エル・エル・ビーンのトートバッグは「氷の塊」を運ぶためにつくられたものがルーツ

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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2023年の夏に向けた新作がこのトートバッグ。モデル名が「Boat and Tote Stripe, Large」。キャンバスのボディに入ったブルーのボールドストライプがスポーティで精悍な印象を与える。ハンドルや底材に使われたベージュの色合いも洒落ている。35リットル。709g。H38×W43×D19cm。¥12,100/エル・エル・ビーン

「大人の名品図鑑」アウトドアバッグ編 #6

普段づかいや旅行用のバッグとしてアウトドアスポーツに出自を持つもの、あるいはアウトドアバッグで使われる素材やディテールを備えたものを使う人が圧倒的に多い。これらのバッグは機能重視で使いやすく、丈夫で長持ちする。加えて個性やファッション性まで備えたものが多い。今回はそんなアウトドアバッグ、アウトドアテイストでつくられたバッグの名品を集めてみた。

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1912年にアメリカの東側、メイン州でアウトドア愛好家のレオン・レオンウッド・ビーンが立ち上げたブランドがエル・エル・ビーン(L.L.Bean)だ。伝説のムック本、1975年発行の『Made in U.S.A.catalog』(読売新聞社)に続いて、76年に出版された『Made in U.S.A.-2 Scrapbook of America』(読売新聞社)が手元にある。巻頭で15ページに渡ってメイン州フリーポートにあるエル・エル・ビーンの旗艦店が取材されている。たぶんこれが日本で最初にエル・エル・ビーンを大きく紹介した記事ではないだろうか。

冒頭、このブランドを象徴するアイテムである「ビーン・ブーツ」の話が書かれている。ハンターだった創業者レオンが最初につくったのが上部に軽量のレザー、下部にゴムを採用したこの靴。「18年間メイン州の森を歩きまわったハンターがデザインした靴」をキャッチフレーズに売り込んだ。販売した100足のうち、90足のゴム底が剥がれて返品されたが、それらの靴を完全に修理して再び送り返したという記事が掲載されている。そして現在、送り返されてくるのは底の張り替えの依頼だけとも書かれている。

創業者が会社を立ち上げたときに掲げたゴールデンルールがある。それは「良い商品を適正な利潤で販売し、お客様と人間らしく接すれば、必ずお客様は私たちのところに戻ってくる」というもの。だからエル・エル・ビーンのすべての商品は“100%満足保証”が約束されている。つまり、購入した商品に満足できない場合は1年以内であれば返品・返金に応じてくれるということ。これこそエル・エル・ビーンのものづくりの基本をなすものに違いない(現在の返品ポリシーについて詳しくはこちらをご覧ください)。

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トートバッグの原点は「ビーンズ・アイス・キャリア」

「ビーン・ブーツ」と並ぶ、エル・エル・ビーンを代表するアイテムがトートバッグ(正式な名称はボート・アンド・トート・バッグ)だ。1944年に氷の塊を運ぶためにつくられた「ビーンズ・アイス・キャリア」がトートバッグの原点。

電気冷蔵庫が普及していなかった当時は、木製のボックスがその代わりをしていて、上段に氷を入れ、中のものを冷やしていた。メイン州では冬に凍った湖から氷を切り出し、氷を貯氷庫で保存していたので、氷を運ぶための道具として考案されたのがこのバッグ。氷のほかにも暖炉の薪や収穫した野菜などを運ぶためにも使われていたという。「ビーンズ・アイス・キャリア」の写真を見ると、カタチは現在のものよりスクエア。キャンバスも一色づかいで、ハンドルとバッグの縁と接する部分はリベットで留められていた。

このバッグが現在のようなカタチでカタログに再登場したのが1965年。ボートに乗るときに必要なものを詰めてどこにでも持ち運べるということから、「ボート・アンド・トート」と商品名にしたのはこのときだ。ハンドルに赤や青が使われるようになったのも、60年代からと言われている。

