3月18日に全国公開を控える映画『シン・仮面ライダー』。仮面ライダーとなる本郷猛を演じた池松壮亮が語る、本作の魅力とは？ 現在発売中のPen最新号『シン・仮面ライダー徹底研究』より抜粋して紹介する。

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庵野秀明が『仮面ライダー』を撮る――。役者人生の大一番になりうるオーディションの存在を知った時、池松壮亮は上海にいた。

「マネージャーから興味があるか聞かれ、すぐに『やりたい』と答えました。これまでヒーロー映画に出演することにさほど興味はありませんでしたが、今回は明らかに違いました。仮面ライダーというこの国が誇るキャラクターと庵野秀明監督のコラボレーションにワクワクしました。ただ、帰国後に隔離期間があり対面でのオーディションに間に合わなかったんです。でも後日、オンライン形式でやることになって。始まる前は『あなたが思う〝変身〟を見せてください』とか言われたらどうしよう、パソコンの前でやらなきゃいけないのかな、なんて考えていましたが、実際はひとつ台詞を読んだくらいで『この企画についてどう思いますか?』といった話が主でした」

間もなくして本郷猛役に決まったと聞いた池松さん。いち映画人として、現代を生きるいち個人として、いま『仮面ライダー』をやることが腑に落ちたと語る。

「石ノ森章太郎先生は、50年前に風力で変身できる、いわばサステイナブルなヒーローをつくり上げていました。漫画では『心の傷や痛みを仮面で隠せる』という描写があります。SDGs、風の時代、コロナ禍でみながマスクを着けている状況……。現代的でありながら普遍性も感じました。さらに先生は『時代が望む時、仮面ライダーは必ず甦る』という言葉を遺しています。それはいまだと、僕自身も確信できました」

そして話は自身が演じた本郷に及んでいく。人ならざる力を手にしてしまった絶望と懊悩を抱え続ける悲劇のヒーローに、池松さんはなにを見たのか。

「いま、同じ空の下で戦争が起こり、同じ心をもった人間の兵士たちが日夜戦っています。誰もが人を傷つけたい・殺めたいと思ってやっているわけではない、にもかかわらずです。〝戦うことへの葛藤〟は『エヴァンゲリオン』含め庵野さんが描き続けてきたテーマでもあると僕は思うんです。僕自身も、いまだからこそ『仮面ライダーを人に戻す』ことが必要だと感じました。ヒーローだから戦わなければならない、みなを代表して暴力を行使しなければならないといった〝当たり前〟にストップをかけられる時だったのではないかなと思います」

本作では、変身後の大半のシーンをスーツアクターではなく、演者本人が演じている。そのこともまた、池松さんの言う“人間味”を補強している。マスク越しでも伝わってくる本郷の悲哀は、本作を象徴するシーンのひとつだ。

「仮面ライダーに多くの子どもが勇気をもらってきたと思います。僕は当時を知りませんが、超一級のファンでもあるスタッフのお陰でその想いを継承でき、みんなに仮面ライダーにしてもらいました。マフラーのなびき方、仮面やベルトのズレをミリ単位で調整するんです。そのこだわりを体験できて感動しました」