現代音楽の大家スティーヴ・ライヒが見せる、オーケストラを用いた新境地

  • 文:小室敬幸(音楽ライター)

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【Penが選んだ、今月の音楽】
『ランナー』『 アンサンブルと管弦楽のための音楽』

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1936年、ニューヨーク生まれ。90年に『ディファレント・トレインズ』がグラミー賞最優秀コンテンポラリー・ミュージック賞を受賞した。99年、『18人の音楽家のための音楽』で2度目のグラミーを受賞。2008年には『ダニエル・ヴァリエーションズ』の日本初演を行っている。photo: Ⓒ Jeremy Liebman

いわゆるクラシック音楽の歴史の中で、第二次世界大戦後につくられた前衛的な作品は「現代音楽」と呼ばれている。簡単に言えば現代アートの音楽版なのだが、美術分野に比べると認知度が低く、少なくとも日本では一部のマニアのための音楽となってしまっているのが現状だ。

そんな状況の中、例外的な存在と言えるのが御年86歳の作曲家スティーヴ・ライヒである。若い頃に熱狂したジョン・コルトレーンからも影響を受けているミニマル・ミュージック(少ない素材を反復する長大な音楽)で独自の作風を確立。パット・メセニーやレディオヘッドとの交流によって新作が生まれたり、デヴィッド・ボウイやビョークが愛聴盤にライヒのアルバムを挙げたり、テクノをはじめ電子音楽(たとえばレイ・ハラカミやコーネリアス)に影響を与えたりと、ポップカルチャーにも大きな足跡を残しているのだ。

驚くべきことにいまも1~2年に1作のペースで、ライヒは新たなアイデアを盛り込んだ新作を生み出している。このアルバムに収録されたのは80歳と82歳の年に完成した姉妹作だ。2016年の『ランナー』は英国を代表する振付家ウェイン・マクレガーと英国ロイヤル・バレエ団のために作曲。和音や旋律はライヒの王道路線なので一聴しただけでは、旧作の焼き直しに思われるかもしれないが、BPM(1分間の拍数)100 のまま速度感を変えるという新コンセプトにより、後半にいくほど新鮮な印象に。18年の『アンサンブルと管弦楽のための音楽』では、ライヒが長らく嫌ってきたオーケストラを自らの好みに沿ってエレキベースを加え再編成。これまでのライヒ作品にはなかった明晰さと劇的なサウンドの両立で新境地を開拓している。80歳を過ぎて最高傑作のひとつと呼べる作品を生み出してしまった。

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スティーヴ・ライヒ ワーナーミュージック・ジャパン 7559.791018 ¥2,640(予定価格) 12/2発売中

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※この記事はPen 2022年12月号より再編集した記事です。