いまでもメイン州のブランズウィックにある自社工場で一つひとつ手づくりされるバッグは、縫製方法も昔ながらの手法だ。氷が溶けてもすぐに水がにじみ出ることがないことから採用されたキャンバス=帆布も昔と同じ。布の耳をそのまま使い、しつけや仮止めせずに職人たちが一気に縫い上げていく。縫い終わりは何度も返しミシンが施され、耐久性を高めている。

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無造作のようで、神経がゆき届いている

『MEN’S CLUB BOOKS 男の定番事典(服飾品)』(1987年発行 婦人画報社)でもこのトートバッグが取り上げられているが、「このバッグ、構造は単純だが、無造作に作っているわけではない。神経はゆき届いている」と書く。取手の長さが絶妙で、持ったときのバランスが良い。布製でありながら、空のまま床に置いても倒れないなどと、このバッグのデザインやつくりを絶賛する。足すところも、引くところもない、まさに実用品にして完成品のお手本ということだろう。

同ブランドが100周年に発行した『GURANTEED to LAST』(JIM GORMAN著 MELCHER MEDIA)には24オンスのキャンパス素材は「#4ダック」と呼ばれるもので、「アメリカではベルトコンベアーに使われる」とある。また底部分の側面を「V字」に縫い付けることも特徴で、それが「私たちの署名です」とも書かれている。確かにこの独特な縫い方にもオリジナリティを感じる。

前回の「大人の名品図鑑 ニット編」で紹介したノルウェージャンセーターと並んで、「このバッグがプレッピーのシンボルにもなった」とも記されている。前述の『男の定番事典』に「無造作のようで、神経がゆき届いている」とあるように、このトートバッグは隅々まで理由があってつくられているのだ。

最後にこの名品が登場する映画を紹介しておこう。2006年にアメリカで製作された『恋するレシピ〜理想のオトコの作り方』という作品がある。タイトルから予想できるようにいわゆるロマンティック・コメディで、主人公を演じるのはマシュー・マコノヒー(トリップ)と、サラ・ジェシカ・パーカー(ポーラ)の2人。トリップは35歳を過ぎても親と同居する、独身を謳歌する男性。そんな彼の行く末を心配した両親がカウンセラーのポーラに息子の独立を促してくれるよう依頼、ポーラは身分を隠してトリップに近づく……。

トリップは実はヨットのセールスマン、客のヨットの上でポーラを食事に誘うが、途中で船の持ち主に黙って使っていたことがバレてしまい、トリップは食材やグラスなどをバッグに詰めてその場から逃げ出す。この場面で使われたのが、エル・エル・ビーンのトートバッグ。ブルーのハンドルでたぶんLサイズと思われる。その出自から考えてもベストな小物(プロップ)選び。いろいろな場面で活躍できるのがこのトートバッグの特徴だが、船の上がいちばん似合うように見える。

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素材は24オンスのキャンバス。誕生以来、メイン州にあるエル・エル・ビーンの自社工場で製造されている。

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アルファベットの「V」を逆にしたトートバッグの底部分の処理。これもエル・エル・ビーンのトートバッグの目印のひとつ。

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商品購入時に本体に文字の刺繍=モノグラムを入れてくれるサービスがある。書体や文字の大きさだけでなく、色糸を選ぶこともできる。プレゼントにも最適だ。

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映画『恋するレシピ〜理想のオトコの作り方』にも登場したブルーハンドルの「Boat and Tote Bag, Open-Top」。オリジナルモデルらしい佇まいが感じられる。サイズが豊富に揃っているのもユーザーには嬉しく、目的や用途に合わせて好みのサイズを選べる。右:サイズは「ミディアム」。17リットル、539g、H30×W33×D15cm。¥9,790 中:サイズは「ラージ」。約35リットル、約709g、H38×W43×D19cm。¥10,890 左:女性の普段づかいに最適な「ミニ」。約270g、約H17×W24×D17cm。¥6,490/すべてエル・エル・ビーン

 

問い合わせ先/L.L.Beanカスタマーサービスセンター TEL:0422-79-9131

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