さらば青春の光・森田哲矢主演 映画『大阪古着日和』ができるまで【短期集中連載VOL.1】 『東京古着日和』と光石研さんのこと

  • 文:谷山武士
  • コラージュ:花梨(étrenne)

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古着好きが集まってワチャワチャと楽しくつくったドラマ『東京古着日和』が、装いも新たに『大阪古着日和』となって劇場公開される。YouTube発の作品がよくぞ映画にまで、と感慨深くもあるけれど、正直、いまだに驚きのほうが先行している。奇跡、なんていうと大袈裟かもしれないが、やはり小さな奇跡の積み重ねでここまできたような気もする。

そもそも、『東京古着日和』で光石研さんが主役を務めてくださっていること自体が奇跡。光石さんにはじめて会った日の記憶はいまも鮮明だ。

場所は目黒にあるPen編集部。会議室のテーブルを挟んで向かいには天下の名バイプレイヤー、光石研。企画書が光石さんの手にわたる。光石さんは静かに紙をめくった。無言のまま文字を目で追う光石さん。時折、目を細めるその顔つきは、まるで映画『アウトレイジ』や『共喰い』のときのそれだ。会議室は静まりかえり、その場にいた誰もが光石さんの言葉を待った(ちょっと脚色しすぎちゃったかも)。光石さんは開口一番こうおっしゃった。

「役者の光石研と、素の光石研とが、行ったり来たりする。画面に映っている光石研がどっちの光石なのか、わからないようにしてみたら面白そうですよね」

そこには光石さんの飛び切りの破顔があった。企画書の内容をかいつまむと、光石さんが本人役で登場し、古着屋に行き、古着を選び、その様子をドラマ仕立てにするといったことだった。幾多の名作に出演する名優に、“ドラマっぽい映像に出てください”みたいなオファーをしたのだから、いまにして思えば冷や汗ものだ。

ちなみに『東京古着日和』は実在する古着屋を舞台に、本当に売っているものを光石さんに触れてもらっている。光石さんの、古着ないしお店とのファーストコンタクトの瞬間をカメラに収めたく、かつ用意されたセリフがあるシーンでも映像に“生の手触り”のようなものがほしくて、一発撮りを基本とした。リハーサルもできるだけ行わず、とにかくぶっつけ本番。撮影中の少々のトラブルは内包し、カメラを回し続けた。

このスタイルはいまでこそ『東京古着日和』チームの間で浸透しているが、当初は“こんな撮影方法で大丈夫なのか”と不安でしょうがなかった。

ところが当のご本人はまったく意に介さない様子で、カメラの前に立っていた。光石さんはそのシーンの意図や落としどころを誰よりも理解されていた。カメラの前にすっと立ち、この物語が目指すべきところへ、われわれ全員を牽引してくれた。買い物を心の底から楽しむ光石さんをカメラで追うだけで、ドラマっぽいなにかではなく、本物のドラマになったような気がする。

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映画『大阪古着日和』、2023年4月21日(金)公開決定!

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©2023 TT BOOKS & FILMS

出会ったばかりなのにこんなにも通じる!?共通の“好きなもの(=古着)”で会話が盛り上がる。そんな古着好きの様子を追いかけた3日間のストーリー。主役の哲矢は実在のお笑いコンビ「さらば青春の光」森田哲矢であり、架空の哲矢でもある。大阪の片隅で古着と恋と仕事の狭間でゆれ動く、芸人の姿をコメディタッチで描いた物語。
4月21日より渋谷ホワイトシネクイント、シネ・リーブル梅田ほかにて順次全国公開。

公式サイト: https://osakavintagediary.com/
公式Twitter:https://twitter.com/TYOvintagediary
公式Instagram:https://www.instagram.com/furugibiyori/

谷山武士

山口県生まれ。ドキュメンタリーからドラマ、ファッションから食と、ジャンルを横断して活躍。映像作品に『東京古着日和』、著書に『パイナップルぷるぷる本』『くるま』などがある。二玄社にて雑誌『NAVI』編集記者、雑誌『助六』編集長を経て、2008年に株式会社ブエノ(TT BOOKS & FILMS)を設立。現在は映像制作を中心に活動。雑誌や書籍の編集者出身という映像作家としては異色の経歴の持ち主。