(=プレタポルテ)の「ディオール」はアトリエで仕立てられていませんが、オートクチュールの誇りはしっかり息づいており。
メンズのディオールも、やはり技術と品格において別格。
服を手掛ける会社そのもののに着目すると、なぜ素晴らしいのかに合点がいくんです。
要は、“本物”ということ。

---fadeinPager---

それでは、これだけ知っとけばOKなクリスチャン・ディオールの予備知識10項目が以下です。

1. 創設者はフランス人のクリスチャン・ディオールで、デビューは戦後すぐの1947年。
2. 創業時から続く代表アイテムは、ウエストを絞ってヒップの丸みを強調する女性的な「バージャケット」。
3. バージャケットを軸とした全身スタイルが「ニュールック」。
4. 華やかなニュールックは戦後復興の象徴でもあり、世相と深く結びいた存在。
5. 57年に亡くなったクリスチャンからブランドを引き継いだデザイナーは、21歳のイヴ・サン=ローラン(彼自身の現ブランド名は、サンローラン)。
6. クリスチャン・ディオールは歴代のデザイナーにより受け継がれ、そのたびにデザイナーの個性が投影されてきた。
7. ビッグメゾンを手掛けるデザイナーのことを現在は、クリエイティブ・ディレクター、アーティスティック・ディレクターなどと呼ぶ。服づくりは現場の担当デザイナーが行い、方向性の指示や広告戦略、店づくりといったブランディング全般を担うのが彼らの主な仕事。
8. 日本の皇室もクリスチャン・ディオールと関わりが深い。
9. ジャポニズムを取り入れたデザインも多数。
10. ブランドを代表する香水は、クリスチャン自身が手掛けた初の香水「ミス ディオール」。

---fadeinPager---

ニュールック(バージャケット)

_DSC3990.jpg
クリスチャン・ディオール自身が手掛けたバージャケット。
_DSC3987.jpg
クリスチャン・ディオールのシンボルであるバージャケット(ニュールック)を展示した部屋は、入場してすぐ。円柱ケース以外は歴代の担当デザイナーによるバージャケット再解釈の服。

上記の知識が頭にあれば、さらりと会場を回っても「そういうことね」と思っていただけるのではないかと。
あとはお好きなように巡り歩くのがいいと思います。
私的にご紹介したい見どころは、次回以降に公開するこのブログの<見どころ編>をご覧くださいませ。

なにせ圧倒的なボリュームで、「ホントにここが東京都現代美術館!?」と自分の居場所がわからなくなるほど凄まじい空間のつくり込み。
服に関心が深くない人でも、着る人を感じさせるマネキンと空間とが織りなす異世界に没入するでしょう。
大人の入場料¥2,000は安いです。
めちゃコスパのいい体験ができます。

---fadeinPager---

ジャポニズム

_DSC4024.jpg
広々とした1部屋がジャポニムズ系。この写真右3体は現ウィメンズのクリエイティブ・ディレクター、マリア・グラツィア・キウリによるもの。
_DSC4030.jpg
刺繍モチーフの桜は日本でも、素朴さを狙った布に日本は感じにくいですね。アジア的ではありますが。にしてもすべて手仕事と思うと、とんでもない労力です。
_DSC4015.jpg
“天才”イギリス人、ジョン・ガリアーノの2006年の作。ガイジンが見た日本感たっぷり。現代なら「文化の盗用」とも言われそうですが、そんなことには寛大なのがわたしたち日本人ですから。にしても欧米の人が思う日本の伝統スタイルにはよくベトナムが混じりますね。

---fadeinPager---

歴代デザイナー別展示

戦後から現在に至るブランドヒストリーを一望できる素晴らしい展示部屋があります。
デザイナーごとに仕切られてて、すごく見やすく違いが明白。
背景の白黒モデル写真のテイストが揃っているおかげで、より違いが感じられるのでしょう。
観客に親切な空間づくり。

_DSC4076.jpg
こんな誰もいない空間写真はもう撮れなさそう。ちなみに会場は一般撮影OKです。
_DSC4089.jpg
「賛否両論だった」と解説文にも書かれてるジョン・ガリアーノ。クリスチャン・ディオールの新時代を築いた代表的デザイナーであることは間違いないでしょう。酔った場でのユダヤ人差別発言で解任されてしまったときファッション界に衝撃が走りました。彼は現在メゾン マルジェラを手掛けてます。
_DSC4093.jpg
なんと見事なドレス……!服は布です。布を扱える者が世界を制します。
_DSC4094.jpg
レースの美しさったら。ダイヤをちりばめるような豪華さより、本物の贅を極めるのがフランスのオートクチュール。

---fadeinPager---

 

