25のギャラリーによる科学技術館での合同アート展で、「見てよかった!」ひとりの画家

  • 写真・文:一史
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立体造形と平面が交差する、加茂 昴さんの美術作品。左右ともに「EASTEAST_TOKYO 2023」でのスナップ写真。

みなさんは美術展に行ったとき、どのように鑑賞しますか?
わたしは会場に入ると、パネルの展覧会解説や作家説明を読むことなく、ズカズカと奥に歩いていきます。
頭を左右に振りつつ飾られた作品を次々にチラ見していき、出口までフルスピードで突き進みます。
全部を一気に見て会場に何があるかを把握し、再び入り口に戻り「これ好き」と目星をつけたモノをじっくり眺めていく手法(手法?)です。
原則として、自分が見たいモノさえ見られればいいので。

ひとりの作家の展覧会でとくに有効です。
人が大勢いる展覧会だとなおさら。
お勉強のため美術展に来ている真面目な方が多いですから、常に入り口付近がごった返します。
でもひとりの回顧展ならたいてい、冒頭に見ごたえのある作品を置かないものです。
「そこは一旦スルーして、あとで見たくなったら見返せばよくない?」というのがわたしの考え。
どんな作家なのかを知ることより、作品に接したファーストインプレッションを味わうのが楽しいのです。
(記事にする取材レポートのときはまた別の手法あり)

2023年2月17日(金)〜19日(日)まで開催された、東京を中心とする25のギャラリーがキュレーションした合同アート展「EASTEAST_TOKYO 2023」(@九段下・科学技術館)でも、同じように会場をぐるぐる歩く見方をしてきました。
そのとき、思わず足を止めて見入ってしまった絵画が今回ご紹介する作品です。
作家は1982年生まれの画家、加茂 昴(かも・あきら)さん。
出展ギャラリーは日本橋・馬喰町の「PARCEL」

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写真ではわかりにくいでしょうが、ジオラマのように盛り上がった立体と、奥に引っ込んだ平面とが混じり合った油彩によるハイブリッドな絵画です。

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カンペキな構図と色彩の美しい日本の風景画。
牧歌的でもあり絵本のようでもあり。
マグリット的な異世界も感じさせます。

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日本の若手らしいイケてるハードな作品が会場に多かったなかで、すっと心が洗われました。
「あ〜キレイだなあ。ものすごく丁寧な仕上がりだし、風景写真ではできない表現がしっかりあって」

そのような幸福感で眺めていました。
描かれた題材が、「3.11東日本大震災の原発付近の光景」と気づくまでは。

抽象的なムードの絵にしては、作品の中心部に描かれた看板に日本語が細密に描かれていることが引っかかり、よく見ると「富岡町」「この先帰還困難区域」らの文字が。
「そういうことか!」と、ふわっと浮いていた絵が急にずしりと重くなりました。

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加茂さんのバイオグラフィーには「3.11後に『絵画』と『生き延びること』を同義に捉えるようになった」との旨が書かれています。
作家の思いはそこにあるのでしょう。

その一方で、絵が美しいとのわたしの気持ちは変わりません。
(重みは増したとはいえ)
日本語を読めない人なら「人間の存在を感じる風景画」として成立するのではないでしょうか。
作家の意図ではないかもしれませんが。

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説教じみておらず、寂しさも悲しさも強調されず、ただあるがままを捉えたような。
きれいだからこそ奥を知りたくなるし、つくった作家の思いに共感も生まれます。
とてもいい出会い(加茂さんにはお会いしてませんが)をさせていただいた体験でした。

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「EASTEAST_TOKYO 2023」を訪れたのは、会期前日の16日(木)に開かれた内覧会。
夜のパーティ直前だったこともあり、各ブースが仲間内で盛り上がってました。
会場は1960年代の高度経済成長期に建てられた、科学技術館の展示・イベントホール。
昔の大学のように寂れた内装で、作品を照らす照明は古い蛍光灯。
ぶっちゃけ、「学園祭?」と思っちゃいました。
美術品の展示って難しいものなんですね……難しい。
いい音楽はラジオで流れてもいい音楽ですが、“見る”モノは空間も含んでしまいますから。

その会場内を巡ってニヤリとさせられた、学生っぽいいたずら心で楽しかったのが、以下の山下拓也(やました・たくや)さんの貼り紙たち。

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会場内に、ちょこちょこと顔を出してます。

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たぶんゲリラなのでしょう。
会場設営はPR担当者の話だと「各ギャラリーにパネルを提供して、それぞれ好きなようにつくってもらった」とのことですから、会場全体にまたがる作品は公式には存在しなかったはず。

レトロアニメのような絵は実は、

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木版画なのでした。
この壁にはめ込んだ状態で刷っていったようです。
以下、山下さんのインスタグラムに刷る様子の動画あり。
www.instagram.com/p/CoxUVCbStDs/?hl=ja

インスタのなかにはモチーフについて言葉で解説を添えないと誤解されそうな作品もありますね。
(クリックすると説明を読めて納得できます)
美術作品は初めて見る人が一瞬の印象で判断しますから怖いです。

今回の記事でご紹介した加茂さんのように、大人の日本人になら誰にでも意味が伝わる作品のほうが珍しいのかもしれません。
その作品にしても、数十年後には理解できる人がわずかになっていきますし。

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科学技術館は北の丸公園内にある(日本武道館の近く)江戸城跡。
夜に会場を出て門まで歩いていたら、頭が「アートを見る目線」に支配されていたのでしょう。
敷地内にある普通のモノまで、意図された美術品に見えてきまして。

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写真のぐるぐるは単にスマホを回しちゃっただけです。
狙ってません。

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曲げられた駐車禁止マーク。
なぜ?誰が??
暗い場所にポツンと立ってて、妙に違和感がありました。

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仰々しく「進入禁止」された折れ枝。
業者が刈り取った枝なのでしょうが、祀られてるみたい。
「作品です」と言われたら、意味を真剣に考えてしまいそう。

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会場入りする前の九段下駅は、日本武道館の「Official髭男dism」ライブに行く客で階段もびっちり埋まり「なにごと!?」状態でした。
(あとで調べてバンドが判明)
右側通路が押し寄せる大混雑で左側がガラ空きという、マナーに従う良識ある人たち。
彼らを横目に辿り着いたこの合同美術展、小旅行気分にも浸れた実り多き時間でした。

All photos&text©KAZUSHI

KAZUSHI instagram
www.instagram.com/kazushikazu/?hl=ja

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【画像】25のギャラリーによる科学技術館での合同アート展で、「見てよかった!」ひとりの画家

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高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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