オーケストラの魅力を静と動の両面から放つ傑作

  • 文:小室敬幸(音楽ライター)

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【Penが選んだ、今月の音楽】
『カムイチカプ交響曲/チカプ』

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1953年、東京都生まれ。作曲家。81年に「朱鷺によせる哀歌」でデビュー。以後、調性やメロディを復活させた「新(世紀末)抒情主義」および「現代音楽撲滅運動」を主唱。2009年に映画『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』の作曲者として日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。

2023年3月に古希を迎える吉松隆は、12年の大河ドラマ『平清盛』などの少数の例外を除けば、若い頃からストイックに“現代的なクラシック音楽”をつくり続けてきた作曲家である。そんな人は他にもいるだろうと思うかもしれないが、さにあらず。彼が作曲を始めた1970年代は前衛的な現代音楽の最盛期。不協和音で小難しい音楽を創作するしか選択肢がなかったからだ。

もちろん、なかには潮流に抗って保守的なスタイルを貫いた作曲家たちもいたが、吉松はそうした人たちにも共感ができなかった。なぜなら、60年代にビートルズが前衛音楽をロックに取り入れてセンセーショナルな成功を収めていたのを自然に受け入れていた世代でもあったから。自らを「ポスト・ビートルズ」世代と自認している吉松と似たようなスタンスの作曲家は他にいなかったのだ。

突如として英国の音楽レーベル、シャンドスの社長に気に入られ、1995~2004年にかけてイギリスの名門オケで録音されたこともあったが、ここ数年は話題の若手指揮者・原田慶太楼が集中的に作品を取り上げ、作品像を刷新する見事な演奏を聴かせ始めたことで、いままさに吉松は改めて注目されている。本盤もその一環で生まれた。

第3楽章は柴田恭兵が出演したロックミュージカルのために作曲したダンスチューンを素材にしている「カムイチカプ交響曲」だ。初演当時、批判されるどころか無視扱いだったと吉松は振り返る。だが原田の手にかかれば、日本を代表する交響曲としての風格が漂う。それでいて小難しくなく、オーケストラの魅力が静と動の両側面から存分に堪能できるので、エンタメ性も非常に高い。第5楽章の美しさは筆舌に尽くし難く、日本のクラシックの中で最も感動的な音楽といえる。

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吉松 隆 日本コロムビア COCQ-85599 ¥3,300

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※この記事はPen 2023年2月号より再編集した記事です。