半裸男性が布ロールを手にランウェイを闊歩! JWアンダーソンのショーがネットで話題

  • 文:一史
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JWアンダーソン 2023-24年秋冬ファッションショーのファーストルック。

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ファーストルックに続く2体めのルック。

パリやミラノで開催されるファッションショーでは、ときに発表された服以上に演出が話題を呼ぶ。もちろんブランド側もバズることを意図してセンセーショナルなアプローチを行っている。見る人を困惑させるスタイルも、彼らはわかった上で突きつけてくるのだ。

1月に集中する世界のメンズコレクションのうちいまネット民を騒がせているのが、北アイルランド出身のジョナサン・アンダーソンがデザインするJW(ジェイダブリュー)アンダーソン。パンツ一枚でブーツを履いた2名の男性が、原反(げんたん)と呼ばれる生地のロールを手に抱えてショーのオープニングに登場した。ミラノメンズコレクションでの一幕である。奇妙なこのルックがネット上で拡散し、「服をつくるのが間に合わず、裸で布を持たされてる」とジョークを言うコメントが出るほどの注目度の高さだ。

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この演出を理解するために、2つのポイントに着目したい。ひとつはジョナサンはアート志向のデザイナーで、服もショーも常にコンセプチュアルであること。もうひとつは、彼自身が公言するように性的指向がゲイであることだ。まずアートなアプローチから考えてみよう。半裸のルックが示すものを日本でのJWアンダーソンの広報担当者に尋ねてみた。答えは、「ジョナサン・アンダーソン氏は、白紙状態の一枚の布(布のロール)からすべてが始まるということを表現したかったのです」とのこと。公式コメントではないが、この言葉が理解の手助けになる。ジョナサンは10年以上に渡りジェンダーレスで性別を定義しない衣服のあり方を提案し続けてきた。男女が服を交換(共有)できる新しいファッションだ。今回の演出は自身のコレクションを再定義する表明と考えられる。実際、このショーには彼の初期代表作であるフリルつきショートパンツも再登場した。歴史的に女性向けとされてきた服を、“女装”でないアプローチで男性に着せるのがジョナサンのクリエイティブだ。

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若きジョナサンを一気にスターダムに押し上げ、ファッション界にジェンダーレストレンドを生み出したフリルつきショートパンツが再登場(素材は別)。

ここにもうひとつの着目点である、ゲイカルチャーやゲイの美意識が絡んでくる。ジョナサンは20年にロンドンに自身の店を初めて構えたとき、ソーホー地区を選んだ。数軒先にはソーホーのゲイシーンで確固たる地位を築くとされる老舗ゲイクラブ&バーの「ヴィレッジ ソーホー」をはじめ、近隣にセックス関連の店が点在するエリアだ。20年3月の「イギリス版ヴォーグ」のインタビュー記事「JW Anderson’s First (Corner) Shop Is Your New Mood-Boosting Soho Pit-Stop」においてジョナサンは、「過去10年間、私たちはクィアのアーティストやクィアの慈善団体と多くの仕事をしてきました」と語っている。男性の身体の一部を型どったアクセサリーを定番展開するほどの彼の世界観には、セクシュアルな要素が息づく。ちなみにパリコレ、ミラノコレでショーを行う規模の海外メンズデザイナーは大半がゲイとされる。メンズコレクションではよく唐突な印象で半裸や水着の男性が登場するが、彼らの指向を知っていると合点がいくだろう。

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ショーに来場した俳優キット・コナー(左)と、ジョナサン・アンダーソン(右)。

SNS時代のファッションショーは、ブランドの意志を世界中に示す絶好の機会。新しさは服だけでなく人物像の提案にもある。現在のファッション傾向である男女の違いのないジェンダーレススタイルも、ジョナサンのショーがなかったら広まるのにもっと時間が掛かったかもしれない。エクストリームに振り切るショー演出が、世の中を刺激して動かしていく。