ブラッド・ピットが『オーシャンズ12』で着たトレンチコートを彷彿とさせる、マッキントッシュの名品

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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「BLANEFIELD」というモデルで、オーバーサイズ気味に仕立てられたモダンなトレンチコート。素材は環境に配慮し、リサイクル原料を使用した高密度撥水ポリエステル。コットンライクな手触りと、張りのある風合いが特徴の素材で、軽量でコンフォートな着心地が楽しめる。¥149,000/マッキントッシュ

「大人の名品図鑑」ブラッド・ピット編 #4

80年代末にデビューし、以来第一線で活躍し続ける映画俳優ブラッド・ピット。美しい顔立ち、大人の色気を感じさせるその演技は“最後のハリウッドスター”と称され、プライベートで身に着けるアイテムは日本のメディアでも話題になるほど、ファッションにも敏感だ。今回は、そんな彼が数々の作品の中で披露した名品にフォーカスを当てる。ポッドキャスト版を聴く(Spotify/Apple

ブラッド・ピットが出演した作品で忘れてないらないのが「オーシャンズ」シリーズだろう。

初監督作品『セックスと嘘とビデオテープ』(1989年)がカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝き、『エリン・ブロコビッチ』『トラフィック』(2000年)でアカデミー賞監督賞にダブルノミネートされた、スティーブン・ソダーバーグ監督による大ヒットシリーズだ。『オーシャンズ11』が01年、『オーシャンズ12』が04年、『オーシャンズ13』が07年に公開されている。スピンオフ版として、サンドラ・ブロック、ケイト・ブランシェット、アン・ハサウェイなど豪華メンバーが揃った『オーシャンズ8』も18年に公開されているが、これは監督がゲイリー・ロスで、主人公がダニーの妹という設定以外はつながりもないので、別物と考えてもいいだろう。

実は『オーシャンズ11』は1960年に制作された作品『オーシャンと十一人の仲間』のリメイク版だ。この作品に出演したのは、フランク・シナトラ、ディーン・マーチン、サミー・デイヴィスJr.など当時としてはスター級の面々。第二次世界大戦で一緒に戦った戦友11人がクリスマスで賑わうラスベガスでカジノの売上金を盗むという話で、リメイクされた『オーシャンズ11』ではそのままこのストーリーが使われている。

同シリーズで、ブラッド・ピットとはプライベートでも仲が良いジョージ・クルーニーが演じるのが主人公のダニー・オーシャン。泥棒で詐欺師、裏社会では名を馳せる人物だ。ブラッド・ピットはダニーの相棒で、チームのNo.2ラスティ・ライアン役。2人以外にも爆発物専門家のバシャー・ターをドン・チードル、ラスベガスのホテル経営者でオーシャンが駆け出しだった頃の恩人ルーベン・ティシュコフをエリオット・グールドが演じた。ほかにもマット・デイモンやケーシー・アフレックなど主役級の俳優が並ぶ。

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「オーシャンズ」シリーズの登場人物たちのスタイル

登場人物が作品でどんなスタイルを披露しているか、3作品を再度通して観てみた。『オーシャンズ11』の舞台はラスベガスのカジノ。そんな場所に合わせて、ブラッド・ピットもジョージ・クルーニーもエレガントなスーツスタイルを決めている。ブラッド・ピット演じるラスティは、スーツのなかにシルキーな素材を使ったダブルカフスのシャツをいつも着用している。

しかもカフスを留めずに袖口からダラリと伸ばしたまま、というのが独特だ。このシャツはロサンゼルスの高級住宅地ビバリーヒルズにある、ビスポークシャツ店のANTOで誂えたものらしい。ANTOは1955年創業の老舗で、有名ハリウッドスターも御用達の店。映画用にもたくさんシャツを仕立てている。ブラッド・ピットが着たシャツ、あるいはスーツを取り上げようとも思ったが、シリーズを通しでチェックすると、『オーシャンズ12』でのブラッド・ピットの着こなしがとても印象に残った。

そもそも『オーシャンズ12』はほかの2作と違って、アムステルダム、パリ、ブリュッセル、イタリアのコモ湖などヨーロッパが舞台。11人がこれらの場所を回り、ほかの推理小説にもよく登場する「ファベルジェの卵」を奪取するという物語だ。この作品でブラッド・ピットが着ていたのが、トレンチコート。オリーブグリーンやオフホワイトのトレンチ、黒のオールレザーのトレンチまで登場し、場面に合わせてまるで着替えるように数々のトレンチコートを着用する。おまけにブラッド・ピット演じるラスティの元恋人で、女性捜査官イザベラ・ラヒリ(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)までエンディングに近いシーンで白いトレンチコートを着ている。

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ブラピが見せた完璧なトレンチスタイル

衣装デザイナーを調べてみると、この連載では何度も登場しているミレーナ・カノネロが衣裳を担当している。彼女は『時計じかけのオレンジ』(71年)、『炎のランナー』(81年)、『ゴッドファーザーPARTⅢ』(90年)など数々の名作に関わった人物。ついでながら1作目はジェフリー・カーランド、3作目はルイーズ・フログリーが衣裳を担当している。

1作目はカジノが舞台ということもあって登場人物の多くにスーツを着せたのに対して、勝手な推測だが2作目では舞台がヨーロッパに変わるので、ミレーナ・カノネロはトレンチコートをキーアイテムにしようとしたのではないだろうか。ブラッド・ピットのトレンチコート姿はヨーロッパの街並みに似合う。フィッティングも完璧で、男の色気さえ感じさせる。ミレーナ・カノネロの手腕が光る作品とも言えるだろう。

今回紹介するトレンチコートは、1823年にイギリスで創業されたマッキントッシュの新作。2枚の布の間に溶かした天然ゴムを塗り、圧着して熱を加えた「ゴム引き」の防水布を発明し、瞬く間に有名になった老舗だ。イギリスだけでなく日本でも高い知名度を誇る人気ブランドで、「マッキントッシュ(MACKINTOSH)」という言葉はマッキントッシュの生地や、同社の生地を使ったコートを指す言葉としても使われることがあるほど。

現在では代名詞のゴム引き素材を使ったコート以外にも豊富なアイテムが展開されているが、今回ピックアップしたのは23年春夏の新作コートである「BLANEFIELD」というモデル。一枚袖のオーバーサイズなトレンチコートで、ヴィンテージ品を彷彿とさせる美しいドレープが特徴だ。緩やかなアールを描く肩のラインがモダンな印象を与えるが、エポレット、ガンパッチ、袖口のベルトなど本格的なディテールが装備されている。本作のブラッド・ピットのような、ちょっとワルい伊達男を気取るのには絶好の一枚だ。

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裏地にはイギリス生まれのブランドらしく、チェックの生地が使われている。ブランド名が入った白地の織りネームがチェックに映える。

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高密度ポリエステル素材を採用する最新のトレンチコート。張りのある素材とオーバーサイズのシルエットが、コートスタイルをモダンに見せてくれる。

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肩のエポレットや右肩のガンパッチなど、トレンチの出自を物語るディテールが満載の本格派トレンチコート。
 

問い合わせ先/マッキントッシュ ギンザシックス店 TEL:03-6264-5994

https://www.mackintosh.com/jp/man

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