ノルウェーの職人たちが編む、エル・エル・ビーンの名品「ノルウェージャンセーター」

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
Share:
ネイビーブルーのボディに白の「バーズアイ」模様が編み込まれた「ノルウェージャンセーター」。寒さの厳しい北欧の国のデザインを取り入れたブランドのアイコン的セーター。高品質のウール100%を使用し、ノルウェーの職人により丁寧に手仕事で仕上げられている。¥23.100/エル・エル・ビーン

「大人の名品図鑑」ニット編 #3

ニットウェアは秋冬のスタイリングに彩りを与えてくれるアイテムだ。長く着用でき、着れば着るほど愛着が増すのが、ニットウェアの大きな魅力だろう。モノを大事にしようとするエコな時代、今後はニットウェアがさらに注目されることは必至だ。一度手に取ったら最後、虜になってしまうような世界のニット名品を集めてみた。

ポッドキャスト版を聴く(Spotify/Apple

「大人の名品図鑑 ニット編」の第2回で北欧デンマーク生まれのニットを紹介したが、1912年創業、アウトドアブランドの老舗のエル・エル・ビーン(L.L.Bean)にも北欧生まれのセーターがある。「ノルウェージャンセーター」だ。直訳すれば「ノルウェーのセーター」という意味。同ブランドのサイトを見ると、このセーターはビーン・ブーツ、ボート・アンド・トート・バッグと並ぶアイコン的なアイテムであると書かれている。

余談になるが、ファッションの世界には「ノルウェー」に関する言葉が多い。『男の服飾事典』(婦人画報社 1991年)をチェックすると、「ノーウィージャン・セーター」「ノーウィージャン・オックスフォード」「ノーウィージャン・ペザント・シューズ」「ノーウィージャン・モカシン」(ノーウィージャンという表記は原書のママ)などが挙がっている。ではこの事典では一般名詞としてリストされている「ノーウィージャン・セーター」を見てみよう。

「『ラップランド・セーター』『スカンジナビア・セーター』と同義語。スキーウェアとしての登場は1931年頃。38年からファッションとして着用されるようになった』と書かれている。ちなみに「ラップランド・セーター」は、北欧、とりわけノルウェーの漁師が古くから着ていてカラフルなバルキーセーターと同書にある。「スカンジナビア・セーター」も同様だ。ついでにほかの言葉も解説しておくと「ノーウィージャン・オックスフォード」は外羽根形式のUチップの靴のことで、「ノーウィージャン・モカシン」は、モカシン縫いの一種でノルウェー式の縫い方をさす言葉だ。お馴染みの靴「ローファー」もイギリスでは「ノーウィージャン・フィッシャーマン・シューズ」とか「ノーウィージャン・ペザント・シューズ」と呼ばれているとある。このように何故かファッションアイテムや製法などに、ノルウェーに由来する言葉が多い。

---fadeinPager---

「プレッピー会員証に等しい」エル・エル・ビーンのセーター

ではエル・エル・ビーンがアイコンと呼ばれるセーターをデザインしたのはいつ頃からだろうか。エル・エル・ビーンが創立100周年記念に発行した『GUARANTEED for LAST L.L.BEAN’s CENTURY of OUTFITTING AMERICA』(ジム・ゴーマン著 MELCHER MEDIA)にそのことが取り上げられている。

「ノルウェージャンセーター」はネイビーブルー色の身頃に白い「バーズアイ」と呼ばれる紋様が編み込まれているところがデザインのポイントになっているが、同書によれば、それはこのセーターを製作するノルウェーのサプライヤー(供給元、つまり工場のこと)がもっている最も古いセーターからのもので、その紋様は1800年代にまで遡ると書かれている。「バーズアイ」の紋様をもったセーターが同ブランドのカタログに掲載されたのは1965年のこと。「精錬されていないウールとレーヨンを80対20の割合でブレンドしたそのセーターは、暖かく、丈夫で、濃霧や霧に耐性があり、エル・エル・ビーンが求めるすべての基準を満たしていた」と書かれている。当時のプロダクトマネージャーを務めていたドン・ロジャースの談話まで掲載されている。当時セントルイスに住んでいたドンは10歳の誕生日に同ブランドのカタログを両親からもらい、その中から何でも選んでいいと言われ、このセーターを選んだ。「カタログの説明を読むとこのセーターだけで北極までトレッキングできると思われたからだ」とも書かれている。

実はこのセーター、1980年代にも大きく注目された。アメリカで発行された『オフィシャル・プレッピー・ハンドブック』(リサ・バーンバック編 宮原憲治訳 日本版は講談社刊)の中に登場し、「プレッピー会員証に等しい一品です。アウト・ドア志向の人間は、よく似たセーターを着ていますが、L.L.ビーンが本物です」と同書で写真付きで解説されている。プレッピースタイルに欠かせないセーターとして日本でも注目を集めたが、同ブランドが日本にショップを開いたのは平成に入ってから。このセーターを手に入れるのには本国からメールオーダーで取り寄せるしかない。私を含めて、そんな当時を知るファッション関係者の中には憧れの意味も含めて同ブランドを象徴するアイテムとしてこのセーターをピックアップする人も多い。前述の『GUARANTEED for LAST L.L.BEAN’s CENTURY〜』には「ノルウェージャンセーターの売り上げは1980年代初頭の数年間に急増した」と書かれている。

こんなストーリーをもった「ノルウェージャンセーター」だが、驚くことに現在も生まれ故郷のノルウェーの職人たちによって編まれている。同書にはこの辺りの事情も詳しく書かれていて1990年代に生産地がノルウェーから別の国に移され、一時生産がストップするまでになったが、2009年に入って、ノルウェーでこのセーターを生産していたサプライヤーに再度依頼して、同じ紋様が入ったセーターが生産できるようになったらしい。しかもウールの紡績の進歩によって、強度を犠牲にすることなく、ウール100%で、元のセーターと同じく軽くて厚みがあり、暖かく、水を弾いてくれる本物の「ノルウェージャンセーター」をつくり上げたと書かれている。2009年にカタログ掲載が復活したが、アメリカでは「購入するのに数ヶ月待ち」という状態が続いたらしい。

そんなドラマチックなストーリーをもって復活した「ノルウェージャンセーター」。まさに本物中の本物だ。エル・エル・ビーン好き、アメカジ好き、セーター好きならずとも、一度は袖を通してみる価値があるだろう。

---fadeinPager---
6.jpg
エル・エル・ビーンは1912年にアメリカ東部メイン州で創業した歴史あるアウトドアブランド。織りネームの下に付いた品質表示のタグには「メイド・イン・ノルウェー」の文字が入っている。

---fadeinPager---

7.jpg
特徴的な編み柄。遠目に見ると鳥の目のように見えることから「バーズアイ」と名付けられた紋様だ。

---fadeinPager---

5.jpg
同じ「ノルウェージャンセーター」でもカラーを変えると違った雰囲気を持つ。広げているのがダークチャコールとレッドの組み合わせ。畳んでいるのがグリーンとネイビーの組み合わせ。いずれもウール100%で、ノルウェーで生産されている。各¥23,100/エル・エル・ビーン

問い合わせ先/エル・エル・ビーンカスタマーサービスセンター TEL:0422-79-9131

https://www.llbean.co.jp/

---fadeinPager---