「驚異的かつ前例ない」宇宙で発電しマイクロ波で地上へ送電...折り紙に着想のプロジェクト、試作機打ち上げ

  • 文:青葉やまと
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宇宙で太陽光発電を収集し、マイクロ波でエネルギーを地球に送信する...... Credit: Caltech

<宇宙で発電し、地上へ送電する。SF世界のようなプロジェクトのプロトタイプが打ち上げられる>

宇宙空間で効率良くソーラー発電を行い、得られた電力をマイクロ波の形で地上に届ける。そんな発電方式の研究が進んでいる。課題のひとつであるパネルの小型化は、折り紙に着想を得た技術で解決したようだ。

現在は地上でのソーラー発電が普及しているが、効率という意味では限界がある。曇りや雨などの天候に出力が左右されやすいほか、夜間はほぼ発電ができない。

そこで、雲を突き抜けた宇宙空間でソーラー発電を実施し、常時フルパワーで発電・送電する技術に期待が寄せられている。科学ニュースサイトの「サイテック・デイリー」は、地上と比較して最大8倍の発電効率が期待できるとしている。

得られた電力をマイクロ波で送電することから、この方式は「マイクロ波発電」または「宇宙太陽光発電」と呼ばれる。マイクロ波発電は人気都市シミュレーションゲームの「シムシティ」でも、未来の発電技術として登場していた。

研究が実を結べば、未来の夢物語だった技術が実現することになる。今年12月までにプロトタイプが完成し、宇宙空間への打ち上げが実施される予定だ。

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3km四方の広大な発電施設、宇宙空間に展開

研究を行なっているのは、米カリフォルニア工科大学(カルテック)だ。工学・応用科学学科の研究者であるハリー・アトウォーター氏らがプロジェクトを主導している。

研究チームは発電システムの基本パーツとして、約10センチ四方のソーラーパネルのセルを想定している。地上で一般的に使われている太陽発電パネルに採用されているのとほぼ同じ大きさのセルだ。

これを数十万枚という規模でつなぎ、およそ3km四方の巨大パネルを完成させる。土地に限りのない宇宙空間であることを生かし、広大な集光面を確保する計画だ。

地上の昼夜を問わず発電を続け、得られた電力はマイクロ波に変換して地球にワイヤレス送電する。地上側では受信施設があれば電力を得られるため、送電網から切り離された遠隔地への送電手段としても期待されている。

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クリーンな電力を大胆な手法で実現へ

サイテック・デイリーはこの取り組みについて、「かつてSFと考えられていた」構想が「いまや現実に近づいている」と述べている。

アトウォーター氏はサイテック・デイリーに対し、「これは驚異的かつ前例のないプロジェクトです」と述べ、特異性を強調する。クリーンな電力の確保という地球規模の課題を解決するには、相応に大胆な取り組みが必要となる、アトウォーター氏は考えているようだ。

「クリーンで安価なエネルギーを世界に届けることは、この時代における最も重要な課題のひとつとなっています。それに取り組むために必要な大胆さと野心を示す、良い例となるでしょう」

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パネルの小型化、折り紙からインスピレーションを得る

実現への課題は複数あった。そのひとつが、発電パネルの小型化だ。現在地上でソーラー発電に用いられているセルは、単位面積あたりの質量も発電効率も、プロジェクトが目標としている数値に届くものではなかった。

研究に参加しているアリ・ハジミリ研究員は、「一連の実証から私たちが学んだことがらのひとつとして、太陽光発電の手法を根本的に変えなければならないことがわかりました」と振り返る。これまで宇宙空間でも用いられたことのない新たなセルを、チームは開発した。

だが、打ち上げへの課題は残った。打ち上げロケットに搭載可能なサイズには制限があるため、巨大なパネルをそのまま載せることは到底できない。

そこでチームが注目したのが、折り紙の技法だ。研究チームのセルジオ・ペレグリノ氏はサイテック・デイリーに対し、次のように語っている。

「折り紙にインスパイアされた革新的な折り畳みの技術の採用により、打ち上げられる巨大な機体の容積を大幅に削減することができました。かなり密にパッケージングされているので、ほぼ空き空間がない状態です」

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軽量構造の発電施設、今後は耐久性の検証などが課題に

研究チームでは引き続き、実用化への挑戦を続けている。アトウォーター氏、ハジミリ氏、ペレグリノ氏の3名がそれぞれ、太陽光発電、構造設計、マイクロ波送電という得意分野を持ち寄ることで、夢だと思われたプロジェクトは実現へ一気に近づいたという。

打ち上げ可能な質量に収めるため、チームではマイクロ波送電用の構造部などに、宇宙空間でまだ実績のないフレキシブルで軽量な素材を使用している。こうした方式の耐久性を検証していくのも今後の重要な課題だ。

ゲーム「シムシティ」の世界では、送電ビームが地上の受信ディッシュから外れてしまうと大事故に発展する。高出力の電波を安全にいかに送信するかも課題のひとつとなるかもしれない。

かつてSF物語と考えられていた安価でクリーンなエネルギーの普及に向け、重要なマイルストーンとなる12月の打ち上げに期待が寄せられている。

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Space Solar Power Project

青葉やまと

フリーライター・翻訳者。都内大手メーカー系システム会社での勤務を経て、2010年に文筆業に転身。文化・テクノロジー分野を中心に、複数のメディアで執筆中。本業の傍ら海外で開かれるカンファレンスの運営にも携わっている。

※この記事はNewsweek 日本版からの転載です。

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