このクルマが買えたら死んでもいいなんて富裕層もいるとか(ちょっとおおげさ)。それほど人気を呼んでいるのが、フェラーリの4ドア「プロサングエ」。ついに、乗ることができた。
発表は2022年9月。そしてようやく、23年2月おわりに、フェラーリは世界中からジャーナリストを呼んでドライブのチャンスをくれた。
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場所は、イタリア北東部のドロミーティ。オーストリアとの国境ちかくのここは、巨大な岩山がかしこに屹立している景観で知られる。世界遺産登録されている地だ。
東京は春の気配濃厚な時期、ドロミーティは、昼ですら零下。ここにわざわざプロサングエを用意したのは、万能ぶりを体験してもらいたいから、とフェラーリ本社の広報は教えてくれた。
なにしろ、プロサングエは、V12気筒で、静止から時速100キロまでをわずか3.3秒で加速する駿足ぶりを誇りながら、4WDシステムに後輪操舵で、低ミュー路も強いという。
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ドロミーティのホテルで出合った実物。外観は迫力満点。23インチ径のホイールと組み合わされた巨大なタイヤが、とてつもないと表現したくなる迫力を生んでいる。
車体のデザインは、フェラーリ初の4ドアなので、これまでにない個性がある。
ウィンドウグラフィクス(サイドウィンドウの輪郭)は、一筆書きしたようななめらかさで、フェラーリのクーペとの関連性を感じさせる。
プロポーションは、かつての4人乗りフェラーリ(ただし2ドア)、GTC4ルッソのようなやたらロングノーズでなく、ノーズとキャビンのバランスもよい。
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車輪を含めた車台部分に、車体を載せたのがデザインのテーマだと、フェラーリのデザインを統括するフラビオ・マンツォーニ氏が教えてくれたことがある。
「フローティングボディ」とうのがマンツォーニ氏の表現で、たとえばホイールアーチ部分はカーボンファイバー。それとフェンダーとのあいだに、あえてギャップのようなくぼみを作っている。
もちろん、空力が悪くなるような、本当のすきまではない。
そう見えるようなデザインでもって、美しいアパーボディと、機能的なロワーボディ、2つが合体しているような印象をかもしだしている。
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716Nmという強大なトルクを持つこのクルマでのドライブは、かなり緊張しそうだなとやや手に汗を握りながら、ホテルを出発した。天候は最初は曇りだったが、山のほうへ向かうとすぐみぞれになった。
幸か不幸か、しかし、積雪はほとんどなし。「ふだんは40センチぐらい積もるんですが、ぜったい地球温暖化ですよ」。地元のひとが途中の駐車場でそう語りかけてきた。環境にとっては不幸だ。
プロサングエの雪上での走りは、そんなわけで、自分の運転では体験できなかった。
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フェラーリでは、スキー場の一部を占有して、プロのドライバーの隣で雪上ドライブを(疑似)体験させてくれた。ちょっと緊張する狭いコースで、路面はツルツル。
そのとき、ドライブモードで「スポーツ」を選んでいると、強くアクセルペダルを踏み込んだとき、一瞬後輪がグリップを失うが、すぐに4WDシステムが駆動力を回復させるのがわかった。
あとは、降雪はあっても路面の摩擦係数は高く保たれた道。自動車専用道では軽くアクセルペダルを踏み込むと、あっというまに、高い速度に達する。
同乗者はしかし実際の速度の半分ぐらいだと思ったようだ。それほど、静かで安定して、かつ乗り心地がよい。
操縦感覚についても、はたして、安定していて、かつ、意外なほど軽快。
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65度のバンク角をもつV型12気筒エンジンを前車軸とキャビンのあいだにフロントミドシップしているとは思えない。山道のきついカーブでもすいすいと向きを変えて走っていける。
8段ギアボックスは、基本的に早め早めにシフトアップして燃費をかせぐ設定だが、先述のとおりトルクがたっぷりあるし、変速のタイミングがうまく、加速にかったるさを感じる場面は皆無。
運転席は、当然のことながら、クーペモデルより空間的に広々感が演出されていると感じた。
眼の前には液晶パネルで、ここに速度や回転はもちろん、ナビゲーションシステムの地図を表示できる。
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ステアリングホイールは径がややちいさめ。方向指示器もワイパーもドライブモードセレクターも、ナビゲーションシステムのオーディオも、その中にスイッチが集められている。
助手席の前にも10.2インチの液晶パネルがあり、そこでも速度や回転数をはじめ、オーディオやシートのマッサージ機能や空調など、さまざまな操作ができる。
立体的な形状のシートは、これはこれでひとつの”作品”と思えるぐらい、造型美を感じさせる。
全体のフォルム、クッションのかたち、使う素材の組合せ、そして色。レースカーで使われる人工スエード「アルカンタラ」をはじめ、さまざまなオプションが用意されている。
運転席シートは、からだのおさまりがいい。70キロをすこし超えるぐらいの私だとクッションにからだが沈まず、やや硬いと感じたので、革張りでないほうがいいかもしれない。
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後席シートも、前席のようなフルバケットと呼べるタイプのスポーティな形状。
「どの席にいてもドライバーズシートと同じ感覚でいられることが重要」。と、フェラーリのデザイナーが以前、私に教えてくれた。
ホイールベースが3018ミリあるので、後席の空間的余裕は、175センチぐらいのひとなら、快適に座っていられる。
後席シートは電動でバックレストの角度が変えられる。左右の席のあいだには大きなコンソールがあり、スポーティセダンともいうべき、あたらしい感覚が味わえる。
高級自動車オーディオのブルメスターの21スピーカーシステムがそなわり、1420ワットの3Dサラウンドサウンドが提供されるのも、4ドアのフェラーリならではの楽しみだろう。
ブルメスターの音場づくりは、私の経験からいうと、音が前からどんっと出てくる臨場感を大切にしているようだ。考えかたとしては、たとえばJBLと似ているかもしれない。
きれいな低音がフロントにマウントされたスピーカーシステムから飛び出してきて、ステアリングホイールを振動させる。フェラーリで初めての体験で、けっこう感心してしまった。
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室内に入ってくる音は、かなり小さい。静か。
あえて変速機をマニュアル操作してエンジン回転を3000rpmから上でキープするような運転をすれば、それはそれで快音が聞こえるので、2つの楽しみがあるともいえる。
価格は4760万円。払えるひとには、いい買い物になりそうだ。ただし、いまとなっては、ウェイティングリストに名前を載せてもらえたら幸運。それほどプロサングエを欲しがっているひとは多い。
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Specifications
Ferrari Purosangue
全長×全幅×全高 4973x2028x1589mm
ホイールベース 3018mm
車重 2033kg
6496cc 65度V型12気筒ガソリン 4WD
出力 533kW@7750rpm
トルク 716Nm@6250rpm
変速機 8段ツインクラッチオートマチック
価格 4760万円
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