“伝わる文章”の書き方とは?人気作家・津村記久子が具体的に指南

  • 文:辻山良雄(書店「Title」店主)

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【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『苦手から始める作文教室 文章が書けたらいいことはある?』

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津村記久子 著 筑摩書房 ¥1,210

筆者が本の世界にいるからだろうか、ここ最近、特に書くことが本職ではない人から、「何か書いている」「書くことについて興味がある」といった話をよく聞くようになった。本書は、現役の人気作家、津村記久子による若い人に向けて書かれた作文教室。もう若くはなくても、何か書きたいと願い、その入口に立っている人にとってもありがたい一冊だ。

人に伝わる文章とは、何をどのようにして書けばよいのか。ときに優しく、ときにはユーモラスに語られていても、本書の内容は具体的。書き始めをどうするか、メモをストックすることの大切さなど、文章を書く時の基本にある考え方が余すところなく説かれている。

おもしろい文章とは何だろう。人によりその答えはさまざまなのかもしれないが、本書では「『この人は本当にこう感じているんだな』と思えた場合、そういう文章はだいたいおもしろいです」と書いている。そんなの当たり前じゃないかと思うかもしれない。しかしバズりたいと余計な欲にとりつかれ、格好をつけて知らない言葉を使ってみるなど、我々はこの「本当を書く」ことから、いつの間にか遠ざかっている。簡単に見えるがなかなかできないことなので、まずは試してみてほしい。

また津村はこのようにも書く。「何かをおもしろい、好きだと思って、その理由を明日の自分に説明しているうちに、自分がどういう人間なのかということが作られていくようにわたしは思います」

私はこの一文を読み、とても信用がおける本だと思った。書けば書くほど私は私になっていく。それは、書くことのいちばんと言ってもよい醍醐味だ。役に立つ/立たないではなく、書くことは書いたその人、引いてはその人生を豊かにするのである。

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※この記事はPen 2023年1月号より再編集した記事です。

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【画像】【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『苦手から始める作文教室 文章が書けたらいいことはある?』

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津村記久子 著 筑摩書房 ¥1,210