_DSC4056.jpg
現プラダのクリエイティブ・ディレクターであるラフ・シモンズも一時期就任してました。メンズデザイナーがウィメンズをやることで大きな話題に。彼の初就任の様子は2014年のドキュメンタリー映画「ディオールと私」にて。
_DSC4060.jpg
プロダクトデザイナーに近いセンスの人だけにロジカルなグラフィックが得意。プリントでなくテープの縫い付けなのがオートクチュールのこだわり。

---fadeinPager---

_DSC4131.jpg
創業者クリスチャン・ディオール自身のコレクション。
_DSC4127.jpg
1950年代の上流階級ファッション。理想的とされる体型の女性をさらに格上げする服が目指されていたことがわかります。「太っててもOK」といった現代の発想とは異なりますが、確実にチャーミング!
_DSC4138.jpg
背筋を伸ばして颯爽と歩いたとき、もっともエレガントに見えそうな千鳥格子のジャケットスタイル。最上級の服とは、前後左右から見ても、人が動く瞬間も美しいもの。
_DSC4162.jpg
会場内に時折掲げられている、クリスチャン・ディオールの言葉のひとつ。

アパレル関係者が見に行くと、必死にトレンドと格闘して、若者とインフルエンサーのSNS映えを狙う服づくりが嫌になってしまうかも?
レトロを超越した美しい服の数々、美しい人々の姿に満ちた展覧会。
「行かないと損」とまでは申しませんが、手間かけてチケット取る意義のある、めったに出会えない稀有なファッション展です。

All photos&text©KAZUSHI

KAZUSHI instagram
www.instagram.com/kazushikazu/?hl=ja

---fadeinPager---

【画像】モード初心者のための、クリスチャン・ディオール展簡単ガイド<基礎知識編>

_DSC3990.jpg
クリスチャン・ディオール自身が手掛けたバージャケット。
---fadeinPager---
_DSC3987.jpg
クリスチャン・ディオールのシンボルであるバージャケット(ニュールック)を展示した部屋は、入場してすぐ。円柱ケース以外は歴代の担当デザイナーによるバージャケット再解釈の服。

---fadeinPager---

_DSC4024.jpg
広々とした一部屋がジャポニムズ系。この写真右3体は現ウィメンズのクリエイティブ・ディレクター女性、マリア・グラツィア・キウリによるもの。
---fadeinPager---
_DSC4030.jpg
桜は日本でも、素朴さを狙った布に日本は感じにくいですね。アジア的ではあるものの。にしてもすべて手仕事と思うと、とんでもない労力です。
---fadeinPager---
_DSC4015.jpg
“天才”イギリス人、ジョン・ガリアーノの2006年の作。ガイジンが見た日本感たっぷり。現代なら「文化の盗用」とも言われそうですが、そんなことには寛大なのがわたしたち日本人ですから。にしてもヨーロッパの人が思う日本の伝統スタイルにはよくベトナムが混じりますね。

---fadeinPager---

_DSC4076.jpg
こんな誰もいない空間写真はもう撮れなさそう。ちなみに会場は一般撮影OKです。
---fadeinPager---
_DSC4089.jpg
「賛否両論だった」と解説文にも書かれてるジョン・ガリアーノ。新生クリスチャン・ディオールの創造のシンボルだったことは間違いないでしょう。酔った場でのユダヤ人差別発言で解任されてしまったときファッション界に衝撃が走りました。彼は現在メゾン マルジェラを手掛けてます。
---fadeinPager---
_DSC4093.jpg
なんと見事なドレス……!服は布です。布を扱える者が世界を制します。
---fadeinPager---
_DSC4094.jpg
レースの美しさったら。ダイヤをちりばめるような豪華さより、本物の贅沢を極めるのがフランスのオートクチュール。

---fadeinPager---

_DSC4056.jpg
現プラダのクリエイティブ・ディレクターであるラフ・シモンズも一時期就任してました。メンズデザイナーがウィメンズをやることで大きな話題に。彼の初就任の様子は2014年のドキュメンタリー映画「ディオールと私」にて。

---fadeinPager---

_DSC4060.jpg
プロダクトデザイナーに近いセンスの人だけにロジカルなグラフィックが得意。プリントでなくテープの縫い付けなのがオートクチュールのこだわり。

---fadeinPager---

_DSC4131.jpg
創業者クリスチャン・ディオール自身のコレクション。

---fadeinPager---

_DSC4127.jpg
1950年代の上流階級ファッション。理想的とされる体型の女性をさらに格上げする服が目指されていたことがわかります。「太っててもOK」といった現代の発想とは異なりますが、確実にチャーミング!
---fadeinPager---
_DSC4138.jpg
背筋を伸ばして颯爽と歩いたとき、もっともエレガントに見えそうな千鳥格子のジャケットスタイル。最上級の服とは、前後左右から見ても、人が動く瞬間も美しいもの。

---fadeinPager---

_DSC4162.jpg
会場内で時折掲げられた、クリスチャン・ディオールの言葉のひとつ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。