28歳の短い生涯を駆け抜ける。世紀末のウィーンが生んだ異才、エゴン・シーレの画業

  • 文・写真:はろるど

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エゴン・シーレ『ドナウ河畔の街シュタイン II』 1913年 レオポルド美術館蔵 中世の街並みが残るドナウ河畔の街シュタインをモチーフとした作品。シーレはこの地を知り尽くしていたが、シュタインの特徴的な建物を選び、自ら好きなように再編成して描いている。コラージュのような風景画だ。

1890年、オーストリアのトゥルンで生まれたエゴン・シーレ(1890〜1918年)。16歳にて学年最年少の特別扱いでウィーン美術アカデミーに入学し、クリムトに認められると、保守的な教育に満足しない仲間ともに「新芸術家集団」を結成し、卒業を待たずにアカデミーを去る。そして人間の生と死や性といったテーマを鮮烈な色彩とニュアンスに富んだ線描で描くも、あまりにも先鋭的だった表現やタブーを厭わない主題などで評価が分かれ、わいせつ画の頒布やモデルの少女誘拐の疑いで一時逮捕されるなど、波乱に満ちた生涯を送っていった。

東京都美術館にて開催中の『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』は、エゴン・シーレ作品の世界有数のコレクションで知られるウィーンのレオポルド美術館の所蔵作品を中心に、シーレの油彩画やドローイング50点を通して、画家の生涯と作品をたどっている。またクリムトやココシュカ、ゲルストルをはじめとする同時代作家たちの作品もあわせた約120点にてウィーン世紀末美術を俯瞰することもできる。国内では実に30年ぶりとなるシーレの大規模な展覧会だ。

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エゴン・シーレ『ほおずきの実のある自画像』 1912年 レオポルド美術館蔵 最もよく知られるシーレ作品のひとつ。シーレはウィーン・モダニズムのどの画家よりも熱心に、自らの顔や身体、また個性の描写を探究していた。
 
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コロマン・モーザー『洞窟のヴィーナス』 1914年頃 レオポルド美術館蔵 ウィーン分離派とウィーン工房の創設メンバーだったモーザー。家具やテキスタイル、ガラス製品、それに陶磁器などの幅広いデザインを手がけている。一方で絵画では、風景や象徴主義的な主題を好んで描いていた。

「すべての芸術家は詩人でなければならない」とするシーレ。その画業の頂点にあった22歳の時に描かれたのが『ほおずきの実のある自画像』である。頭を傾け、斜めに構えた人物のポーズと、蔓状に伸びるほおずきの茎と実が緊張感のある構図を生み出している。そして攻撃的とも怯えているようにも見える眼差しは、画家の中にある自信や不安定さといった多感な繊細な感性を伺わせるようで興味深い。また今回注目したいのは、あまり知られてない風景画の数々だ。単に写生して描くというよりも、自らの心象を投影するように風景を再構成したり、平面性や装飾性を強調するなど、独自のスタイルを確立している。

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エゴン・シーレ『赤い靴下留めをして横たわる女』 1913年 レオポルド美術館蔵 切れ目のない曲線を巧みに操り、モデルを画面に収めたシーレ。赤いガーターが膝の位置でストッキングを留め、黄土色の毛布が身体の一部を露わにしながらも覆っていて、エロティックな味わいが感じられる。
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エゴン・シーレ『横たわる女』 1917年 レオポルド美術館蔵 画家の妻、エーディト・シーレをモデルにしたと推測される作品。ただし頭部は彼女とは別のものに置き換えられている。なおエーディトもスペイン風邪によってシーレの死去する3日前に亡くなっている。その時、妊娠6カ月だった。

鉛筆、チョーク、グワッシュなどさまざまな技法を駆使して描かれた女性の裸体像のドローイングも魅力的だ。シーレは22歳にて初の個展も開催。第一次世界大戦に招集されるも、戦時下でも作品発表の場を得て、徐々に名声が高まっていく。そして1918年にライバル関係にもあったクリムトが死去するとウィーン美術界の寵児となり、その年開催された第49回ウィーン分離派展ではメインルームが与えられ、多くの作品が購入されるといった成功も収める。さらに新たなアトリエを手に入れ、より飛躍しようとする時、大流行したスペイン風邪にかかってしまうと、28歳の若さにてこの世を去ってしまうのだ。未来を予見するかのような「ぼくの絵は世界中の美術館に展示されるだろう。」との言葉を残して……。

『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』
開催期間:2023年1月26日(木)~4月9日(日)
開催場所:東京都美術館
東京都台東区上野公園8-36
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル) 
開室時間:9時半~17時半 ※金曜日は20時まで。入室は閉室の30分前まで
休室日:月曜日
観覧料:一般¥2,200(税込) ※オンラインでの日時指定予約制
www.tobikan.jp
www.egonschiele2023.jp