BMWの「iX5」があたらしい。ドイツのBMW本社が、2023年2月にベルギー・アントワープに、世界中からジャーナリストを招待。お披露目が行われたクルマだ。

わざわざアントワープでの試乗会と、力が入っている理由は、このクルマ、水素で走る。そのあたらしさをアピールするのが目的だからだ。
これまで、環境適合車というと、充電式のバッテリーEV(BEVと呼ばれる)が一般的だった。読者のかたもよくご存知ですよね?
BMWも、2013年から「i(アイ)」シリーズなるBEVのラインナップを拡充してきた。
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そこにあって、今回、あえて水素の燃料電池車(FCV)を送り出してきた。そして、乗ってみると、iX5はたいへんよく出来ている。BMWならではのファントゥドライブがあるのだ。
水素燃料で走る燃料電池車ときいて、トヨタMIRAIやヒョンデNEXOが思い浮かんだひとは、自動車検定の上位合格者だ。FCVはBMWが先駆者というわけではない。
BMWでは、しかし、やるからにはBMWらしいモデルを作りたかった、とする。
「開発にあたって念頭に置いたのは、水素で走ろうと、燃料に関係なく(iX5は)BMWではなくてはならない、ということでした」
水素燃料で走るクルマのプロジェクトを統括しているBMWのユルゲン・グルドナー氏は、アントワープでの試乗会において、このように開発の裏話をすこし教えてくれた。
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試乗がスタートした場所は、アントワープ港(広大)の一角に立つ「ザ・ポートハウス」。
故ザハ・ハディドが手がけた建物で、四角い函のうえに、鏡のモザイクを張りつけた鰹節のような構造物が載っている。見る角度でまったくちがった形状に見えるのも個性的だ。
なんでも、船あるいは、アントワープはダイヤモンド研磨でよく知られているため、そのイメージも二重映しにしたとか。その建物のなかで、プレゼンテーションが行われた。
「なぜ、あえて燃料電池車の開発に踏み切ったかというと−−」。前出のグルドナー氏は、そこで背景を説明。
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「燃料に使う水素はフレキシブルだからです。液化すれば運搬が可能だし、充電式のBEVが増え続けるとインフラのコストが急上昇する懸念がありますが、それを分散できます」
FCVは、水素を分解してそこから電子を取り出し、それを使って発電し、バッテリーに充電。モーターを回して走るのは、BEVと同様だ。
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iX5は、BMWのX5のプラグインハイブリッドをベースに作られている(量産化されるときはまったくちがうプラットフォームを使う予定とか)。
そのぶん、乗り心地はいいし、静粛性も高い。なにより感心したのは、先述のBMWの開発者の言葉どおり、加速性にすぐれ、ブレーキがよく効き、操縦安定性が高いと、全方位的に完成度が高い。
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加速のマナーは、BEVと同様だ。BMWによると、その気になれば、静止から時速100キロまでを6秒で加速しちゃうとのこと。
同時に(体験できなかったが)時速180キロでずっと巡航できる性能を持つ。燃料電池の技術を提供しているのはトヨタ自動車だが、トヨタMIRAIはそれに較べると性能は控えめだ。
バッテリー性能をあえて上げているのだろう。BMWに期待されるものはスポーティな走行性能ということを、メーカーがよく理解しているのだ。
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操縦席はやはりX5そのもの。ところどころ、iシリーズ独特の青色があしらわれているぐらいだ。なので、操作性にすぐれている。
ドライブモードセレクターがそなわっているので、「エコプロ」「ノーマル」「スポーツ」など切り替えることが可能。おもしろいのは、スポーツだと勇ましい(合成)音が響く。
私はいますぐにでも発売できると感心したけれど、開発担当者のグルドナー氏によると、量産化まであと6、7年かかるとか。
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水素供給のインフラが整っていくのと、歩を合わせようとしているのかもしれない。
欧米では船舶とかトラックの業界も、水素燃料に大きく注目している。水素への投資も増えていく傾向にあるそうだ。
この先の未来を楽しみにしようではないか。少なくとも水素で走るクルマは、期待を裏切らない。それを教えてくれたBMW iX5である。