「もう1本指があれば…」3Dプリンターで作る、“着脱可能な第三の親指”が発明される

  • 文:designboom

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もう一本指があれば、いろいろな形で役に立ってくれる。失われた指の代わりとしてだけではなく、物をつかむときのもう一本の指としても使うことができ、人間の身体を「拡張」する未来を探求する道を切り開く可能性がある。

こうした「拡張」こそが、ケンブリッジ大学の神経科学者タマル・マキンと、設計者のダニ・クロードを駆り立ててきたものだ。2人は、先端テクノロジーを取り入れて人体の動きを拡張する、実用間近の技術を研究している。例えば、3Dプリンターで装具やロボット義肢を作る技術などだ。

マキンは2023年3月3日、米国科学振興協会(AAAS)で、人間の動きを拡張する未来に関するディスカッションのモデレーターを務めた。

ディスカッションの説明には、こう書かれている。「いまや、脳とマシンを直接的につなぐブレイン・マシン・インタフェースを使うことで、脊髄を損傷したり四肢を失ったりした患者でも、自分の思考力によって筋電義手(バイオニック・アーム)を制御することができる。今後は、同様の技術を、失った機能の回復にとどまらず、人間の動きの拡張に活用することへの関心が高まっている」

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画像提供:ダニ・クロード

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圧力を利用したロボット義肢

ダニ・クロードは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンやケンブリッジ大学に拠点を置く「The Plasticity Lab(可塑性研究所)」に所属するタマル・マキンらの研究チームとのコラボレーションに先立ち、発表前にすでに「Third Thumb(第三の親指)」をデザインしていた。この3Dプリントされたロボットの親指は、クロードがロイヤル・カレッジ・オブ・アートの修士課程で制作したもので、複数の賞を受賞した作品の一部だ。

3Dプリントされたロボット義指は、ユーザーの利便性を向上させ、ユーザーの体と、人体を拡張する義肢技術との関係を模索するものだ。ロボット義指は、ユーザーがつま先で床を押す力を調節することによって動く。

ユーザーはまず、モーターにつながった義指を手首に装着する。腕に着けたマイクロ・コントローラーを通じて、ロボット義指と、足の親指の下にある圧力センサーが無線でつながっている。相互接続されたこのシステムでは、つま先で制御することによって、ロボット義指を独立して動かすことができる。3Dプリントの指が、圧力を介して、ユーザーが望む動作を読み取ると言ってもいい。

クロードは、「Third Thumb」のおかげで、「ability(能力)」とは何かというとても大切な議論を始めることができると述べている。「『prosthesis(義肢)』とは、もともと『加えること、つけること』という意味だ。つまり、修理したり取り替えたりするのではなく、拡張することなのだ。プロジェクトは、この言葉の語源にヒントを得て、人間拡張を探求し、義肢を体の延長としてとらえ直すことを目的としている」

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ロボット義指は物もつかめる

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「人間身体の拡張」研究を促進する

クロードとマキンは、脳が、神経可塑性の特性を取り入れることによって、どのように人間拡張に適応するのかを研究している。それまでには存在しなかった体の部位を制御するとき、脳はどのリソースを使うのだろうか。また、未来の義肢や拡張デバイスを制御しやすく使い勝手の良いものにするために、こうした知見をどのように利用できるか、という研究だ。

人間拡張を取り上げた『ガーディアン』の記事で、クロードは、仲間と共に最近実施した調査のことを語っている。王立協会が開催した「夏期科学展示会2022(Summer Science Exhibition 2022)」で、参加者に「Third Thumb」を試してもらったのだ。600人の参加者のおよそ98%は、3Dプリントしたロボット義指をすぐに使うことができたという。つまり、便利な指の機能を使いこなすことができたわけだ。

 

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3Dプリントのロボット義指を、センサーを使って動かす

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研究チームが人間拡張の研究をさらに進めるにつれて、神経科学的な疑問が生まれてきている。それは、画期的な3Dプリントのロボット義肢がどんなことを提供できるのかを研究者や、研究を見守る者たちに考えさせるものだ。「人間がこれまでの進化のなかでは制御力を得ていない体のパーツを使うには、どのような生理的能力や認知的能力が利用できるのだろうか」

こうした疑問は、先日行われたAAASのディスカッションでマキンが取り上げたものの一部だ。ディスカッションの説明には、こう記されている。「こうした新しい体のパーツを、今ある生物学的な手足と連携させて使いこなすには、設計者はおそらく、従来の支援技術の型にとらわれない、まったく新しい方法を考え出す必要があるだろう」

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「Third Thumb」

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3Dプリントのロボット義指「Third Thumb」は、人間の動きの拡張に関する研究の道を切り開く

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クロードは、「Third Thumb」のおかげで、「能力」とは何かという、とても大切な議論ができると語る

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3Dプリントされたロボット義指は、ユーザーの体と、人体を拡張する義肢の技術との関係を模索するものだ

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「Third Thumb」

プロジェクト情報:
名称:
Third Thumb
研究者:ダニ・クロードタマル・マキン

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@ezitech

The third thumb

♬ original sound - Ezi tech

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@tucerebrodigital third thumb #robotica #cyborg ♬ Sneaky Snitch - Kevin MacLeod

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画像提供:ダニ・クロード

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ロボット義指は物もつかめる

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「人間身体の拡張」研究を促進する 

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3Dプリントのロボット義指を、センサーを使って動かす

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「Third Thumb」

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3Dプリントのロボット義指「Third Thumb」は、人間の動きの拡張に関する研究の道を切り開く

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クロードは、「Third Thumb」のおかげで、「能力」とは何かという、とても大切な議論ができると語る

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3Dプリントされたロボット義指は、ユーザーの体と、人体を拡張する義肢の技術との関係を模索するものだ

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「Third Thumb」